後記 王家の謝罪とリリの奮闘1
「こっちはもう大変よ。魔公爵が妖精を拐ったって」
「そうなの?シェイド様に拐われるなら、お話の中のお姫様みたいで素敵!!!」
「…………ブレないわね。あんた」
エルからお茶会のお誘いが来たけれど、
王城にはなんとなくまだ行きたくない事をシェイド様に相談したら、移転でエルを連れて来てくれた。
「議会でシェイド兄様、リリの保護をグラセンが担う事を認めないなら独立するとまで言ったのよ!!??お父様も真っ青よ」
「独立って、グラセン領が?どういう事?」
「王家も、聖都の貴族もみんなリリの保護を申し出たわ。お父様はカイウス兄様のせいで面目丸潰れだけれど、アスラン兄様の正室にって言い出すし、他の貴族も年頃の令息を推して来たって事」
「…………なんで勝手に私の結婚相手を決める会議を開いてんの」
「聖都にリリをつなぎとめたいからよ。それでシェイド兄様がキレて…………魔王かしら、あの人。公の場では完璧な敬語を使える人が、完全に素がでていたわ」
「シェイド様が魔王かぁ……角とかついてたら絶対かっこいいよねぇ」
「ケイト、頭痛薬を頂戴」
「お気持ちを落ち着けるハーブティーをご用意致しましたので、こちらを」
「気がきくわね。さすがだわ」
「恐縮でございます」
なんでケイトさんとちょっと仲良くなってんだろう。
私もまぜて欲しい。
「リリが王家の謝罪をなかなか受けてくれないから、王家を嫌ってるって噂になってるのよ?」
「別にもう怒ってないし、王城にあんまり行きたくないだけだよ。謝罪を受けないんじゃなくて、いらないってちゃんと言ったのに」
「子どもの喧嘩じゃないんだから、必要なの!来てくれたら、シェイド兄様の子ども時代の移糸画をあげるわ!」
「行く!!!!!!!」
「…………ケイト…………シェイド兄様に報告しておきなさい。兄様が関係するとリリはチョロすぎるわ。誘拐に、備えるべきだわ」
「ご勧告、感謝いたしますわ。盲点でございました。確実に公爵様にお伝え致します」
「話を戻すわ。噂のおかげでアスラン兄様の正室の話はあんまり有力じゃあないんだけど…………高位貴族はリリを独占してる兄様が憎いわけ」
「シェイド様が…………わたしを……独占……」
「ケイト、ハーブティーのおかわりを頂くわ」
「畏まりました」
「今日私が公爵邸に呼ばれた事で、また動きがあると思うわ。シェイド兄様もそれは分かっているはずなのよ」
「私とエルの仲がいいと、動きがあるの?」
「私主催のパーティーを開く事になるわね。リリへの謝罪の場として使えるもの。私だってリリには感謝してるわ!あんなんでも、カイウス兄様は私の家族だもの!リリが減刑を進言してくれなかったら、どうなっていたか…………だから、ちゃんと、公の場でも謝罪と感謝を……」
事件の後、エルはお手紙を何通もくれた。
沢山の謝罪と感謝の言葉はもう貰ったつもりでいたのだけれど、一国の姫の立場としては足りないのだろう。
「そうなったら、ちゃんと出席するよ。エルのために」
「リリ…………」
「シェイド様の肖像画、絶対手に入れたいもの!!!」
「…………」
ケイトさんが肩を震わせて笑いをこらえているけれど、見なかった事にする!
◇◆◇
「おじいさま、この国の国花って、ありますか?花じゃなくても、色とかでもいいんですが……」
「それならレイオフの花じゃな、神々の庭に咲いておると言われているから縁起の良い花じゃよ。公爵邸の庭にも咲いておるぞ」
「僕、少し貰って来ますね!待っていて下さい!」
返事をする前にテオ君は走って庭に向かっていった。
今日も私のテオ君が可愛い。
エルとのお茶会からしばらくして、案の定エル主催のダンスパーティーの招待状が届いた。
シェイド様は渋っていたけれど、私からお願いして最後には頷いて貰えた。
本当に、渋々だったけれど。
足の調子もとても良い。
もう歩くのには支障はないし、少しならダンスもできる。
私なりにパーティーの準備を進めている所なのだ。
シェイド様と一緒に出られるパーティー!なんてご褒美!!!
それに気がついてしまって、実はすっごく楽しみにしている。
「姫様!お待たせしました!お庭の奥に沢山さいていましたよ!」
テオ君が持って来た花は、どう見ても桜の花だった。
薄いピンクの花が枝ではなく、茎に付いているところは違ったけれど。
「桜の花……私のいた世界でも、この花が国花でした。懐かしい」
「ほぉ、面白い一致じゃの」
「おじいさま、いつも古書にかけていらっしゃる保存の魔法、この花にかけてもらえませんか?」
◇◆◇
今日のパーティーデートのために沢山準備をしてきた。
「私……神をこの手で創り出してしまいました……お嬢様が本物の妖精にして欲しいと仰った時、きっと神の啓示だったのですわ!武者震いいたしましたもの」
「あ、ありがとう、ケイトさん」
ケイトさんにあるお願いをしたら、キラーンと目が光って、猛烈な勢いでドレスの準備を進めてくれた。
始終顔が笑っていたのが怖かったけど、そのドレスはとても美しく仕上がっていて、パーティーデートに向けてテンションがあがる。
桜に似たレイオフの花を沢山つんで、おじいさまに保存の魔法をかけてもらった。
その花をケイトさんに見せて、
「本物の妖精に近づけて欲しい」ってお願いしたのだ。
ドレスに咲き誇るレイオフの花が満開で美しい。緩く編んだ髪にも散らしてもらう。
ふわふわと揺れる髪にピンクの花が沢山散ってとても可愛い。
「ありがとうケイトさん、シェイド様に内緒で沢山協力してくれて。デート、楽しみだし、頑張れそう」
「頑張る……のですか??」
「ふふふ、そう!頑張るの!」




