買い出し2
「さぁ着きましたよ、聖都の街はグラセン公爵様の第二騎士団が警備を担当しているので、治安がすごくいいんです。姫様のお顔を知ってる者もいませんし、安心なさって大丈夫ですよ。僕も、お守りしますので」
「何から何までありがとう、アラン君」
「いえ……役得です!もうお昼ですし、お腹が空いたでしょう?ここはテオが好きなカフェなんですよ。個室をサーブ致しましたので、まずは何かお腹に入れましょう!」
「あ、でも先にこれを売りに行きたいの」
アラン君は一瞬辛そうな顔をしたけれど、すぐに笑顔になって言う。
「姫様のお気持ちはテオからきいております。ですが、男として!食事くらいは奢らせて下さい!それに、テオがいつもお世話になっているのです。これだけでは足りない思いです!!」
はて、お世話になっているのは私の方なのに。
「姫様、行きましょう!ここのオムライス、美味しいんですよ!!!」
テオ君はすでにお店に目が釘付けで、とても可愛い。
「ふふふ、二人とも、ありがとう」
食事の間気を遣ってか、令嬢シスターズの話はしないでいてくれたので、楽しく食べる事ができた。(オムライスはトロトロで本当においしかった。)
テオ君もモリモリ食べて満足そうだ。
「テオ君はアラン君と離れてフレルヴェに住んでいたんだよね?聖都のお店には、よく来ていたの?」
デザートのチョコレートケーキを食べながら、ふと疑問に思った事を聞いてみる。
フレルヴェに住んでいたにしては、このカフェの事もよく知っているみたいだし、何よりあの広い聖都の教会内部の事を熟知していた。
「あ、年に一度、新年の花祭りの期間だけ兄さんに会う時間を頂いていたんです。兄さんは騎士団の寮にいるので、僕はその間聖都の教会の孤児院で寝泊まりしていました。その時につれてきてもらったんですよ!ここで初めてケーキを食べました!!」
「ふふふ、今日のケーキも美味しいね」
「おかわりするか?テオ」
「するっ!!!!」
可愛いなぁ、一生懸命シフォンケーキをモグモグしている合間合間に私のチョコケーキも口にいれてやると、目が輝いていた。
はぁー、尊い…………。
雛鳥に餌付けするのって絶対こんな感じだ。
アラン君はワタワタ焦っていたけれど、最後には嬉しそうに笑ってくれた。
◇◆◇
「これで、どのくらいの物がかえますか?部屋着と、化粧品、それと日持ちのする食料が欲しいのだけれど……」
「それだけあれば、庶民の二年分位の収入です。買えないものはないですよ」
「はぃ!?」
そんなに!!??
宝石商でネックレスを売るとドッサリと金貨を積まれたので、私、国宝かなんかを売っちゃったかな!?と焦ったら、
「グラセン公か、猊下からのプレゼントなら、大丈夫ですよ。あのお二人にとってはチョコレートを買うのと同じ感覚です」
と、アラン君が苦笑しながら言うので無理やり納得することにした。
「金融ギルドがございますので、余った分は預けましょうね。大切な物を手放したのです。盗られては、いけませんので」
「ありがとうございます。公爵家から、持たせてもらった物なんです。訳を話せば、分かってもらえると……思います。会えた時に、ちゃんと謝ろうと思っています。緊急事態とはいえ、図々しい事をしてしまいましたので」
「姫様!!お買い物に行きましょう!僕、入ったことはないけれど、女の子の好きそうなお店は見た事あります!きっと、楽しいですよ!!!」
しんみりしかけた私をテオ君が引っ張って歩く。ここからは徒歩で見て回るそうで、街の賑やかさにワクワクする。
「わぁ、いろんなお店があるね!」
統一された石造りの建物のそこかしこで物が売られている。Vの字に並んで掲げられた王家と聖教会のタペストリーが美しい。
「まずはお洋服ですね、貴族用のお洋服が揃うお店に行きましょう!」
「ドレスは困ってないから、普段着になる様な物が見つかればいいな」(あと、下着!!)
「はい、一緒に探しましょう!!!」
目抜通りにあるひときわ大きなお店に入っていく。
ショーウィンドーには豪華なドレスが飾ってあったけれど、入ってみるとシンプルなドレスやワンピースが沢山あってほっとした。
アラン君が気を利かせてドア付近に控えてくれていたので、店員さんに小声で下着の有無を聞くと、ニッコリ笑って目視しただけで私のサイズを何セットもだしてくれた。
しっかり見えない様に包装された状態で出てきて、
「これで、ご満足いただけると存じます。何セットご用意いたしましょうか」
と余計な事を何も言わないスムーズさ。
テオ君がドレスに夢中になっている間の流れる様な接客に、脳内で拍手を贈りたい。
たっぷりチップを上乗せして(チップ文化があるかは知らないけど)シンプルなドレス数着と合わせてお会計をした。
異世界で、初めて自分でお買い物ができて感慨深い!
「楽しいですね!次は石鹸とかオイルのお店に行きましょうね。兄さん、知ってる?女の子に贈ったことある?」
「なっ!あるわけないだろ!!」
「ないの?こまったなぁ。石鹸は備品庫からも持ってこれるけど……姫様用のはもっといいにおいのやつだったんだよねぇ」
「違う!店はある。そうじゃなくて……!」
「なら良かった!姫様!支給の物ではない猊下からのお化粧は、開封前にすぐ盗られちゃうので今日買ったものは僕が管理しますね~!僕、絶対見つからない隠し場所があるんです!」
「ふふふ、じゃあ、一つ盗られてもすぐには困らないように、数セット買って、いろんな場所に隠してもらおうかな?」
「はい!そうしましょう!」
「…………そこまで……姫様、言いづらいのでしたら僕から猊下に具申致します!
一騎士の僕では猊下に謁するには時間がかかるかも知れませんが、必ずなんとかします!」
「いいの、大丈夫。自分で立ち向かいたい。テオ君がいてくれるし、アラン君も助けてくれた。だから、大丈夫」
「姫様…………」
アラン君は納得してなかったみたいだけれど、(しゅんとしたお顔がテオ君とそっくりで、ホッコリした)何とか宥めて買い物を続けた。




