『ちょー美女と野獣』野梨原花南 レビュー的読書感想文
誰もが夢見る王子様……なんていないと言われ始めて久しい現代。
それでも推したい物語がある。
『ちょー美女と野獣』
今はもう、電子にしかその名前を残していないコバルト文庫。
そこから発刊された本書は、いわばボーイミーツガールものだ。
絶世の美少女と、人語を話す野獣の出会う物語。
古典の『美女と野獣』と違うのは、呪いが解けてからが物語の舞台な点である。
というと、少々語弊があるかもしれない。
呪いが解けてめでたしめでたし、の後日談ではないからだ。
むしろ、呪いが解けた事で発生する諸問題が、この物語の推進力だ。
主人公の姫、絶世の美少女ダイヤモンドは大のもふもふ好きである。
もう一人の主人公、野獣だったジオラルドをもふる為だけに会いに行ったと言っても良い。
勘のいい人はお分かりだろう。
そう、ダイヤモンド姫にとって解呪は正に計算外、青天の霹靂。
ない尻尾が振られないとあっては、出るしかない。
旅に。
という訳で、呪いをかけた張本人の魔法使いに会いに行く。
話の筋は、至ってシンプルだ。
親が勝手に婚約者と決めた他国の王子が出てきたり、ナルシーな大魔法使いが出てきたり陰謀がぐるぐる巻きだったりするけれど。
その実、ストーリーラインはなんてことはない、その魔法使いの友人と仲直りしようとする物語だ。
ありふれた、どこにでもある、だからこそ大事な、物語。
それが、物語を彩るちょー個性的な登場人物と。あっさりしつつも、流麗に紡がれる言葉からなる美しい情景描写と。共に豊かに書き綴られている。
異世界恋愛、姫と王子ものが好きな読者になら、刺さるだろうと思うので、一読していただけたら幸いだ。
さて。
一通り大人しく書くことができたでしょうか。
ここからは、個人的推しポイントを語らせてください!
まず、主人公ダイヤ!
ダイヤちゃんのイイ性格っぷりは、書かずにはいられない!
細かく書いてしまうとネタバレになってしまうので、悔しいことこの上ない……こればかしは、本書を是非読んでみてください。
ぽややんがちなヒーロー、ジオとセットでとても尊いですから。まじで。
ところで。カッコいいお姉さんは好きですか? うんうん、老若男女好きですよねイケジョ。
います。リブロお姉様が。
この物語、キャラ配置がバッチグーで、死角がないと言っても過言ではないくらい本当に多彩なんです。
ナルシー大魔法使いスマート、スー様なんてその最たるもので。彼、呪文詠唱「さて俺様が命ずるぜ!」から始まりますからね!
食えない参謀臭漂う自称学者のライー、ぼっちゃんな他国の王子アラン、従者のグーナーは苦労人。
幸薄枠にはタロットワークという、ジオラルドに魔法をかけた張本人。
これだけそろって更にヒーローがもふもふとくれば、もうこれは読むっきゃない!
しかもですよ。
この作品はキャラだけじゃなくて、心情とか、とても丁寧で柔らかいのです。
例えばP141、
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「姫を取り返しに来た、周囲公認の婚約者はそりゃ嫌いさ。それに王子は武装していたしね。私に向けられた第一声が不埒なバケモノめ、私が成敗してやるからこの檻より出て来るがいいでは、好意を持つ方が変だろう」
耳まで赤くして聞いていたアラン王子は、咳払いを一つして言う。
「あ――……つまり――――――……」
「気にしなくていいよ、アラン王子。あの時は仕方なかったさ。だから」
「待て、ジオ。……今もう少しで……その」
「ん?」
苦笑に近い笑みを問いに代えて向けるジオラルドに、アラン王子は視線を向けず呟いた。
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ここでページを捲るようになっています。
その返答は、ぜひ実際に読んでみてほしいと思います。
きっと、とてもくすぐったい心もちになっているだろうから。
そんなふうに、この物語には随所にほんわかスポットとも呼べる場面が散りばめられています。
語らずには、心に留めずにはいられないそんな心の交流が。
自分だけのお気に入りほんわかスポット、手に入れて、そして誰かと語らってもらえたら、この物語も本望ではないでしょうか。