庭園デート2
「あ、あの……今だけでもいいので……敬語、やめてもらえませんか?いつものシェイド様がいいです」
シェイド様はガリガリ頭を掻いて困り顔だ。
困り顔がカッコいいなんて宇宙の神秘!
はぁ……推しが尊い。
「言われなくても、だいぶ剥げかけてたけどな。落ち人様は王家よりも上位の地位だぞ。敬われて当然なんだよ」
「そんなの、関係ないです。シェイド様と距離を感じる方が嫌です」
「…………こっちはそれで理性を保ってんだが」
「え?」
「いや、なんでもねぇ。今だけな。公の場では流石に不敬だからな。我慢な」
そう言って頭をポンポンしてくれた。
わーーーー!!叫びそう!!やばい!!!!
なんといつのまにかエスコートの手が繋がれていて、もうドキドキで目が回りそう。
小さなガゼボが見えてきて、シェイド様が流れる様にエスコートして座らせてくれた。
「疲れてないか?」
「は、はいっっ!」
緊張して変な声が出てしまう。
ドカッとシェイド様が隣に座る。そのお膝にはなんと例のつる籠が————
「シェ、シェイドさま?あの、重いでしょうから私が持ちます、ね……?」
シェイド様を直視できなくて目が泳いでしまう。ハンカチの防御力が心許ない。レベル1の風で飛んでいっちゃいそう!
「へぇ? それで? これは何なんだ?イタズラでも考えたか?」
「ちっ、ちがっ!そんなんじゃなくって!!」
「へぇ?リリ、隠し事か?」
何でこんな時に呼び捨てーーーーー!!??
無理無理無理無理ーーー!!
精神が崩壊する!!
「み、耳元で、喋らないでっ、、下さい!!」
「ふーん、耳、弱いんだな」
「ちがっ!」
「俺が開けてもいいけど、リリから見せてくれたら嬉しい」
そう言って私の膝の上に乗せてくれたので、ギュッと籠を抱き込む。
「たっ、大した物では…………!!」
「へぇ??まだ隠すのか??逃げられると、たがが外れるんだが?わざとか?」
わーーー!!お顔が良すぎてもう何も考えられない!!!!
「わ、笑わないって約束して下さるなら」
「好きな女を笑う男はいないだろ」
は!!!???
「い、今なんて?」
シェイド様はニッコリ笑って、
「笑わないって言った」
ひぃっ!き、聞き間違い!!聞き間違いだよね!!!
濃い琥珀色の瞳が熱をおびて、壮絶な色気がダダ漏れで防御が間に合わない!!
「リリ、好きだよ」
「わた、わた、私!!!夢!?」
「落ち着け、現実だ」
いつのまにか背中側にまわっていたシェイド様の腕の中にすっぽり閉じ込められる。
「でも!あの、あのあのあのあの!」
「あー、落ち着け、ちょっとこっち向け」
いやいやいやいや、お顔が近いからね!?シェイド様の方向いたらゼロ距離よ!?
ワタワタしていたら顎をもって上を向かせられ、次の瞬間にはもう目の前いっぱいにシェイド様の美しいお顔が広がって——
シェイド様とキスしてる!?
薄い唇が、チュ、チュとバードキスの嵐を降らせてきて思考が停止する。
「~~~~~~~~~~~~!!!!」
「あー、余計だめか。かわいいけど、止まれなくなるな」
「か、かわっ!?」
「はぁ~~~~~、殿下の元に戻したくねぇ」
「なっ!?」
もう一度、触れるだけのキスが降ってきて、
オーバーヒートした私はそのまま意識を手放した。
◇◆◇
「坊ちゃま、やりすぎですぞ」
「うるせぇ、ずっと我慢してたんだ。こんぐらいいいだろ」
「はぁ…………お嬢様のお気持ちに気付いておられながら、ずっと逃げていたのは坊ちゃまの方でございましょうに」
「…………のぼせてるだけだ、すぐ気付く」
「団長、遅刻です。すぐ仕事に戻って下さい」
「お前ら…………鬼だな」
あわわわ!!私、シェイド様にお姫様抱っこされてる!!気がついてないふりをしよう!!少しでも!!長く!!!!
「リリ……起きてるだろ」
「ぎゃん!!」
ぐぅ……可愛くない声出た!
シェイド様は、ふんわり私を長椅子に座らせてくれた。
「チッ。王子が来たな……リリ、もう行くけど、これ渡しとく」
シェイド様が出した手には何も乗っていなくて、手のひらに小さな魔法陣が浮かんでいる。
魔法陣が消えた瞬間、ガラスのような透明な素材でできた鍵が出てきて、私にもたせてくれた。
「明日の夕方、裏庭のドームでな」
耳元で囁いてからから会場にクリストフさんと戻って行った。
「こ、声が良すぎてなにも考えられないぃ…………」
「お嬢様、心の声が出てしまっておりますわ」
「ふぉっふぉっふぉっ。さて、第二王子殿下がいらっしゃいましたな。私もこれで失礼させて頂きましょう。今日はお嬢様の元気そうなお顔が見れてじいやは幸せでございました」
「じいや!ありがとう!!私も会えてうれしかった!」
「リリちゃん、探したよ。大丈夫だった?
——スラン、もう下がれ」
「はい。それでは殿下、お嬢様をよろしくお願いします」
「うまいこと僕から奪ったね。返してもらうよ。さあリリちゃん、僕に君のエスコートの栄光をくれる?」
「はい、お願いします」
エスコートされながら後ろを振り返ると、じいやは礼をとった姿勢のままで送り出してくれていて、じきに人混みで見えなくなってしまった。
「カイウス殿下はじいやを知っているんですか?」
「ん?そうだね。シェイドとは幼馴染だし、幼いシェイドの隣にいつもスランがいたからね。スランは元々第二の副官だよ。グラセン前公爵の側近。シェイドに剣術を仕込んだのもスラン。シェイドの実力が高いもんだから、教え方がいいって評判になって、僕と兄上もいっしょに指南を受けさせられたんだよ」
「じいや、スーパー執事!!」
「ははは、前グラセン公爵が亡くなって、シェイドが後目を継いだ時に引退して家令になったけどね、まだまだ現役で戦えるだろうね」
「そんな人が私のじいやに……」
じいやのいた方を振り返って立ち止まる。
もうグラセン領に帰ってしまったのだろうか。私の大好きな、あの場所に。
「僕の天使は、子猫のようだね。可愛がってもスルリと逃げていってしまう。さあ、こっからは捕まっていてもらおうかな」
「ふふふ、はい。まだご挨拶が残ってますものね。頑張ります!」
まだドキドキがおさまらないけれど、私は私の出来ることを頑張りたい。




