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仕事

食堂で朝食をとったといえ、今日は特に予定がない。というか、予定がないのが普通だ。

いつでも魔物の討伐に出られるよう、予定はあけとかないといけない。何か絶対に行かなければいけない予定があれば、それは事前に申請しておかないといけない。

だから、ここ騎士団庁舎にはいろんな施設がある。

外には少し大きめの広場みたいなものと、そことは別に訓練用のアスレチックみたいなものが設置され、ほかにも様々な本が数多くある図書室、交流を広げるための談話室などが主にある。

ペアは原則一緒に行動しなければいけないから、どこへ行くにも今横でゴロゴロしている桃髪のやつとだ。

全力で遠慮させていただきたいものだけど、従わなくちゃなんだよねー、マジ無理だわ。

今日は図書室にでも行こうかなあ、とか考えていると部屋の壁に設置されてる赤いランプが光りながら騒がしい音を立てた。

「「……………」」

二人で顔を見合わせる。

このランプと警報は、出動の合図だ。

パパっと騎士団の制服に着替えて出発する。

移動手段は馬。人力車とかもあるにはあるけど、出動するたびに人をこき使うのは罪悪感が半端ないし、徒歩だと手遅れになる可能性がある。結果、移動手段は馬に絞られるのだ。

騎士団の入団試験に乗馬があるから、騎士団員は誰でも乗れる。

荷物は少ないから、馬の走る速度も速い。私みたいに小柄な人は振り落とされることもあるから、しっかりと馬につかまる。

しばらく馬を走らせていると、魔物の出現場所に到着した。

出現場所は、ランプの点滅によるモールス信号で知らされる。知らされるって言っても、座標を示されるだけだけどね。

「ここか」

さっそく魔物が民家の陰から出てきた。

「じゃあいつも通りな。ヘマとかすんなよ」

「は?こっちのセリフなんだけど。建物壊したらただじゃおかないからね」

「うぜぇ」

よし、こいつ〇刑!!

魔物は、個体によって形状が違う。あ、でも目が真っ黒だとか、どこからともなく現れるとか、人を襲う…とかは共通してるか。

犬とか鳥とか、形状によって攻撃の仕方は変わってくるからこそ、ペアとの協力が不可欠だって説明された。

こいつと協力なんてこっちから願い下げだね!!!

魔物は、人の怨念やらなんやらの負の感情が瘴気となり、それが凝縮したものだ。だから、人間をひたすらに襲う。

物理攻撃も効くけど、あんまりダメージは入らない。一番有効なのが魔法で、誰かを守りたい人が集まって魔物の討伐をするのが騎士団。そんなかんじ。

ちなみに今回の魔物の形は犬。ドーベルマン?だっけ、なんかめっちゃ筋肉ありそう。強そう。

私は巻き込まれるのは嫌なのでさっさと撤退します、さようならー。

ちちちちちがうもん!!仕事がめんどくさいからさぼりに行くわけじゃない!!!!

ないったらない!

私がいてもレイの足手まといになってしまうだけ。だから、戦闘や討伐はレイに丸投げして、私はけがをした住民の治療や壊れた町の修復をするっていうのを、ペアの組んで割とすぐに二人で決めた。

これは協力ではない。ただの役割分担だから協力じゃない。そう、ちがう。私とこいつが協力するなんて永遠にあり得ないし。

住民たちが避難している大きな建物の中に入ると、すぐに人に取り囲まれた。

「騎士団さま!!うちの子が、うちの子が………!」

「おいおせぇんだよ!!お前らが遅かったせいで、俺の妻は重症なんだぞ!?」

助けを求める声、ののしる声、子供の泣き声、けがをしている人のうめき声。

ああ、胸が痛い。

大体の現場はこんな感じだ。物を投げられてけがをすることも少なくない。今回は投げるものがないっぽいからいいけど……。

「けが人を治療したいので、道をあけてくれませんか?時間がないんです。言いたいことがあるなら後にしてください」

渋々、といった様子で道をあけてくれた人々。私は戦闘には向いてないけど治療とか修復には向いているから、四肢が吹き飛ばされたり死んでしばらくたっていなければ大体の傷を治せる。

その間も絶え間なく聞こえてくる、ひそひそ声。肉体に傷はないはずなのに、ちょっとずつ鋭利なナイフで胸の中身を切りつけられてるみたい。

いっつもこう。だんだん何かがすり減っていくような、変な感じ。

レイはいいよね、こんな気持ちにならなくて済むんだから。何にも考えず戦ってればいいんだから。

ヘマすんな?私のけがの理由すら知らないくせに偉ぶんな。そっちかうざい。私の気持ちも、後ろから切りつけられる痛みも、知らないくせに。

ただの八つ当たりだってわかってるけど、どうしてもはけ口っていうのは必要だから。胸の中で愚痴をひたすら言う。

こういうことしてる私が一番醜いんだって、わかってるはずなんだけどね。

「とりあえずここにいる方々の治療は終わりました。ほかに負傷している方はいますか?」

あたりを見回してみるけど、みんな首を振っている。最低でもここにはもうふしょうしゃはいないみたい。

あと、建物の修復と、ほかにけがをしている人がいないかの確認と、被害状況や魔物の特徴についてのレポートを書かなきゃだからそういうのも調べて…。

やることは結構ある。レイは魔物を討伐した後は疲れたとか言って寝るから、大体の後始末は私。ひどいもんだ。

「………はぁ…」

別にそれは悪いことじゃない。魔力を使うと精神的にも肉体的にも疲労がたまってしまう。建物を壊さないように魔物の攻撃を受け止めるのも、建物に魔法を当てないようにするのも、すごく精神力がいるのも知ってる。

ただ、ちょっとだけでも手伝ってほしい。

まだ戦闘音は聞こえている。私は私のできることをしないと。

気持ちを切り替えて、また歩き出した。


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