出立1
「お嬢様、ドレスを全て置いて行くおつもりですか!?」
「あ、うん、聖主さんも、身一つで来てほしいって前に言ってたよ?」
「それは…………」
「あ、でもばあやの揃えてくれたお化粧品セットは持っていきたいな、コンパクトも、口紅もすごくお気に入りなんだよね」
「当たり前でございます!何でも!全て!!持っていっていいのですよ!ばあやが荷造りを致します!!」
「いいの、ばあや。置いて、行きたいの」
「お嬢様…………」
「あ、これ…………」
琥珀色の花のピアスとネックレス。
高価な物だし、持っていけないよね。
シェイド様の瞳の色に似ていてお気に入りだった。
「明日はこれをお付けになりますか?」
「でも、高価な物だから……」
「だめですよお嬢様、公爵家から出立するのです! 貴族令嬢として恥ずかしく無い様に致しませんと!」
「あ、うん、でも……」
「お嬢様が何とおっしゃろうと、持っていかないと仰るのなら、お嬢様に着せつけるのみです!ばあやの特権です!」
「ふふふ、ありがとう、ばあや」
持って行く物が少ないので荷造りなんてあっという間に終わった。
クリストフさんの護衛も午前までで終わって、今はもういない。
明日は見送りに来てくれると言っていたから今までのお礼をちゃんといわなくちゃ。
睡眠薬を飲む前にばあやがあったかいココアを入れてくれた。
これがすごく美味しくて大好きだったけれど今日で最後だ。
外は真っ暗で何も見えないけれど、お気に入りの窓際にココアを置く。
小さなテーブルに、シェイド様の隊服が畳んで置いてある。
「ばあや、いつかちゃんと……ちゃんと返すから、これを……借りていっても、いい?』
「お嬢様…………!!!そんな事……!!十枚でも百枚でも持っていって下さいませ!!!」
「ごめんなさい……シェイド様に、秘密にしてくれる……?」
「お嬢様、ばあやはお嬢様の味方です。明日は坊ちゃまもお見送りに参上しますから、袋に入れてわからない様にしておきましょうね」
「うん、ありがとう。ばあやと……もっといっしょに…………いたか……」
うまく言葉が出てこない。涙がポタポタと雫になって落ちて行く。
「お嬢様!!」
ばあやが抱きしめてくれて余計に涙が止まらない。
小さくてふくよかで、エプロンが似合って、豪快で優しいばぁやが大好きだった。