不穏
「リリ、その締まりの無い顔をおやめなさい」
バラ園でのエルとのお茶会で、シェイド様と思いが通じた事を報告し、美味しいタルトを頂く。
「だって、あんなにかっこいい人が私の彼なんて信じらんない!!」
「別に婚約した訳じゃないじゃない、無いと同じよ」
「何でよ、好きって言ってもらえたもん!」
「はぁ、あのね、貴族令息の好きなんて挨拶みたいなもんよ?」
「シェイド様はそんなことないもん!」
「リリがシェイド兄様しか見えてないのは知ってるけど、周りはそれを許さないって言ってんの。私ぐらいよ、応援できるのは」
「う゛ぅ、外野がうるさい」
「落ち人さまなんだからあたりまえでしょ!?」
「はぁ、今日もシェイド様に会えるかなぁ」
「リリあんた、カイウス兄様の前でもそうなの?」
「カイウス様?そういえば最近みかけないな?」
お披露目のパーティーの後からあまりお見かけしなくなった気がする。
前は毎日しつこいくらい部屋に来ていたのに。
「なるほどね、動き出したかもしれないわ。カイウス兄様はね、馬鹿じゃないのよ」
「?知ってるよ、そんな事」
「私もちょっと探ってみるけど、用心してなさいよ」
「何を?」
「はぁー、カイウス兄様はね、欲しいものは絶対手に入れてきた人なの。カイウス兄様が王座を望まなかったから、平和な国を保てているだけなのよ、アブレチアは」
「うん?」
「カイウス兄様がどう出るかわからないわ」
「う、うん?」
「はぁ~、ケイト、リリの身の守りを強化したいわ。シェイド兄様に相談するからそのつもりでね」
「承知いたしました。懸念しておりました故ありがたく御心を頂戴いたします」
?????
◇◆◇
「アラン君!久しぶりだねぇ!」
シェイド様がなぜかアラン君を連れて私の自室を訪ねて来た。
しかもアラン君は第二騎士団の制服をきている。
「アラン君、第二騎士団になったの?」
「はい、色々あって移籍がきまりまして」
「?そうなの?テオ君に会いに来たのかな?テオ君、今おじいさ……尊師の所に行ってて、しばらく帰ってこないんだけど……」
「おい、リリ、こっち向け」
真後ろからシェイド様がわたしの顎を持って上を向かせる。
そのままキスされて、身長差で覆い被さる様に屈んだシェイド様の腕の中でもがく。
「!!??っは!な、な、な、何!?」
目の前のアラン君は真っ赤になってるし、ケイトさんはあらあら、うふふふとニコニコ笑っている。
「俺の前で他の男と話すな」
「理不尽!シェイド様が連れて来たのに!」
「今日からアランをリリ付きの護衛にする」
「そうなんですか?でも第一の人も廊下のところにいつもいてくれてますよ?」
第一騎士団の騎士様が常にニ人、わたしの部屋についている。
本来ならわたし個人に付くはずだったのを、交渉して部屋付きにしてもらった。
かなりしぶられたけど、令嬢シスターズみたいになるのが怖いと心のうちを話したら、カイウス殿下からやっと妥協策として部屋付きという案を出してくれた。
「第二騎士団が個人に付いて大丈夫なんですか?」
「だめだな。だから廊下の警備ということにしてある。けどおまえら仲いいんだろ?リリが招き入れる分には仕方ねぇだろ」
なぁ?と言って、私をみるので戸惑ってしまう。
私、アラン君と仲がいいって言ったことあったっけ……?
正解が良くわからない。
「そ、それは、おしゃべりするふりをして常にアラン君をそばに置いておくって事ですか?」
「正解。アラン、お前、手ェ出したらぶっ殺すぞ」
「な!シェイド様、そんな訳ないでしょう!?」
「どうだかな。俺の妖精は可愛いからな」
「えぇ…………なんで私が責められてるの、アラン君、ごめんね嫌なら断っても全然大丈夫だよ?」
「いえ!役得で……いえ!任務ですから!!」
「アラン君が大丈夫なら、嬉しい。知らない騎士様は、やっぱりちょっと怖いから」
「グッ……精一杯お守り致します!」
「チッ…………俺が第二やめて第一に就職すれば解決か?」
「あらあら、うふふふふ」
◇◆◇
謎の警備強化がされても特に何の変化もない日々だった。
ダンスとマナーのレッスンをうけて、おじいさまのところへ行く。
事件と言えば、アラン君が来たことでテオ君のテンションがマックスまで上がって、一日熱を出したぐらいだ。
熱の出し方まで可愛い。
そのテオ君の提案で、部屋付きの第一騎士団の前で色々小芝居を打ったら、特に怪しまれもせずにアラン君が自由に部屋に出入りできるようになった。
「アラン君、尊師の所に行くの、荷物持ちに付き合ってくれる?」
「アラン君、ダンスのレッスンの相手役になってくれない?」
「アラン君、朝のお茶は一人だと寂しいからテオ君とアラン君も入ってくれない?」
「アラン君、やっぱり怖いからお散歩も一緒に来てくれる?」
三日ほど続けた後は自由に出入りしてもらっているけれど、変なクレームになったりもしてないらしい。
私どんだけわがまま設定よ。




