人型魔獣
「あ、あぁ……」
「ね?意味わからんぐらい強いでしょ~?おみおみじゃ話にもならないよ。押されてる様に見えてびっくりしちゃったね~、あれ、わざとだからね!」
「予想してたとは言え、面倒なことになったな。クレッグ、正確な数はわかるか?」
アレックスと呼ばれていた、焦茶の短髪のお兄さんがクレッグ君に聞く。
「ん~、三百ちょいってとこ。どーすんのこれ?予想よりだいぶ多いよ~」
「そろそろシェイドがキレるな。橘がリリ様の手を取った時点でキレるのを我慢していた。二百ぐらい減らせるだろ」
「わ~お、妖精ちゃん、やっぱりおてて繋いだ事、黙ってようね~!」
「お前……」
「任務の一環だよぉ~!」
「シェイドの攻撃の余波からリリ様を守る。俺もこの上から結界を張るから、魔獣は右手だけでなんとかしろ」
「鬼だね~」
『団長の攻撃が終わり次第第一特殊部隊のみ突入!人型魔獣は殺すな!リリ様のお力で弱まっていくはず、睡眠•気絶のどちらかのみ許可する!情報部隊と魔法部隊、対襲撃部隊は橘邸を取り囲め。一体も外に出すな!上空からもだ!』
アレックスさんがどこかに魔法で指示を飛ばした直後にぶわわっと空気が膨張した様な気がして、慌ててシェイド様をみると、剣を横に構えて薙ぎ払う体勢をとって魔獣の中央に立っていた。
構えた腕でお顔の下半分が隠れているので表情まではわからないけれど、瞳孔が開き切った琥珀色の瞳が静かに前を見据えていて誰一人動けないでいる。
ザンッッッ!!と空を切る音がして、二重の結界がビリビリ振動しているのが分かった。
風圧なのか重力なのか、体感した事のない様な圧力を感じて思わず目をつぶる。
「はっ、すっげ。だいたい二百五十体の意識がないね~」
「残り五十か。アラン!第一特殊部隊をおまえに付ける!上手く使え!」
「ええぇぇぇ!?———————ハッ!!!!」
アラン君の困惑と承知の声を聞いてからアレックスさんは二個目の私の結界を解いて私の前で魔獣に向けて剣を構えた。
「アレックスさんが専属でつくなら僕もうあんまりやる事ないな~、お話でもして待ってよっか妖精ちゃん!」
「お、臣君はどうなったの?」
「ん~おみおみだった物はね~、今は入れ物だけになってるかな~。おみおみの中身が全部外にでちゃったからね~」
「臣君は——魔族だった……の?」
「そうだね~、僕らも初めて見たよ~。こっちに来る時自死してるし、妖精ちゃんの骨壷抱いてってやつもよっぽど理に反してたんだろうね~」
「こ、この人たち、まだ生きてるのに、ど、どうなるの?」
「これから決めるよ~色々試してダメなら可哀想だけど処分かな~?あぁ、そうするとおみおみが復活するのか~。けど団長が何とかするっしょ。あの人意味不明なくらい強いしさ~」
「シェイドさま、こっちに来てくれてる……」
「ヒィ!こっわ!団長こっわ!魔王じゃない?あの顔!!戦闘狂の顔から戻ってない!!妖精ちゃん、逃げる!?」
クレッグ君の声が耳に入らない。足が震えて立ち上がれないけれど、シェイド様に向かって両手を伸ばす。
「リリ」
「っ、シェイド、様」
抱き上げられて、安心してしまって涙がぼろぼろ出てくる。シェイド様の首に腕を回してグリグリおでこをつける。
「アレックス、クレッグ、ここはもういい。おまえらも行け」
「は~い!」
「分かった、まだ終わってないぞシェイド」
「ああ」
魔獣をとらえても、その後の事があるからだろう。けれどもう何にも考えられない。
「迎えにくるのがいつも遅くなるな、俺は」
「っ~~~~~シェイド様!シェイド様!」
「何もされなかったか?」
「っはい……クレッグ君が、助けてくれて……」
「そうか」
「うぅっ、ぐすっ、ずっとお会いしたくて」
「ああ、俺もだよ」
「代わり、なんかじゃ、無いって、伝え、たくてっ」
子どもの様にしゃくりあげてしまって上手く言葉が紡げない。
「分かってる」
優しいキスが降ってきて目を閉じる。
戦闘の最中なのに、この腕の中は安心してしまう。
「先にリリを公爵邸に戻す。俺はもう少しやる事があるから休んでろ」
わがままを言っていい場面では無いのは分かっているのに、いやいやと首を振ってしがみついてしまう。
ふいに周りの音が静かになって、見渡すと全ての人型魔獣が地面に伸びていて、戦闘が終わっていた。
「足を怪我してるだろ、早く帰って治療してもらおうな」
「足……?」
自分の足を見ると、足袋のままで地面を歩き回ったからか、つま先にうっすら血が滲んでいた。
「あ、靴は、用意してもらえなくて……」
そういうと、シェイド様は心底辛そうに私をギュッと抱きしめた。




