真実
「三十年前に聖都を中心に魔獣の出現が顕著に増えたんだ」
「聖都を中心に?」
「そうだ。国が荒れたり、天の理りに触れたりすると魔獣は増える。当時は原因が分からず、終わらない魔獣討伐に明け暮れるしかなかった。俺も成人する前から討伐に加わったし、親父は討伐中に亡くなった」
もうスープはいらないと意思表示すると、少し悲しそうなお顔をしたけれど、しぶしぶテーブルに戻してくれた。
「今回の事で、やっと原因が分かった。あのドームが天の理りに触れたからだ。建設完成時期がちょうど重なる」
「ただのお庭が?」
「あれはただの庭じゃない、低温保存装置だ。人体のな」
「人を、保存?」
「病気がちだった母上のための装置だろうな。俺の爺さん……前国王陛下が極秘で建設させた。表向きは温室の庭として」
「愛してらっしゃったんですね」
「母上のもしものために作られたドームを使う前に爺さんが死んで、ドームの事を知る者もいなくなった。——こんな馬鹿なことで国民が犠牲になった。テオとアランの家族も、ドームによる魔獣のせいで亡くなってる。」
「そう……なんですね」
「母上が亡くなってからは俺もほったらかしてたからな。使用者がいない間は魔獣の発現もマシになった。俺もただの庭としか知らなかった。おそらく、母上も。だからリリに鍵をやったんだ、悪かった」
「いえ、ドームは、私を守ってくれました」
「…………そうだな」
大きな手が髪をすいてくれる。
彼にされるこの仕草がたまらなく好き、優しく、ゆっくり髪をすかれる。撫でるみたいに。
「イリオヤ皇国を焚き付けたのはカイウスの野郎だ」
「カイウス殿下?」
「もう殿下じゃない。全ての爵位も称号も剥奪されて、幽閉してある」
「——————え?」
「お前が欲しかったんだとよ、リリ」
「私?」
「前に俺の妖精ってセリフについて質問しただろ」
「はい。妖精、とか天使、とか」
「あれは男が愛しい女に使う言葉だ」
「!?」
そういえば、ここのところずっとリリちゃん呼びじゃなくなっていた。
——僕の天使、と…………
「俺の目の前で連呼しやがって、やっぱあいつぶっ殺すか」
「どこにも行かないで」
「ッ…………今説明中なんだから煽んな」
「あお…………?」
「あいつのイリオヤからの土産の菓子に魔獣の血が混ぜられていた。わざわざ濃縮した物を」
「え?」
「リリは口腔接種させられたんだ。魔毒を」
「何の為に?」
「俺への疑念を膨らませるためだな。同時に隣国のサーラ姫を使って俺を落としにかかった」
「サーラ姫って呼ばないで」
「…………………………だから煽んな」
「簡単だったろうよ。あっちは国内情勢と魔獣に困り切ってる。魔力の高い俺に嫁げは抑え込めるとか何とか言ったんだろ。その間に弱ったリリをゆっくり落とせばいい」
嫁ぐ?結婚するって事?サーラ姫と?
びっくりして後ろを振り向きシャツの胸元をギュッと掴む。
「ん゛んっ…………!落ち着け、もうあの女もいない。国に帰した。それにあの女が言った事も全部嘘だぞ」
「今夜も部屋に来てくださいねって言ってた」
「…………やっぱ聞こえてたか。わざと聞こえる様に言ったんだよ、バカ女が」
「綺麗な人だった」
「リリ、その議論は今はやめておかねぇ?」
「やだ」
「参ったな、嬉しくてニヤけるけど、話が進まねぇ」
「シェイド様のばか」
「悪かった」
「一生許さない」
「許さなくていい、一生かけて償うから」
「それなら許す」
「ハッ!俺の妖精はほんとに可愛いな」
「…………もうここにずっといたい」
「ああ、公爵邸がリリの家だ」
「もう聖都に行かなくてもいいの?ずっと?」
「いいぞ。用があるならテメェが来いって伯父上に言っといたからな」
伯父上って、国王陛下だよね…………
「イリオヤ皇国はどうなるの?」
「変わらんな。自分で何とかするだろ。ドームは壊したし、リリがいるからアブレチアは急速に安定していく。要請があれば討伐の援助もあるかもな。俺は行かないけど」
「もうあのお姫様の近くに行かないで」
「っ………ハイ」
「ダンスも他の人としたらやだ」
「…………………わかり、マシタ」
「シェイド様なんて大嫌い」
「…………………………まじですいませんでした」
「うわぁあああーーーーん」
安心したら涙がポロポロ出てきて止まらない
「な!?待て、泣くな、悪かった!」
声をあげて泣いたのなんていつぶりだろう。
子供みたいで恥ずかしいからぎゅうぎゅう首元にしがみついて大泣きして、泣きつかれて眠りに落ちた。




