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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第1章

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殿下とのお茶会2

「マナーだったり歴史だったり。適任がいるんだ」


「適任……ですか?」


「うん、もう相当なお年なんだけど、生き字引って言われてる爺さんがいるよ。先代の王の宰相をやっていたみたいだけれど、今は引退して暇をしているからちょうどいいよ」



————それはちょっと興味あるかも。元々テオ君に簡単な事は教わろうと思っていたけど渡りに船だ。


「あの、『必要ありません』 」


私の言葉に被せてセフィロス様が断り、テーブルの上のベルを鳴らす。

カランカランと小気味いい音が響き、中庭に令嬢シスターズが入ってきた。

いつもと同じ服装だけれど、髪のヴェールを取っただけでとても華やかだ。


レネさんは薄い赤髪、あとの2人は茶色の髪だ。


「カイウス殿下、お久しぶりにございます」


「あぁ、ガランゼル公爵令嬢、お元気そうで何よりです。後ろのニ人はランズール伯爵令嬢とミラレス伯爵令嬢だね?聖教会へ行儀見習いへ行かれたと聞き、皆あなた達の事を尊敬しておりましたよ」


「いえそんな、私どもは貴族としてより厳しい世界で研鑽をつみたかっただけですわ」


(へ~~。セフィロス様狙いで入ったくせに)


「貴族のご令嬢が戒律の厳しい場所に自ら身をおかれているのです。社交界でも貴方達の話題でもちきりですよ」


「あらいやだ、どんな噂話か……お恥ずかしいですわ」


カイウス殿下は三人に向かって話しているけれど、答えているのはレネさんだけだ。

あとの二人は伯爵家と言っていたから、レネさんに道連れにされたに違いない。


三人とも席について、モブ令嬢二人(既に名前も忘れた)がカイウス殿下をはさみ、レネさんがセフィロス様の横に座った。

私とはセフィロス様を挟んで座っているので、カイウス殿下のモテっぷりを眺めつつ、レネさんとセフィロス様を取り合っている様な構図になる。地獄かな、ここは。


「リリ様、貴族のマナーをお知りになりたいのなら教会でもご支援できますよ」


気まずい沈黙を破ってセフィロス様が言う。


「あら、リリ様は前からそうおっしゃっておりましたものね、私達は幼少期よりマナーを叩きこまれておりますし、何でもお手伝い出来ますわ!」


(何で前から私が話してた設定なの!?あんたと話した事なんてほぼないよ!)


「リリ様の貴族マナーはこの者達が、歴史などは私が。ダンスのお相手も出来ますよ。心配しないでください」


「おやおや、リリ嬢がこまっているじゃないか。無理強いは良く無いよ」

カイウス殿下は焦った様子もなく優雅にお茶を飲んでいる。

どことなく、蟻の巣をつついてニコニコ観察している子どもの様な雰囲気がする。


何も気がついてないモブ令嬢がうっとりと彼を見つめていて、もうカオスだ。


みんな人の話を全然きいてない。


「リリ様は私達に特別な信頼を寄せてくださっておりますわ。やはり同年代のお友達も必要でしょうし…………。

そうだわ!猊下!まずはこのお茶会を定例になさったらどうかしら?裏で勉強ばかりでは息が詰まってしまいますし、何より実践の場としてちょうどよいのでは!?」


「そうだな。リリ様、その様に致しましょうか」


「わざわざ王城に行かなくとも、(わたくし)達が精一杯お教えいたしますわ!」



————「私、泥棒の心得を教えて欲しいわけじゃない」


「「「は?」」」


令嬢達が焦ってこちらを向く。


あぁ、私、魔熱はもうほとんど良くなっていると思っていたけれど違ったんだ。

女神様に完全に浄化してもらった事で今分かった。

悲しみの感情に飲まれて諦めることばかりだった。

怒り、不満、苛立ち、抗議。

自分のために怒る感情が欠如していた。

今なら、よく分かる。


「レネさんたちに教わるって事は、そういうことでしょ?プレゼントの盗み方とか、ご飯に石を入れるとか、必要な物を隠すとか。

あぁ、あとは食事の横取り……かな?私に持って来なかった分の食事、あれ、どうしてたんですか?皆さんよく食べますね。高位の令嬢が学ぶ事がこんな事なら私、必要ないです」


三人ともが固まって私を見ている。

いきなりこんなタイミングで私が怒るとは夢にも思わなかった様だ。


「あ、セフィロス様、テオ君を責めないで下さいね。私が口止めしていたので」 


「リリ、様……?」


「では、泥棒の皆さん、大好きなセフィロス様とのご歓談を続けてください。私は王城で《《別の》》お勉強がありますので。

カイウス殿下、予定より少し早いかもしれませんが本日より参りたいと思います」


「あぁ、こちらは大歓迎だよ」


私が立ち上がったので、カイウス殿下はニコニコ笑ってエスコートしてくれた。


後ろを振り返らずに歩く。


「私の侍従にこれを。必ず彼を連れてきてください。必ず」


デスクの引き出しの鍵を殿下に渡す。


「承知したよ。僕に任せて。前を見て、振り返らずに。このまま馬車まで行こう」

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