公爵家推薦侍女
「つ、疲れた…………」
自室でテオ君の淹れてくれた紅茶を飲みながらだらしなくテーブルに突っ伏してしまう。
「今日は王家の方と晩餐もありますし、少しお休みになりますか?姫様、顔色があまり良くありません」
「昨日から目まぐるしいからね、ちょっと疲れただけ。大丈夫だよ」
ノックの音がして、テオ君が扉を開けに行くと、カイウス殿下がニコニコしながら入ってきた。後ろに静かに歩く侍女を一人連れて。
「連れてきたよ~彼女は大丈夫。約束するよ」
「ケイトと、お呼びください。お嬢様、こちらを預かって参りました」
ケイトさんが手渡してきたのは私宛の手紙だった。
裏を見ると差出人の欄にメイルの名前を見つけ、思わず声を上げる。
「ばあや!!嬉しい……!」
ケイトさんはにっこり笑って続ける。
「ふふふ、私メイル様の弟子なんです」
(ばあやの弟子???)
「ですからグラセン公爵様より推薦状を頂けました。ですが、私は子爵家の娘でございます故、お嬢様にお仕えする侍女としては身分が低すぎて……」
「そこで僕が聖主に貸しを作ったってわけ。いやぁ、あの人に貸し一つ作れるなんて重畳だよね」
「セフィロス……様、私のために……」
「そういう事。これ以上嫌われたく無かったんだろうね、直ぐに承諾したよ」
いつかまた会うことがあるだろうか、おちついたらお礼のお手紙を書いてみよう。
「ばあやの弟子というのは……?」
「はい、メイル様がメイド長として働いていた伯爵家のお屋敷に、十五の時に伯爵夫人の侍女として行儀見習いにあがったのです。メイル様は伯爵夫人の覚えが良かったので、侍女の教育も兼任していらした特殊な方でした」
ケイトさんは、当時を思い出したのか、懐かしそうにはにかんで笑う。
「みっちりしごかれましたわ……」
「ぷっ…………!ばあや、怒ったら怖そうだもんねぇ!」
「ふふふ、鬼になるんですよ、愛情深い鬼ですが」
「このまま他の貴族が大人しくしてるとは思えないのがちょっと難点かな。まぁのらりくらり、かわして行こうか」
他の貴族の御息女達が私の元に送られてくるイメージが、完全に令嬢シスターズで脳内再生されて辟易する。
ケイトさんは四十歳ぐらいだろうか、薄い紫の髪の細いつり目が涼やかなクールビューティーな人だ。
令嬢シスターズのイメージとかけ離れていて安心する。
「リリ•ユウキと申します。彼はテオ君、私の侍従をしてもらっています。人数が少ないことでご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「まぁ、そのような!メイル様の大切な方を託されたのです。誠心誠意お仕えいたしますわ。まずは湯浴みを致しましょう。晩餐に備えませんと。小さな騎士様もお手伝いねがいますわ」
「はい!!!僕、先にお湯の準備をしてまいりますね!」
パタパタと走り去るテオ君をニコニコ見つめるケイトさんを見て、安心した。
テオ君ともうまく付き合ってくれそうだ。
「じゃあ僕は一旦失礼するよ。晩餐の前に迎えに来るね」
「はい、ありがとうございます。何から何まで」
「気にしないで、喜んでもらえたなら嬉しいよ」
ケイトさんと部屋に二人になっても嫌な雰囲気に変わる事もなく、静かにお風呂の準備をしてくれている事にホッとして、手紙を開いた。
~ お嬢様 ~
お元気でしょうか。
お熱はでておりませんか?
悲しくなったり辛いことがあったらばあやがすぐに駆けつけて差し上げますからね。
まずはケイトをお側に置いてくださいね。
彼女はお嬢様の盾になるはずですわ。
私が自ら仕込みましたもの!
追伸:公爵家の庭に霞草を植えました、
お里帰りを心よりおまちしておりますね。
~~メイル
「う、ぅ……」
母親の様な愛情に触れてしまうと、普段張り詰めていたのがよくわかる。
特に今日は緊張しっぱなしだったのもあって、その場にうずくまってしまった。涙がポタポタ絨毯を濡らす。
「お嬢様!お嬢様!!ご安心下さい。大丈夫でございますよ。これからはテオ様だけではなく、私もございます!メイル様から全て聞いております。私もお嬢様の味方でございます!」
「ぐずっ……ばあやに、会ったの?」
「はい、今朝侍女の件が決まった後グラセン公爵様に送って頂きました。久しぶりにお会いして、お嬢様の事くれぐれもと頼まれております」
「じいやもばあやも元気だった?」
「はい、それはもう。お嬢様にとても会いたがっておりましたわ」
「お手紙のお返事かくね」
「はい、特別素敵なレターセットをご用意致しましょうね。グラセン公爵様にお手紙をお渡しくださるように頼みましょうか?」
「そっ!そんなお使いみたいな事、頼めないぃい!!」
「まぁまぁ、うふふふ、団長様は喜ぶかと思いますが」
「そんなわけないぃい~!!」
「メイル様から極秘の注意事項も申し伝えされております故、公爵邸と同じ様にお過ごし下さいね」
「公爵邸と??」
「はい、うふふ、団長様のお召し物には触りませんわ」
「~~~~~~!!」
「うふふふ、幸せ者ですわねぇ団長様は」
こ、ここはもう黙っていよう。
顔が熱くてのぼせそうだ。
この話題はここで終わりにせねば。
ばあや「お嬢様とお呼びする事!」
ケイト「はいっ!!」
ばあや「隊服は家宝と思う事!!」
ケイト「は、はいっ!!」




