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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第2章

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慰霊の儀式


儀式のために、今日は聖法衣のクリーム色のエンパイアドレスに同色のローブを羽織っている。あまり華美にするのもだめかなと思って、髪はシンプルにねじって留めるハーフアップにしてもらった。

銀の月桂冠のアクセサリーをつけてもらったので、女神感満載である。


豪華なアプローチを通って聖堂に向かうと、

聖堂前には大勢の司祭達がいてみんな頭を下げて礼をとった状態で待ち構えていた。


その中央にセフィロス様の姿を認めて足が止まってしまう。


「リリ、大丈夫だ」


シェイド様の低い優しい声が耳元を掠める。


「っ、セフィロス、さま……」


「リリ様……お久しぶりにございます。本日は浄化の儀式に立ち会える事、光栄に思います」


「っ、……はい」


泣きたくなるのは何故だろう。


「後ほど……お時間を頂けますか」


セフィロス様も泣き笑いのお顔になって、ヘーゼルの瞳が悲しく揺れている。


「はい……」


大切にしてもらったと思う。

籠の鳥でも、心地良さはたしかにあったのだから。

籠に入れることで、私を守ろうとしていたのはわかってる。

私に会う人をコントロールしていた事も、そのおかげでテオ君とアラン君に会えたのだから。

けれどそこにずっと居ることはできない。

真綿で首を絞められているのに、絞められている事に気付けない。


シェイド様の隊服の裾をつい掴んでしまう。


「眠らせてあるとはいえ危険なため騎士団の指示に従って頂きたい。聖魔力のお力にまだ不慣れなリリ様の体調を優先する。ご承知おき頂く」


敬語を喋るシェイド様が久しぶりで、場の空気もピリピリしている。

そうだった。シェイドさま、セフィロス様の事嫌いだった!


なんだかなつかしくて可笑しくなってしまって、緊張が解けた様に思う。


「セフィロス様、中へ案内して頂けますか?」


「っ…………はい。ではこちらへ」


グラセン教会の聖堂は、水の魔法を使って形作られた神々の像が中央の台座上にあり、水は流れているのに彫像の様に精密に細部まで表現されていて、息を呑むほど美しい。


水の流れるサラサラとした音が心地よくホールに響き、水色を基調とした淡い色合いのステンドグラスが天井一面に広がっていた。


「姫様!」


アラン君が奥からかけて来て騎士の礼をとってくれる。


「姫様、体調はいかがですか?魔法は慣れないとキツイと思います。ゆっくりやりましょうね。テオからもくれぐれも無理をさせない様釘を刺されております!」


「ふふふ、ありがとう。帰ったらテオ君とおじい様とお茶会の約束なの。アラン君も終わったら是非来てね」


「必ず伺います!!!」


ニカっと笑って答えるアラン君は場を和ませる天才だと思う。

シェイド様とセフィロス様の間で、超いつも通り。


「人型魔獣二十七体、魔熱の重傷患者一名、小型•中型•大型の魔獣それぞれ一体ずつ睡眠魔法で眠らせてあります!イレイの花は既に献花してありますが、花束はいかがいたしますか?」


「花束は私が作るね。リボンも包み紙も沢山持って来たの!」


「こちらです!獣型の魔獣は檻の中ですのでご安心くださいね!」


アラン君につづいて聖堂の奥へと入っていくと、普段は長椅子があるであろう場所に敷物が敷かれ、人型の魔獣と一人の男性が寝かされていた。


通路から離れた壁の方に、二つの檻が設置してあり、中には大きな豹のような魔獣と、キツネに似た魔獣が鎖に繋がれていて、その隣に可愛らしい鳥籠が置かれ、小さな小鳥の魔獣が眠っていた。


人型の魔獣だけではないことに若干の不安を覚えてシェイド様を見ると、頭をポンポンされて笑いかけてくれた。


「緊張しなくていい。リリの為にも情報が欲しかっただけだ。全部浄化して欲しいわけじゃない」


「あの、人型魔獣と魔熱の患者さんは出来ると思います……けど、動物は出来ない……かも……しれません」


「何でそう思う」


「イレイの花が……光ってない……ので」


みんなには見えていないイレイの花に灯篭(とうろう)のように灯るオレンジの光の事を、信じてもらえる自信がない。


恐る恐るシェイド様を見上げると、アレックスさんとクリストフさんの二人とアイコンタクトをしているのが分かって不安になる。


セフィロス様さえ驚いたお顔をしている。


「姫様!花束、お怪我をしたら大変ですから僕もお手伝いいたしますね!素敵なのを作りましょう!こちらへどうぞ!」


アラン君はやっぱりテオ君と兄弟だなぁ。

私が不安そうにしていると同じような声の掛け方をしてくれる。


アラン君がエスコートの手を出してくれたのでシェイド様の手から離れてアラン君の方にあゆみよったけれど、シェイド様と騎士団の四人は何やら話し始めていて不穏な感じだった。


「アラン君、私、何かまずい事言ったかな……?」


「いえ?姫様がすごいって事が分かっただけですよ?大丈夫です!」


アラン君の言葉に少し気を取り直して花束を作る。

透かしが入った和紙に似た紙で包み、金色の刺繍が入ったシルクのリボンで留める。


————「ゔぅあ゛ぁぁぁぁああああ!!!」


急に叫び声が聞こえたので、聖堂を見渡すと、魔熱患者がうめいて大声を出して暴れていた。

手枷と足枷のせいでその場から動いてはいないけれど、猿ぐつわまで噛まされていて剣呑な様子に怯んでしまう。


一瞬でアレックスさんが跳躍し、上空でグルンと回転して着地の勢いのまま患者の首元に剣の(つか)を押し込んでいた。その一瞬の間にアラン君が剣を抜いて私を庇う様に前に出ている。


患者の胸元にのってしゃがんだアレックスさんが手から魔法陣を出すと、意識を手放した様でバタッとその場で動かなくなった。


「姫様、驚かせてしまってすいません。魔熱患者は興奮している事が多いので、睡眠魔法が効きづらいのです」


「あ、イレイの花が……」

魔熱患者のイレイの花が床に落ちてしまっているのが気になって近づくと、アレックスさんが一気に警戒を強めたのが分かった。

警戒したまま、胸の上から降りて、なおも何かの魔法陣を出して魔法をかけ続けてくれている。


持っていた花束を彼の胸に置き、跪いて手枷をされた手をとり私の額に付けて祈る。


——魔の命に、感謝と救いを。


魔にも命と魂があるのだと思う。完全な魂を欲して人に宿る。

人には善の面も悪の面も一人一人に必ずあるのだから。



イレイの花の灯りと黒いモヤが混ざってキラキラと上空へあがり消えていく。

周りの人たちが息を呑んで見守っているのがわかった。

 

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