殿下とのお茶会1
朝から令嬢シスターズの機嫌が悪い。
レネさんだけじゃなく、とりまきの二人もイライラしている。
考えられる事は今日の昼にある殿下とのお茶会のせいで、朝から仕事が増えた事ぐらい?
どんだけ仕事嫌いなのよ。
抗議しようにも今は私の髪が人質に取られている。
おざなりにオイルを付けてブラシをかける力が鬼である。
「痛っっ……!」
髪が抜けて思わず声が出てしまった。
「はっ!猊下だけでなく、殿下まで侍らせる気?異世界の女は本当に恐ろしいわ。第三の神子なんて、本当なのかしら!」
別に私がお茶会しろって頼んだ訳じゃ無いのに。
第三の神子として国に発表された訳でも無いし、私の今の地位はただのセフィロス様のお客様だ。セフィロス様の認定は受けたけれど、何か発表をしたという事も無い。
大部分の人が敬ってくれているけれど、一部懐疑的な人もいるんだろう。
その筆頭が令嬢シスターズだ。
レナさんが持って来たものはドレスでは無く、聖法衣だった。
白に近いクリーム色で、金の刺繍が施されている。 セフィロス様の着ているもののワンピースドレス版といった所だ。
(何でそれ?お茶会でしょ。いつものドレスでいいのに。シンプルすぎじゃ無い!?)
といっても彼女達よりもマナーに詳しい訳でもないので黙って我慢する。
着るものなんて何でもいいし。
——トントン
「レネ様、猊下がいらっしゃった様です」
取り巻きの一人がそっと声をかけ、もう一人のモブが扉を開けた。
途端ににこやかに礼儀正しく接し始める。
セフィロス様は私の格好を見て破顔する。
「教会の色を纏って参加してくださるのですね。これは最高の牽制になります。それに……個人的に……優越感を抑えるのが難しそうだ」
令嬢シスターズは女性らしい華やかなドレスを私に着せたく無い。
セフィロス様は私を教会の物と主張したい。
お互いの思惑が一致したようで、令嬢達もあからさまにホッとしている。
「今日はご不安でしょうから、侍女達も参加させましょうか」
(はい!!??)
「君たち、髪隠しのヴェールだけ取って参加しなさい。こちらから呼ぶまで待機しているように」
途端に花が咲いたように華やぐシスターズに呆れてしまう。
これで満足してくれて嫌がらせが緩和してくれたら嬉しいので特に不満はないけれど。
「では、行きましょうか」
「はい……」
廊下に待機していたテオ君に行ってくるねと目線で伝えると、心配そうな顔をして見送ってくれた。
◇◆◇
「リリ様、こちはらアブレチア第二王子カイウス殿下です 第一騎士団の団長職であらせられます」
金髪のキラキラ王子様がそこにいた。
目が潰れるかと思った。
この世界に来て三人目の金髪君だ。サラサラした肩までの細い髪をハーフアップにしている。
さぞかしおもてになるに違いない。
ニコニコしたお顔が優しげで美しい。
「リリ・ユウキと申します。お会いできて光栄です」
「リリ嬢、固くならないで?僕とはリラックスして話して欲しい」
「あ、はい」
「不敬ですよ、カイウス殿下。リリ様は第三の御子、地位で言えば我らよりも上です」
え?そうなの!?
「まぁまぁ、僕はリリ嬢と親しくなりたいだけですよ。あまりがんじがらめにしなくとも」
「私も、堅苦しいのは苦手ですから、普通に接して下されば嬉しいです」
「ほらみなよ。王族の僕なら誰にも文句は言わせないよ。是非なかよくしましょうね、リリ嬢」
セフィロス様がイライラされている。
殿下とは馬が合いそうにないもんね。
え、これ私、間に挟まれて悲惨じゃない?
「リリ嬢は、体調が優れないと聞いていたけれど?」
「あ、はい、魔熱の症状があったのですが、もう大丈夫です。お気遣い、ありがとうございます」
「リリ様は病み上がりの身、ご無理をなさいません様」
「それはよかったよ。早く王城の案内もしたいと思っていたんだ」
カイウス殿下もセフィロス様も優雅にお茶を飲みながら華麗に相手を牽制している。
何これ、すっごく怖い。サラリとお互いを無視してる!貴族って怖い。
「王城へあがれる程のマナーが、私にはありませんので……」
なんか私が気を遣って話題提供しなきゃいけない気持ちになってきている。
切実に逃げたい!!
「そんなの、全然いいんだよ?リリ嬢よりも偉い人はいないからね、一応父上には敬語は使ってもらいたいけれど、聖教会と王族の間に亀裂を生まないようにするためってだけだから」
「いえ、まだ私が第三の御子と発表されたわけでもないですし……」
「お披露目のパーティーがあるはずだからね。リリ嬢がこんなにも回復されているなら、日にちを早める?僕がエスコートする予定なんだよ、楽しみだね」
カイウス殿下がふんわりした笑みを浮かべながら話す。後ろに花しょってる感がすごい。
「早め……るのは、ちょっと……」
「あれ、不安かな?それじゃあ王城にまずは勉強に来てみるってのはどう?」
「勉強……?」
「そ、マナーだったり歴史だったり。適任がいるんだ」




