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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第1章

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暗雲2

「シェイド……様」


「どうした?一人か?」


「シェイド様に……会えるかと……思って」


「——っ!どうした?ねむれなかったか?」


広いピアノのスツールに後ろから私を抱き込む様に座ってくれて、急に体温が戻ってくる感覚がしてあったかい。


「昼間、隣国の使節団の事を聞いてから……少し、考え事をしてしまって……」


昼間のカイウス殿下との会話を話す。

みんなを助けるなんて無理だと言われた事、その通りなのにモヤモヤしてしまう事。


「グラセンが預かる事になりそうだ。リリの事でうちへの不満の声が膨らんでるからな。面倒事を引き受けさせて大人しくさせるつもりだろ」


「——っ!ごめん……なさい。私のせいで」


「リリのせいじゃない」


「でも……」


「うちは筆頭貴族だからな。リリの事が無くてもうちだったよ。慣れてるから、大丈夫だ」


「はい…………」


「少し、忙しくなるから、今みたいには会えなくなるかもな……クソが、邪魔しやがって」


「グラセン領に移転で滞在してもらうんですか?」


「いや、聖都に屋敷があるからそっちだな。メイルとスランは呼ぶ事になるだろうから顔を出させるよ」


「シェイド様と離れるのは、嫌」


「リリ?」


「絶対遠くに行かないで?」


「リリ?どうした?」


じっとりとした不安が離れない。

上手く言葉にできなくて胸元に擦り寄る。

シェイド様の匂いと体温が心地よくて急激に眠くなる。このまま、ずっとここにいられればいいのに。

 



◇◆◇





眠ったリリを部屋に送って、そのまま廊下に出る。

夜の見張りを交代しようとしていた二人の部下に迎えられる。


「団長、どっからでてくるんですか、夜這いはもっと慎重にやってください」


「団長、何かありましたか?少し物音がしたので心配していたのです」


「二人ともちょっとこい。リリの様子が変だ」



城内の執務室までの移転枠を作って移動する。時間が惜しい。

嫌な時に嫌な事が重なる現実にイライラする。


「リリの様子がおかしい、アラン、気付いたか?」


「はい、本日午後カイウス殿下とのお茶会の後から塞ぎ込んでおられました。少し顔色も悪かったので早めにご就寝していただいたんですが……」


「奴が何をしたか全部思い出せ」


「いえ、特におかしな事は……面会も一週間ぶりでしたし、殿下も隣国の公務からおかえりになったばかりで……お茶をなさっただけですが……少し、隣国の情勢についてお心を痛めたようで」


「クリフ、今日と昨日で城内に魔獣の発生は?」


「城内にですか?ありませんよ。リリ様がおられるのに。気配すら感じません」


「団長、どういう……?」


「リリは魔毒に侵されてるかもしれない」


「完治したと猊下からの報告がありましたが。根拠は?」


「………魔熱が出るとめちゃくちゃ甘えてくる」


「ノロケですか?こんな時に……」


「は、ただのノロケならどんなにいいか」


「クリフ、明日からお前もリリのそばに付け。些細なことも見逃すな。それから——聖主に連絡を」


「猊下ですか?何故!」

アランが警戒した声を出す。

こいつもかなりリリ側に寄って来たな。

聖教会でのリリへの冒涜を許せていない。


「あいつなら、体内の魔毒の有無が分かる」


「体内の……ですか?」


「俺らでは生きてる魔獣の気配察知はできても、魔獣の血の存在までは察知できない。生物じゃないからな。あいつはそれに特化した魔力なんだろ、少しは役に立ってもらう」



◇◆◇




「お嬢様、今日は使節団が到着なさる日ですわ。お嬢様も王族席に列席いたしますのでご準備を致しましょうね」


「あ…………うん」


「ご気分が優れないようですから、コルセットのドレスはやめにしましょう。お嬢様のお好きなレースのエンパイヤドレスに致しましょうか、あれでしたら締め付けもございませんし」



「そうだね、そうしようか」


シェイド様と夜に会ってから二日たって、使節団がとうとう来てしまった。

二日の間に会えるかなと思っていたけれど、忙しいらしく、会えずじまいだ。

ここからまた一月はシェイド様は使節団の接待にかかりきりになってしまう。


私の方は、なぜかクリストフさんまで私の護衛に入った。

下手な芝居もなく堂々と護衛していて、カイウス殿下と鉢合わせしても飄々としていた。


「リリ様、猊下が挨拶に伺いたいとおっしゃっているのですが、少しだけお会いになれませんか?」


クリストフさんが少し困った顔で聞いてきてびっくりしてしまった。


「セ、フィロス、さま?」


「お嬢様?大丈夫ですか??少し横になりましょうか」


頭がガンガンする、魔毒はもう完治したはずなのに、魔毒の時よりも酷い頭痛に辟易する。


「風邪を、ひいたのかも……横には、なりたくないの。痛み止めをくれる?」


「お嬢様!!」

「リリ様!!」

「「姫様!!!」」


頭が痛くて周りの声が上手く聞き取れない。

耳の奥で潮騒の音がする。




◇◆◇




あの後倒れてしまった私が目覚めたのは、結局次の日の夕方だった。


使節団の謁見はとっくに終わっていて、今日はもう歓迎パーティーの日だ。


昨日ほどではないけれど、まだ頭痛が残っている。


(魔熱の時みたいに次の日に良くなってないからやっぱり風邪かな)


「お嬢様、パーティーは欠席致しましょう」


「カイウス殿下はなんて?」


「……国交維持のために頑張ってくれたら嬉しい、と……」


「そう……大丈夫、がんばれるよ。痛み止めを多めにくれる?」


「お嬢様…………」


部屋にはケイトさんしかいない。

湯浴みや着替えの時間だからだ。

パーティーに出席することを求められているのがこれだけでわかる。


私は私に求められている事をしないと。


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