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旅路1


領境で第一騎士団の方と合流して少しものものしくなったけれど、私とはあまり顔を合わせない様に聖主さんが配慮している様で、話をする程近くにはいない。


聖主さんも初日の様に私の馬車にずっと乗っているわけではなくて、私が退屈しない程度にお話をしに来て、あとは放っておいてくれた。

たびたび頭痛があったので、ありがたく一人にさせてもらった。


聖都のお隣のフレルヴェ領に入った五日目の夜にとうとう微熱を出して、ゴール手前で療養ということになってしまった。


「旅の疲れが出たのでしょう。聖都の主教会まではあと半日もあればつきますが、急ぐ旅でもありません。ここで少しお身体を休ませましょうね」


「すみません、ありがとうございます」


魔熱の感覚だけれど、微熱だし、意識もちゃんとしてる。だんだんと血をかぶった後遺症が癒えてきている証拠だ。


「猊下、あの……」


「私の事は、セフィロスと。あなたは聖教会にとって尊いお方、示しがつきませんゆえ聖都に入る前に、どうか」


「セフィロス、さま……」


「っ……!なるほど。若造の気持ちがよく分かりました」


?? 私がキョトンとしていると、セフィロス様はふんわり笑う。


「いつかは(さま)もとって頂きたいですが、今はこれでよしとしましょう。何かご用命でしょうか、リリ様」


「あ……魔熱について、教えて頂けますか。私、自分の事なのに知らなくて……」


「おや、お勉強会が再開できて嬉しいですね、ベットから出ないで良い子にしていて下さるのなら、お話しましょうか」


セフィロス様はそう優しく言って、ベットの横のスツールに腰掛けた。

オフホワイトに金の縁取りや刺繍のしてある聖衣がシュルシュルと小気味良い音を立てる。


「魔熱については、どのくらいのことを知っていますか?」


「えぇと、魔獣の血を浴びると発症する事、高い熱が出る事、出たり引いたりしながら治っていく事、病気ではないから薬がない事……そのぐらいでしょうか」


(おおむ)ねその通りなのですが——魔獣の血を浴びると一時的に魔が体に入り込む。コレが魔熱と呼ばれる物の正体です。ほんの少しついたりさわったりした程度なら人間の生きる力は強いので何ともないのですが、大量に浴びると大きな影響が出ます」


「体に入り込む、とは、乗り移られるということですか?」


「魔獣の血そのものに意識があるわけではないので、その表現は適切とはいえないですね。何と言ったらいいのか——負の気持ちに引っ張られるのです」


「自信がなくなるとか、クヨクヨするとかですか?」


「はい、簡単に言えば。

人間の心は複雑なので、一概には言えませんが、魔熱が高いと自殺を試みる者もいる程です」


「何となく、分かります……熱が高かった時はすごく、絶望的な気持ちになりました。あまり、覚えている事は少ないですが」


「先程もいいましたが、人間の生きる力は強いです。しっかり療養すれば、自然と元に戻る、というのが魔熱の共通認識です。自殺者もごくごく稀なケースですよ」


「本来のリリ様は、前向きな、天真爛漫な性格だったのでは?現に魔熱の影響が出ていない時は少女の様な愛らしいご様子でした。魔熱の影響が抜ければ抜けるほど、本来のご自分に戻ると思いますよ」


鬱病みたいな物かな。そういえば、あまりマイナスに考える性格ではないはずなのに公爵家にいたころの私はおかしかった気もする。


「私、そんなに酷かったですか?」


「ふふふ、どの様なリリ様もお美しく、愛らしいですよ」


「それ、答えになってないです」


「本心ですよ」


「セフィロス様は女性を喜ばせるのがお上手ですね」


「おや、誰と比べていらっしゃるのですか?妬けますね」


「そうゆう、わけでは……」


「ふふふ、冗談ですよ、さぁ、薬は飲みましたか?お身体を休ませなければ」    


「はい……おやすみなさい」


睡眠薬の強制的な眠気が徐々に全身に回り、揺蕩(たゆた)うように眠りに落ちた。




◇◆◇




「ん~~~!楽になったぁ!」


魔熱から来る頭痛も熱も翌朝スッキリ落ち着いた。


「それはよかったです!僕、猊下(げいか)にご報告に行って参ります!」


そう言ってパタパタと部屋を出ていくのは、フレルヴェ領の主教会で私に付けられた侍従の男の子、テオ君だ。

七歳なのにテキパキとお世話をしてくれて、私よりよほどしっかりしている。

孤児なので、教会に引き取られたんだって。

栗色の髪とクリクリとした緑の瞳が可愛らしい。


各地の主教会に入るたびに、セフィロス様は私に侍女を付けてくれた。

テオ君以外はみんな各地のシスターで、

私と同じ年の子だったり、おばあさんだったり、お母さんぐらいの年齢だったり、騎士のような屈強な女性もいた。

一日限りの侍女だったけれど皆とても良くしてくれた。


「テオからお着替えをと、言付かりました」


シスター達が入室してきて、私を着替えさせていく。

膨らんだ半袖の、胸の下で切り替えとリボンがある、クリーム色のロングワンピース。


聖教会で着るドレスは白やオフホワイト、クリーム色が多い。


編み込んだ髪に月桂樹を模した銀の髪留めをつけてもらって完成。 


あと一日フレルヴェに泊まることになっているせいか、いつもより気合いが入っている気がする。お化粧の時間が長いもの……。


「わぁ、姫様!お綺麗ですね!女神様かと思いました!!」


くっっっ、天然の人たらし!!テオ君が可愛い!!!!


「本日も輝くような美しさですね、エスコートの栄光を頂けますか?」


「セフィロスさま、はい、よろしくお願いします。テオ君、午後に教会を案内してくれる?」


「はい、任せて下さい!!」


ふふふ、可愛い。

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