『図南の翼』小野不由美 レビュー的読書感想文
オラ、アミーゴ・アミーガ☆三屋城です。
とある募集に出しまして、採用はなかったのですが書いて勿体無いので(貧乏性?)投稿です☆
夢見るものはなんだろう、なりたい自分はどんなだろう。
そして目標のために何を為すべきか。
『図南の翼』
十二国記、読書好きのファンタジー好きなら大抵の人は知っているだろう小野不由美、通称主上と呼ばれる、有名作家のシリーズ作品だ。
この作品は、十二の国の、それぞれの王や麒麟と呼ばれる神獣を交えた群像劇である。
その中でもこの物語は、恭国という国の次代の王を決めるまでのある種の立身出世物語だ。
主人公は女の子。
そう、年端もゆかぬ幼い身で、単身王になることを決めその険しい道を進まんとする子がヒロイン、というよりヒーローと言っていいだろう。
若いみそらで王になる。
苦難が容易く想像できる話だが、しかしこの作品にそんな悲壮感はない。
と言うと言い過ぎかもしれない、実際は王が倒れて二十七年もの間その玉座は空白で、そのせいで民は辛酸を舐めているのだから悲惨だ。
主人公も大人の不甲斐なさだったり、同級生の理不尽な死を経験している。
だから許せなくて王になる。
とは考えないのがこの主人公のヒーローとも言える部分だと、私は考えている。
からりとしながら、けれどこの世のことわり、核の部分を垣間見るかのような深度を伴う読書体験。
主人公の珠晶十二歳とともに、蓬山を目指す気概のある人には是非、読んでもらえたら嬉しく思う。
と、カッコつけて言ってみたところで。
この物語の魅力は語り尽くせないなぁというのが、正直なところ。
というわけでワガママが許されるなら、存分に語らせてください。お願いプリーズ。
まず舞台のおさらいから。
十二の国がある異世界。読書のはじまりをどれにするかでも揉めるかもしれない、このシリーズは、日本があるこの地球とは違う? 世界のお話です。
政治のシステムはこの世界独自、麒麟という神獣が天啓を受け王を決めます。
王が善政を敷けば国にはなにも起こらず、しかし悪政をし民を虐げた途端に妖魔という獣が暴れる荒廃した土地へと変わっていくのが世界のことわりとなっています。
そんな世界で、お話は繰り広げられます。
壮大。
これだけ読めばさぞかし小難しく朗々と色々語られるような物語なんじゃ……と、思う人もいるかもしれません。
でも違うんですよ、あくまで人の根幹をなすような、そんなところを軸にして物語は展開されていきます。
元々のシリーズ化の始まりの物語『月の影 影の海』の主人公が、主上が受け取った少女たちからのファンレターに着想を得ているようなものなので、割合わかりやすく、けれどかなり抉ってきます。
気持ちのこう、深いところをぐりぐりと。
けれど、それがいい。
このシリーズは、その、自分の深いところをしっかり掘って見つめる作業も、一緒になってやっている感覚になるので、怖すぎない。
話を戻しまして。
主人公の珠晶は、裕福な家の子供です。
何不自由ない暮らしぶりで、荒れた国の中でも比較的安全に暮らしています。
お金の力で暮らせてゆけている。
自分だけが。
何もできない身で。
最初はその歯痒さからの反抗的態度に、理解できなかったりむかっ腹が立ってしょうがなくなるかもしれません。
けれど。
ただ、我儘なんじゃない、ということがすぐにわかってもらえるかと思います。
彼女はそのままではいなかった。
王になるために、幼獣も襲ってくるような昇山――王になるための麒麟への目通しをするのに、住まう山(蓬山)へ向かうこと――をします。
たった十二歳の子供が、危険を賭してまで。
珠晶はP389でこう言います、
――――――――
「違うわ。誰かに王になってほしかったのよ。いくらなんでも、十二の子供が王さまになれるわけないでしょ。そんなことがあったら、笑っちゃうわよ、あたし。ちゃんとしたものの分かった人が王さまになってくれれば、妖魔だって出なくなるし、飢饉が起こったりすることもないわけでしょ? だからいろんな人に昇山しないのか訊くんだけど、ぜんぜん相手にしてもらえないのよね。子供は無邪気でいい、とか言ってくれちゃうわけよ」
でもね、と珠晶は首を傾げる。
「ひもじい、怖い、辛いなんて、愚痴を言って人を妬む暇があれば、自分が周囲の人を引き連れて昇山して初めて、愚痴を言っても許されるんだと思うのよ。それもしないで、嘆くばっかり――
――――――――
まだ発言は続きますが、大事なところはその目で、足で、目撃してもらえたらなと思います。
とにかく、この子は逐一わかっているのです。
分かって、でも十二の自分ではなまなか大人と人生経験という説得力の面で対等にはどうしてもなれなくて。
その末の、行動力。
絶対王になろうという動機ではない、そんなヒロインかつヒーロー、珠晶の物語。
興味を惹かれて一緒に昇山してみちゃおっかな? と思う人が増えたら、私もとっても嬉しく思います。