王家2
しんとした広間にコツコツと私のヒールの足音だけが響く。
それだけで、緊張で倒れそうなのに、頭はシェイドさまでいっぱいで、歩き方すらおぼつかない。
「父上、リリ様をお連れいたしました」
「リリ様、我が国への御降臨、国を代表して感謝申し上げる。
今後はこのフォルド=セク•アブレチアが貴方の安全を保証しよう」
王様が怖い人じゃなさそうで良かった。
「はい……ありがとうございます。よろしくお願いします」
何か合図があったわけでもないのに、ここで一斉にみんなの顔が上がり、沢山の視線が無遠慮に私を襲う。
「なんと、美しい…………!」
「女神の様ではないか、いやまだお若いお顔立ち、妖精姫のようだ…………」
「グラセン領に御降臨なさったとか、さぞかしお怖かったでしょうねぇ」
「しかしあの美貌、カイウス殿下もようやく腰を据えることになりますなぁ」
き、貴族の会話怖い!
カイウス殿下が王族の紹介を一通りして下さった。
皇后陛下のリズ・アブレチア様
皇太子殿下のアスラン=セク・アブレチア殿下と王太子妃のラミア様
王女殿下のエルスウィーズ様
お、覚えられる自信が……
「リリ様。私を母と思って、仲良くして下さいね?」
リズ皇后陛下は迫力のある美魔女で、出るとこ出てる圧がすごい。緑の髪は海外セレブの様にウェーブがかかっていて美しい。
「はい、ありがとう存じます。こちらの世界のマナーが分からず、ご不快な思いをさせてしまう事、心苦しく思います」
「あら!そんな事、誰も気にしないわ!こーんなにお可愛らしい方に誰も何も言わないわよ!!ぜひ、お友達になってね!カイウスお兄さまばかり、ずるいわ!」
横から王女殿下が口を挟む。
こちらはまっすぐな水色の髪が綺麗な美少女だ。この世界では友達ができたらいいなと思うけれど、同年代の女の子へはどうしてもまだ警戒してしまう。伺って、真意を読み取ろうとしてしまうのが少し悲しい。
「弟と、仲良くしてくれている様で嬉しいよ。王家は皆貴方を歓迎しております」
アスラン王太子殿下が柔和に笑う。
カイウス殿下は王様似、アスラン殿下は皇后陛下に似ていると思う。
身体の大きな精悍なタイプだ。
「ありがとう……存じます」
王族に一番近い位置にシェイド様がいる。
私が少し後ろを向けば、お顔が見れる。
目の前に王族の方達がいるのに、全然頭が働かない。
グルグルと考えていると陛下が大きな声で話し出した。
「さて、リリ様。ここにいる貴族家全てから、貴方の侍女へどうかと息女や親類の推薦があった。この様なことは初めてでな、今日は公平を期するために集まってもらったんじゃ。」
(全て!?)
「カイウスから話は聞いておる。侍女はあまりつけたくは無いとの事承知している。五人ほど選べればと思っておったが…………まずは一人を選んだ故、皆も承知してくれ」
隣を見るとカイウス殿下はニコニコしてこちらを見ていた。令嬢シスターズの事、問題にせずに上手い事いってくれたのかな。
素直にありがたい。もうああいう事は懲り懲りだ。
「大丈夫だよ、心配しないで。悪い様にはならないから」
耳元でコソコソと教えてくれたけれど、誰が来たってやっぱり警戒はすると思う。
「グラセン公爵家からの推薦があった者に決定した」
一気に周りの空気が不穏な物に変わる。
ガヤガヤと声が大きくなり、不満の声が膨らんでいくのが分かる。
「皆も知っての通り、リリ様をお助けしたのもグラセン公だ。親交が偏るのを防ぐため棄却するはずだったんだがな……同じ者への推薦が本日朝、聖教会聖主からも来た」
周りのザワザワが大きくなる。
「セフィロス……様が……?」
「ここで聖教会との軋轢を作りたくは無い。皆承知してくれ」
(セフィロスさまが、グラセン公爵家の推薦侍女を推してくれたの? どうして??)
「リリちゃん、じゃあこの後顔合わせしようね」
「リリ様、晩餐を共にしよう。そこで沢山貴方のことを聞かせて欲しい」
陛下の言葉でカイウス殿下が私を連れて踵を返す。
私も振り返ったその時
————琥珀色に目が引き寄せられた。
優しくてあったかいシェイド様の視線と重なる。
「リリちゃん?おいで」
カイウス様の声に慌てて歩みを進める。
すぐに視界から消えてしまった私の初恋。
まだすっごく好きなのを再確認しただけだった。
でも、それでもいいかな。
魔毒が消えて、少しはマシに考えられるようになってきた。
好きなのは、変えられないもの。




