番外編 リリの首飾り
「落とし物だぞ」
ヒヤッとほっぺたに冷たい感覚が当たってびっくりして振り返ると、琥珀のネックレスを手に持ったシェイド様が立っていた。
そのまま私の首に付けてくれて、シャラシャラとした懐かしい感覚に涙が出る。
私の、宝物だった、琥珀のネックレス。
お金がなくて、宝石商に売ってしまった。
「っ、なん……で……」
言葉が詰まって出てこない。
「これ、私の宝物で……」
「そうか」
「どうして……」
「落とし物だって言ったろ。もう落とすなよ」
泣きながらシェイド様に抱きついて、胸にグリグリ額を押し付ける。涙がポロポロ出てきて止まらない。
「んまぁ、坊ちゃん!!またお嬢様を泣かせたんですか!?なんたる事!!」
鉢合わせたばぁやがビックリして大騒ぎし始めてしまった。嬉しくて、大好きで、涙を止めたいのに、止まらない。
「ご、誤解だメイル!リリ、どうした!!何で泣く!?」
「んまぁ~~!!理由も承知していないなんて、女性の扱いについて、ばぁやがもう一度、懇切丁寧に、講義を致しましょうねぇ!」
◇◆◇
「団長、第一の新人から面会要求が来ていますがどうなさいますか」
「へぇ、珍しいな」
「捨ておこうかと思ったのですが、諦めが悪く何度も申請してきますので気になりまして。因みに、団長の戯れの殺気に気づいた若造です」
「自ら引き抜かれに来たのか?」
「まさか。極限まで抑えていたとはいえ、新人が団長の殺気を見てわざわざ会いにくるとは思えません。死地に自ら赴く奴はおりません」
「ちょっと出てくる」
「殺さないで下さいね。貴重な人材です」
◇◆◇
「俺に用があるんだって?」
気配を頼りに王城内で移転する。
第一の若造は武器庫で武具の点検をしていたようで書類と万年筆を持ったままクチをあんぐり開けている。
「は!アランと申します!」
「あぁ」
「姫様……あの、リリ様の件で」
「あ゛ぁ?」
「ぐっ、あの、私では、給金を貯めている間に売れてしまいます!!ですので!……その、とても!お辛そうだったのでっ!」
「何の話だ、落ち着け」
聞いた話は想像を絶するものだった。
怒りで倉庫の扉が音を立てて崩れる。
「何で教会のシスターごときが彼女にそんな事が出来る。身分が違いすぎるだろうが」
地を這うような声が出る。
「行儀見習いの高位の貴族令嬢達です。猊下への恋慕の思いが強くあったようで……既に猊下により処分が下されております」
「は!斬首だな」
貴族令嬢だったとしても、身分違いだ。王族を害したよりも酷い。相手は落ち人だ、聖女だぞ。
怒りで血が沸騰するのが分かる。
「それが……リリ様本人がお止めになって、聖都外の教会に追放処分となりました。貴族としてはもう戻ってこられませんが、それ以外は特に、お咎めはなく……」
ドゴッッッ!!
武器庫の壁がめり込む
「クソ坊主が!!!」
「私も弟と何度か進言致しましたが、猊下への報告を拒否されまして!お辛い思いをされる期間が長くなってしまい……っ!」
「あぁ、おまえの弟か、あの小さいのは」
「はい、特別に可愛がって頂いている様で我ら兄弟にとっては身に余る光栄です。ネックレスを手放す時のお辛そうなお顔が、その、お可哀想で……しかし、私の出る幕では無いと、先日のパーティーで感じました故」
「クリフ!聞いてたか!!」
通信を起動させたままのクリフに呼びかける。
「すでに店にむかっております」
クリフの声を聞いて通信を切った。
「お前、明日から第二に来い。上に話は通しておく」
「え!?な!?」
「分かったな?」
「はっっっっっっ!!!」
アラン「給金が………………増えてる…………?」




