聖教会2
ばあやがすぐにドアを開けると、出会った時と同じ隊服に身を包んだシェイド様がいた。
「……………………………??
ばあや?シェイド様、固まってない?」
「はぁ~~~、手放す決心もできないくせにエスコートなんてしようとするからですよ」
紺色の隊服がカッコ良すぎてクラクラする。
琥珀色の目を開いたまま固まっているシェイド様に駆け寄って、シェイドさま?と声をかけた。
一週間ぶりに会えてすごくうれしい。
魔熱で浮かされていたときはギュウギュウ抱きついていたというのに、魔熱の力がないと何もできなくなってしまう。
抱きつくなんて絶対できないけど、隊服の裾をそっともって、もう一度、シェイドさま?と名前を呼んだ。
「ぐっっっ…………!なんだこれ、妖精かよ」
シェイド様が何かボソボソと言う。
「シェイドさま?」
「つっ……いぇ、申し訳ありません、取り乱しました。行きましょうか」
「坊ちゃま、ドレスアップした女性を褒めないなんて、もう一度基礎からみっちりしごいたほうがよろしいでしょうかね!?」
「ばあや、いいの!シェイドさま、迎えに来てくださってありがとうございます。さあ、行きましょう?」
「ぐっっ……はい」
「お嬢様…………」
いくら公爵家が広いお屋敷といっても、単に二階から一階に降りるだけだ。シェイド様との時間はすぐにおわってしまう。
何か喋ろうと思うのに、何を言ったらいいのか分からない。
「その、お美しいです。ドレスも。宝石も」
「シェイド様が贈ってくださった物ですよ?高価な物を、ありがとうございました」
やっぱり、シェイド様が選んだわけじゃ無さそうだ。じいやだろうな。知らなかったなシェイド様。
「いえ、そういうことではなく——」
シェイド様は右手をずっと口元に当てているので、なんだかモゴモゴと聞こえて可愛い。
そんなことしか話せないまま、一階の応接室の前に着いてしまった。
じいやが扉の内側で「お嬢様がおつきのようです」といって中から扉を開けてくれた。
エスパーかな?
緊張する。
シェイド様に手を引かれて中に入ると、部屋にいた聖法衣を着た人達が一斉に立ち上がり手を前で組んで礼をとった。
「今世の落ちビト様であらせられる」
シェイド様が紹介してくれる。
皆さん、礼の姿勢を崩さないので私の番なのだろう。
「リリと申します」
一言だけに留める。特によろしくおねがいしたいわけではないから、言わなかったけれど、ささやかな抵抗すぎて誰も気づかないだろう。
五人の神官さんの真ん中にいる人が顔を上げて笑いかけてくる。
「リリ様におかれましてはお健やかなご様子、安心いたしました。
聖教会聖主、セフィロス•グランにございます。こんなに美しい女性にお会いしたのは初めてでございまして。年甲斐もなくドキドキしてしまい、みっともないですね」
三十代前半ぐらいだろうか、金髪の髪がヘーゼルの瞳にかかっている。
百九十近くあるかと思う背の高さと法衣の上からでもわかる筋肉質なしなやかさがある。タレ目の涙ぼくろが柔和なのに色気を出していて相当な美丈夫だ。
「お褒めいただき、ありがとうございます」
シェイド様が椅子にエスコートしてくれたので私が座ったところで皆も倣う。
「聖教会一丸となって貴方様をお守りすると誓いましょう。王城よりも快適な生活をお約束致します、ぜひとも聖教会にいらっしゃって下さい」
「本日は、認定の儀があると伺ったのですが?」
認定すっとばして、お守りするとか言っちゃっていいの?ちょっといい加減じゃない?
「既に貴方様の聖魔力が見えておりますゆえ」
そうなの?別に私魔法とか使えないけど。
胡散臭いなぁ。この人。
「聖都から沢山お土産を持って参りました。気に入って頂けたらうれしいのですが…………甘い物はお好きですか?聖都のパティシエ達に特別注文した品が沢山ございますゆえ、気に入った品がありましたら教えて下さいね」
「ありがとう……存じます。甘いものは、好きです」
シェイドさまがとなりでびっくりした顔をする。そうだったの!?ってお顔だな、ふふふびっくり顔までかっこいいなぁ。
「私のおすすめのお酒も何本か。女性にお酒を贈るのもどうかとおもったんですが、女性に人気の甘いフルーティーなお酒なんですよ。私の故郷の特産品なのです。お酒はお好きですか?」
この人、女慣れしすぎじゃない!?
年齢を聞こうとしたんだなぁ。
はぁ、回りくどい。
女性を口説く事に慣れすぎな物言いだけど、この人神官だよね!?生臭坊主!!
「こちらの世界の成人年齢はいくつでございますか?」
「十五でございます」
「私の世界は飲酒は二十歳からでした。私は今十九ですので、来年、頂きますね」
ガタッと音がして、隣でシェイド様がさっきよりもびっくり顔でこちらを見ている。
そういえば年齢言ってなかったもんね。
見渡すと聖主さん達もびっくり顔だね。
うん日本人、若く見えるって言うしね。
ちょっと色が変わったけれど、ベースは日本人だしね。
十五ぐらいだと思っていたな?
「おかしいですか?」
「いえ、可愛らしくお美しいお方が大人の女性だったのです。これは戦争になりますね」
戦争?なんでよ。意味わかんない。




