支配と手綱1
「令嬢シスターズが来るまで余裕あったね!孤児院、寄って来ちゃえばよかったなぁ。私も行ってみたかったし!」
来た時と同じ様に送ってもらい、持ち帰ったお菓子でお茶にしてもらいながらぼやく。
テオ君は着いた足でそのまま孤児院へは行かず、私を部屋まで送った後に一人で戻って届けてくれた。
「それは……猊下の許可がないと、姫様への謁見は出来ないことになっていまして」
「お店の人は紹介してくれたじゃない?」
「あれは……侍女や侍従の可能性の無い者ですから……」
「どういう……?」
「えっと……猊下は姫様をお守りしたいのだと思うのですが……その……姫様の周りに配置する人材をコントロールしておいでです」
「え?」
「フレルヴェで僕と会う前に宿泊された他の教会でも、侍女が用意されたかと思います」
「うん?そうだね」
「あの、これは僕の想像なんですが、年齢や特徴がバラバラの侍女が、用意されたのではありませんか?」
「えと、その通りだけど、それがどうかした……?」
私と同じ年の子だったり、ばぁやと同じくらいの年だったり、お母さんぐらいの年齢や、騎士のような屈強な女性もいた。
「姫様の……挙動を……観察されていたんだと思います。その侍女達とは特別にお心を許した関係にならなかったのではありませんか?」
「あ、うん、良くはしてもらったけれど、みんな一日のことだったし……」
「だからフレルヴェでは僕が選ばれた。また毛色の違う駒として」
「何のために、そこまで……?」
「姫様がお心を許す人材を側に置く事で、こちらに留まって頂こうとされておられるのかと」
「何、それ……?」
「悪気は……無いんだと思います。あの方は、頭が良すぎるのです!高貴な方の侍女選びは、身分や履歴が精査される事が普通ですし!」
私の周りに置く人材はセフィロス様自らが選び、精査して行く?
「でも……お会いになる人の制限までは……行き過ぎかと、僕も思います。
これも僕の憶測ですが……もしも姫様が、猊下に孤児院への慰問をお願いするとしますよね?」
「う、うん」
「次の日には孤児院の子供達全員とシスター達の入れ替えが行われるでしょう。同じ事が何回もありましたから」
「えぇっ!?」
「その場合、僕と似たタイプの女の子を中心に、新たなタイプを何パターンか配置されると思います。僕がやるとしたら、そうします」
最後になんだか物騒なセリフが聞こえたけれどスルーしよう。
「あの三人の侍女達が選ばれたのは、他領でつけられた侍女達のなかで同年の女性が一番打ち解けられている様に見えたからではないかと」
「少し、お話しした程度だけど……」
「及第点でも姫様に侍女は必要ですから」
「……………………そこまでするのは普通じゃ無いよね?」
「……はい……高貴なお方の侍女や侍従は、身分と履歴、推薦で選ばれます。周りの配置を変えてまで観察する事は…………」
「そっかぁ……」
「その……猊下は、姫様が大切なのです、とても」
そうなのだろうか。大切にされているのは分かるけれど、首輪をつけられ、手の上で転がされている感じが否めない。
私の人生は、やっぱり私以外の誰かが決めていく。
◇◆◇
あれからニ週間がたった。
嫌がらせはパターン化しているし、何より私には豪華な宅配弁当がついているのだ。
ものが無くなる事とクスクス笑いの不快さ以外は困ることもない。
「うわぁ、今日も豪華だね!」
「姫様が猊下の大切なお客様な事を匂わせましたからね!張り切って作るはずですよ!」
「えぇ…………?」
うちの子、天使で策士!!
朝からたっぷりのフルーツとスコーン、目玉焼きとサラダ、瓶に入ったクロテッドクリームやジャム、ジュースまである。
毎食飽きない様に色々なメニューに変えてくれる神のごときお菓子屋さんなのだ。
「ありがたい~!朝昼お菓子だけを食べてた頃にはもどれないねぇ」
テオ君もニコニコしてうれしそうだ。
「少し余裕も出て来たし、午後はお散歩にいかない?もちろん教会内だけど、聖堂にまたいってみたいんだよね」
「聖堂ですか?午後からなら礼拝者もおりませんし、ちょうどいいと思います。人払い致しましょう」
「うん、ありがとう!」
特に発表した訳では無いのに、落ち人が来たという噂はあっという間に広まって、教会全体が浮き足立っている。
私が動くと人払いされるし、沢山の人に会う訳ではないけれど、会う人会う人が、跪くので困ってしまう。
セフィロス様によって厳選された人の中にいても、跪かれると顔も見れないから仲良くなりようも無い。




