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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第1章

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尊師1

王城の生活にも大分慣れてきたきがする。

マナーとダンスのレッスンも頑張れているし。


「約束していた尊師に今から会いに行こうか」


朝食後まったりしていたら、顔を出したカイウス様が提案してくれた。


「!!本当ですか!嬉しいです」


少しずつ知識を増やしたいと思っていたからすごく嬉しい。


「ケイトさんは休憩していて下さい。カイウス殿下と一緒ですし、侍女一人だと、なかなか休憩時間が取れないでしょう?」


「お嬢様……ホワイトすぎやしませんか……」


ケイトさん今までどんな職場だったんだろうか。これも深く聞かない方が良さそう。


「僕がお供しますね!」


テオ君はわりと上手に休憩を取れる子なので大丈夫かな。私が休んでいる時は、彼も周りでパタパタ動かずに自室に入る事も多いし、

着替えや入浴の時もうまく休憩してるみたい。

ケイトさんは社畜タイプだから強制的に休憩を取らせないとダメなタイプだと思う。

これは前々から思っていた。


ケイトさんに見送られ、王城と一階の通路でつながっている西側の建物へと向かう。


「この廊下の奥が尊師のお部屋なんだよ。僕も最近お会いしてないから、生きてるかなぁ」


ニコニコと縁起でもない事を言う殿下が廊下に続くドアを開ける。


王城の一階の廊下はどこも同じ造りになっていて、片側の壁は上がアーチ状に繋がった柱で、中がガラスだったり開け放しの外廊下だったりするがデザインは一緒だ。


目の前の廊下だった物は、人が通れる幅を残して左右に本が積み重なり、昼間なのに魔法のランタン灯が無ければ足元も見えない状態で、庭に面した壁がガラスだったのか開け放しだったのかも分からない。(本が置いてあるから、ガラスである事を祈る)

書籍、巻物、書き付け、大きな石版の様な物、古びた物ばかりが雑多に積み重なった壁を通り、奥の部屋へと続く。



「もうご高齢で役職もないし、どこの貴族の派閥にも入ってないから害もないよ。知識が多すぎるのと、人格者って事で今は陛下の相談役ってとこかな。あぁ、いたいた尊師!」



奥の部屋は王城の部屋にしては小ぢんまりとしているが、(とお)って来た廊下と違って壁に作り付けの本棚がちゃんとあり、所々床に本は積まれてはいるものの、本棚の方はキチンと整頓されていて、スッキリしている。

窓際にある布製の柔らかそうな一人用のソファーに埋もれて、小柄な老人が本を読んでいた。


「王の倅か?めずらしいの。勉学に励む気にでもなったか?」


「まさか。僕は前にも言った通りのらりくらりやってくつもりだよ」


「周りばかり見ずに、自らに目を向ければいいじゃろ。お主には情熱がないのぉ。もったいない事じゃい」


「省エネっていってもらいたいね。今日は女の子を紹介しにきたよ」


「ほぉ、気が利くの、小僧っ子のくせにの」


「何とでも。リリちゃん、こちらオルフェオ•ドノヴァン 老師。御年(おんとし)…………分かんないぐらい爺さんだよ」


「ピチピチの九十一歳じゃ」


「もう棺桶に片足突っ込んでるから、リリちゃんが見張っててくれたら僕も安心だよ~じゃあ僕は公務に戻るね。リリちゃん、分かんない事何でも聞くといいよ」


「あ、はい、ありがとうございました」


ヒラヒラと手を振りながら殿下が部屋を出ていくのを見送り、もう一度お爺さんを見やる。


白い眉毛で隠れて目が見えない。眉と顎髭はたっぷりあるのに頭がツルツルの様で素敵なハットをかぶっていておしゃれさんだ。

ミニチュアシュナウザーの様で可愛らしい。


「あ、あの、リリ•ユウキと申します。よろしくお願いします」


「何じゃ、あやつ紹介もせずに行きおったか。全く、頭はまあまあのくせにどこか抜けておる」


(まあまあなんだ……)


「リリちゃんや、お茶を入れてくれんかね。そこの坊は隣の部屋からこれと同じ椅子をもう一つ運んで来なさい」


「はい」

「承知しました!」


テオ君は私と一緒にミニキッチンに来てくれて、テキパキと魔導器具の使い方を教えてから隣の部屋に行ってくれたので何とかなりそうだ。


少し、緊張している。

いつも生きるために生きて来た。何かを勉強したいと感じた事はなく、怒られないため、生活するために勉強して来た様に思う。素直に何かを知りたい欲が自分にもあった事に驚く。

ワクワクして(うわ)つく心を抑えて、ゆっくり紅茶を淹れていく。


お湯を沸騰させて(これは魔道具で一瞬だった)上に茶漉しがついたガラスポットに注いでいく。飴色の澄んだ液体がトポトポと音をたてて、下に溜まっていくのをみて、心を落ち着ける。

蒸らしている間にふと思い立って、籠の中に山盛りになっていた林檎とオレンジを剥いて紅茶の中に放り込んでゆく。

フルーツが高いから、薄給の私にはなかなか買えなかったけれど、給料日のささやかな自分へのご褒美だった。


フルーティな香りがしてきたので、3人分の茶器と一緒に、棚で見つけた小さな蜂蜜の瓶をトレイに乗せて戻ると、窓際のテーブルのそばでテオ君が困った顔をしてこっちを見ていて、ソファーに座った尊師が面白そうにそれを見ている。


「あ、あれ?こっちの世界はフルーツティーってしない?へんだった?あ、尊師様、籠のフルーツ、少し使わせて頂きました」


「ふぉっふぉっふぉっ、かまわんよ」


「姫様……僕は姫様の従者ですので、その、テーブルはご一緒できないんです。すごく、すごく嬉しいんですけど、ご用意はお二人分で大丈夫です!」


「坊、せっかく淹れてくれたんじゃ、坊も座れ。ほれ、そこにスツールがあるじゃろ」


「………………………………はい」


たっぷり間をおいてテオ君がスツールに座ったので、気を取り直してお茶をカップに注いでいく。


蒸らし時間も気にしたし、エグ味も出てないはず!尊師様にお出しして、次にテオ君、最後に私の席にお茶を出すと、テオ君が驚愕した顔でまたこっちを見るので苦笑する。

新人OLの仕事はお茶汲みばかりだったからね!同席の場合は自分の分を最後に置くのは常識よ!


「姫様………………」


「リリちゃん姫の世界は身分制ではなかったのかの?」


(カイウス殿下のリリちゃん呼びと、テオ君の姫様呼びが合体してる…………よし、ここはスルーしよう)


「いろんな国がありましたが、私の国は身分制度は大昔に廃止されました」


「興味深いの。因みに坊、どこかで会った様な顔をしておるのぉ」


「テオと申します。…………亡き父が王城に勤めておりました故、もしかしたらそのせいかもしれません。ルトガー男爵家の四男です」


(え!? テオ君って貴族だったの?

どういう事?)


「ルトガー男爵か、なるほど、よく似ておる。惜しい男を亡くしたのぉ。わしなんかより余程頭の切れる、優しい男じゃったよ。確か息子が二人生き残ったのじゃったか」


「ありがとう……ございます。元より一代貴族でございました故、爵位は返上致しました。兄は既に騎士学校におりましたから、僕は孤児院に入り、運良く姫様に拾って頂きました」


「運良く……のう」


尊師様は何か考え込んだ様子だったけれど、特に何も言わずに私の淹れたフルーツティーを飲んでいる。


「姫様!これ、すっごく美味しいですねぇ!」


「ふふふ、テオくんのは蜂蜜をたっぷり入れておいたの!私のも入れたんだよ。甘くて美味しいよねぇ!」


「…………くすん、じいちゃんのにも入れておくれ」


「…………」


「尊師さ「じいちゃん」」


「尊師さ「じいちゃん」」


「お、おじいさ、ま?」


「くぅ、まぁよしとするか。わしも蜂蜜で飲んでみたい」


(子どもか!!!!!)


尊師さ……おじいさまの分にも蜂蜜をたっぷり入れてあげると、嬉しそうに飲み干して、おかわりを要求してきた。


気に入ってもらえたみたいだ。

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