舞踏会1
王城の生活にも慣れて、日々おじいさまの所に通いながら、マナーやダンスのレッスンを受けて忙しくしていたら、あっという間に私のお披露目の日になった。
王国最大規模の舞踏会になると聞いて、睡眠薬を使ってるのに昨夜はなかなか眠れなかった。
朝からケイトさんに上から下までピカピカに磨かれて、つやっつやの私が爆誕している。
花びらの様なひだが沢山ついて細かいフリルになっている薄桃色のAラインのドレスに、同色のリボンを髪に編み込んでくれて、ドレスも髪も歩くとふわふわと動いて揺れる。
肩がガッツリ出ているからか、極度の緊張からか、手足が冷たい。
無言になりがちな私の肩に、テオ君がシェイド様の上着をかけてくれた。
「姫様……本当は、ご本人をお連れしてあげたいのですが……」
「ありがとう、あったかい」
しまっておく必要のなくなったシェイド様の上着はいつも私の寝室に置いてある。
テオ君もケイトさんも何も言わないでくれるからありがたい。
辛い時は、これがあれば大丈夫。
◇◆◇
「王城に妖精がまいおりたようだね」
カイウス殿下は私の出立を見て一瞬面食らったお顔をしていたけれど、特に何も突っ込まずにいて下さった。
会場まででもいいから、シェイド様の匂いに包まれていたい。
ブカブカの上着の前を握りしめてずり落ちない様に抑える。
完全に精神安定剤になってしまっていて、お返しする日が怖い。
今日だけは。大勢の前で私のお披露目がされる今日だけは……このままでいたい。
心臓が早鐘の様に打ち、喉がカラカラだ。
王城内はいつもよりガヤガヤと騒がしく、警備の第二騎士団の騎士様がそこかしこに配置されていて、無意識にシェイド様を探してしまう。
廊下で会う人会う人全員がポカンとしてこちらを見ている。
落ち人ってそんなに珍しいのかな。
珍獣を見る目じゃん。
シェイド様に会えるかな。
◇◆◇
「団長、上着脱いで下さい」
「あ?何言ってんだ。別に汚れてねぇ」
「今、汚れました」
クリストフはそういって《《キャップのついたままの》》万年筆で引っ掻く。
「はぁ!?おまぇ、疲れてんのか?これ終わったら有給やるから自分探しの旅にでも行ってこい」
「はぁ…………ちょっと失礼します」
そう言って胸元の金ボタンを掴み、そのままむしり取った。
「おまっ、何なんだ!?」
「おや、団長殿、ボタンが取れてしまったようですねぇ。すぐに修理の方へ出しておきますね。
後で変えの隊服をお持ちいたしますので、今はそのままでお待ち下さい。では、私はこれで」
クリストフはそう言って俺の隊服を持って去って行く。
「部下が怖い」
まぁ俺は警備側だし、パーティーが始まる頃新しいのを着ればいい。
誰も俺を見てる奴なんかいないしな。




