◆円卓会議◆
「領地の端に四箇所、毎回同じ場所だ。人型という事は分かっているが、絶命すると消滅するため詳細がわからん、シェイド、お前が出るほどの脅威ではないぞ。リリ様のおかげか出現と同時に弱っていくそうだ」
一つ下の従兄弟のアレックスの言葉に眉間に更に皺がよるのがわかる。
騎士団詰所の会議室に、グラセン騎士団のむさ苦しい男ばかりがひしめいて辟易する。切実にリリに会いたい。
「公爵邸の防御結界が破られてる。全く同じじゃないが、人型魔獣と似た気配を感じた。リリの近くに出る理由が分からん」
「へ~団長の作ったあのえっぐい防御結界、破られたの?命既にないんじゃない?そいつ」
「ワハハ、シェイド、お前いつからそんなに過保護になった?男は女で変わるもんだなぁ!叔父さんは嬉しいぞ!!」
「…………チッ」
「クレッグもヴァルド殿もその辺で。団長、リリ嬢のご様子は?」
クリストフの言葉で愛しい婚約者の顔を思い出す。
「侵入者を見てはいない様だった。その後も特に変わった事は無いと報告を受けてる」
「リリ様への護衛を付けるか?」
アレックスの提案に頷きかけるが、リリが嫌がるのは目に見えている。監視されたり近くに常に従えたりするのを極端に嫌がる。
「いや、公爵邸の警備を強化してくれ。グラセン騎士団から三個隊出せ」
「三個隊もか?弱い奴ら相手に?」
叔父であり、グラセン騎士団の副団長でもあるヴァルドが信じられないという顔で答える。
「弱い奴らは囮だろ。本命はリリを狙ってる」
「父上、シェイドの防御結界を破ったとなれば我らにとって脅威です。公爵邸外周に三個隊、内部に二個隊でもよろしいかと」
「好きにしろ。参謀はおまえだし、団長はシェイドだ。俺はしがない中間管理職のおじさんだよ!」
「クリフ、一箇所何も出てない箇所は何だ?」
「不思議な建築様式の診療所が出来たそうですよ。
どんな病でも治すそうですが一日に一人しか治療はうけないそうで、一番高い治療費を払ったものに施術する方針の様ですね。等間隔に出ている魔がここだけは出ていません。他は人里では無いので、沢山の人が苦手なのかもしれません。ここは人々でごった返しているそうなので」
「へぇ、俺の土地に変なのが来たな。気にかかる、調査しとけ」
「団長、以前の様に私が姫様の護衛につきましょうか?」
アランがおずおずと提案するが俺は首を振る。
「急にまたお前が付くと、カイウスの野郎を思い出すだろ。不安がるのは目に見えてる」
「わ~お、聞きしに勝る溺愛~!早く僕にも会わせてよ!僕の可愛さに団長から乗り換えてくれないかなぁ!!」
「無理だとおもいますよ、クレッグ」
「無理だと思います。クレッグさん……」
クレッグの馬鹿なセリフにクリフとアランが真面目にコメントを返していて気が抜ける。
「はぁ、叔父上は領地端の人型魔を生け取りにしてきてくれ。詳細を調べたい」
「了解、おじさんも頑張っちゃうから姫ちゃんにあわせてくれ!!!!めっちゃ可愛いんだろ!!?男やもめにむっつりな息子しかいないんだ!!娘が欲しかった!!!!」
「…………チッ……どいつもこいつも。着替えてくる」
◇◆◇
臣君の事が頭から離れない。
けれど落ち込んでいるとみんなが心配するので表には出さない様にしている。
臣君はシェイド様の貼った防御壁を破って来た。魔法も使えるみたいだった。
秀才のあの人にできない事なんて何も無い。
一週間後に私を連れていくことも。
シェイド様は今日もお帰りになっていない。
眠れなくて、シェイド様に会いたくて、寝返りばかり打っている。
少しでも近くに行きたくて、内扉の鍵を開けてみる。
初めて入ったシェイド様の部屋はすっごくシンプルで片付いていてシェイド様の痕跡が無い。
ベットに脱ぎっぱなしのシャツを見つけて抱きしめる。
シェイドさまの匂いに包まれて寝たい。
◇◆◇
「なッッ!!??」
俺のベットで妖精が眠っている。
ブカブカな俺のシャツを着て、クマを抱いて。
「~~~~ッッ!!!」
自室への移転枠に入った直後に後退りで会議室に戻ってその場にしゃがみ込んだ俺を、全員が訝しげに見ている。
「団長、何事ですか」
「~~~~~この世の最終兵器が俺の部屋にいた」
「リリ嬢ですか?会えてよかったじゃないですか」
「いや、寝てた。……………………俺のシャツ着て」
アランとクレッグが鼻血を吹いて、アレックスが真っ赤になって俯く。
「おっとーー?お前らには刺激がつよいか!俺も久々に娼館にいこっかなー!」
「父上、子供の前で言うセリフでは無いかと。母上が悲しみますよ」
「俺の息子が真面目!!俺は亡き妻一筋だぞ!だが娼館はいかせてくれ!!」
「……………………移糸画…………やった事ねぇけどガキの時に何回か見てるからできるだろ…………ちょっといってくるわ」
「え、魔法って見ただけでコピーできるものでしたっけ、副長」
「クレッグ、あの人は企画外なんですよそろそろ覚えて下さい」
「戻ってこない方に6000バイルかけるぞ!ワハハハハ!!」
「団長はリリ嬢を溺愛してますからね。ご自分を刺してでもお戻りになりますよ。ほら、もうお戻りです。団長、大丈夫ですか?」
「聞くな。俺の理性は瀕死だ。俺の婚約者が可愛すぎて俺が死ぬ」
壁際のソファーにどかっと腰を下ろした俺に、全員が期待の眼差しを向けてくる。
「殺すぞ。見せるわけねぇだろ」
「わーお、やっぱり魔法コピー出来ちゃったんだ。さっすが~」




