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聖主4

「元の世界に戻った方はいらっしゃいますか?」



え?何?全員が私の方を凝視したまま止まっている。

聖主さんはティーカップが途中で止まってしまっているし、じいやはお菓子を出す手が変な場所で止まっている。


「何か、変な事を言いましたか?」


「……いぇ、リリ様は、元の世界に戻りたいのですか?元の世界に大切な方が?」


「そういうわけでは……けれど、知りたいとは思います」


聖主さんは少しの間考えこむと、真っ直ぐに私を見て言った。


「リリ様はどの様にしてこちらに?」


「えっと、部屋で眠ったら急に景色が変わって……」


「肉体は世界の壁を越えられないのです。いや、出る事はできるのかも知れませんが、入ることはできないと言った方がいかもしれません」


「?」


「第三の御子(みこ)は肉体を持ったままこの世界を出ました。しかしあなたのいた世界に入った訳ではない。あなたのいた世界を新たに作ったのです。魔を封じ込めながら」


「それが、どういう……?」


「リリ様がこの世界に入ったということは、あなたは既に魂の状態であったと推測されます」


ヘーゼルの瞳に、こちらを伺うような、心配するような色がみえる。


「なぜ、眠っていらっしゃったのですか?」


「なぜ?わた、私は……」


あれ?なんで昼間から寝ていたんだっけ?


「お嬢様、大丈夫でございますか?」


「リリ嬢、顔が真っ青だ。猊下、今日はここまでに」


「あぁ私が運ぼう。リリ様、抱き上げますよ?」


急激に体温が上がる、魔熱の感覚が蘇る。

手が震えてうまく動かない。

誰かが抱き上げてくれたけれど、この人じゃない。違う。違う。違うの。


ボタボタと涙が下に落ちる。

違う、この人じゃ無い。嫌だ。




◇◆◇




「団長、すぐ来て下さい!リリ様が倒れました。おそらく団長を呼んでおられます!」


クリストフから通信魔法が入る。


「は?」


瞬間雑に移転枠を出す。図書室に出ると、猊下に抱かれて力なく暴れる彼女がいた。


「何をした」


声に殺気が混ざる。


「シェイド様、堪えて下さい!お嬢様はあなた様の殺気には耐えられません!」


泣きながら俺の方に両手を伸ばしてくる彼女を奪う様に抱き上げる。

素直に抱かれ、首に手を回してくる。


「猊下、この始末は、いづれ」


早足で彼女の部屋まで移動する。


「少し、眠れるか?」


「シェイドさま、シェイドさま…………!」


「ここに、いる。大丈夫だ」


ベットを嫌がるので、抱いたままソファーに座る。


「眠るのは、嫌…………!!」


「あぁ、じゃあ俺と話そう」


「あなたがいいの、シェイドさまがいい!他の人は嫌!嫌なの!」


「俺もだよ」


これは夢だ。

悪い夢。

俺の願望を閉じ込めた、甘くて悲しい夢。


ここまで魔熱が高いと記憶には残らないだろう。


「好きだよ」


優しく髪をすいてやる。

髪をすくたびにウトウトと瞼が下がって行くのがわかる。


「ごめんな」

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