『宇宙を魅る』 第二回ひなた短編文学賞 応募作品
私は結婚して家族がいる。
子供たちが小さな頃はヤンチャが過ぎて、怪我もしたし救急車も呼んだ。
夫婦間で大きな喧嘩もあった。
不安だったのだろう、子供たちは結託して、大人たちがあーでもないこーでもないとけんけんがくがくしている間、おもちゃをひっくり返し上げ、自由に遊んでいた。引っ越す前のアパートの壁など、白かった一面が鉛筆の黒や多彩な色鉛筆いろに染まって、それはもう壮観だった。ちなみに塗り壁だったのだが、ピカピカにするのに費用も壮観だったことは言うまでもない。
酷いことがおきていたにも関わらず、思い返す時それは面白い想い出へと変化していた。子供にとっては、傍迷惑だったかもしれないが。幸運なことに、すくすくと達者に育っているのは親のお陰というより本人たちの資質だろう。
そんな我が家のヤンチャっ子は、物作りが大好きだ。学校のプリントの裏紙を、私がしこたま集めるので、絵を自由に描いているし、気づけばハサミとテープを持ち出しなにがしか作っている。
もっと小さい頃には、ガムテープを使って部屋に規制線が張られたりもしていた。架空の科捜研が脳裏に現れ、マリコさん、出番ですよと言いかけた。
とにかくこればっかりは割合自由にさせたから、我が家の床は高頻度で賑やかだ。
ある時、床にコンパスが落ちていた。針が剥き出しになっていたから危なくって。叱るとこれから使う!と言う。ちゃんとしまってねと言ってほったらかすことしばらく。
床に転がって何かしているから、コンパスで円でも書いているのかと思って「床に穴が開くでしょ」と注意したら、書いてないよと言う。
じゃあ、何をしているんだろう?ハテナが頭頂部に浮かぶ私へ、見て? と我が子。
机の下を覗くと、天板裏一面に小さな宇宙が広がっていた。
きちんと宙に浮かし床を傷つけないようにして、根気強く、無数に開けられたのだろう穴から照射される光たち。
簡易ライトと厚紙の宇宙、それはどこまでも広かった。