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 毎週土曜の二十一時。


 大抵のことはスマホで事足りる。大学のレポートを書くとき以外にとんと使われていなかったノートパソコンは、ようやく日の目を見た。


 アクセスするのは素人から企業まで、誰もが視聴・配信を楽しむことのできる動画サイトである。


『こ、こんくま~。夢雲(ゆめくも)テディです。今日もみんな、お疲れ様です』


 女の子(か、男の娘かは、視聴者の間でも見解が分かれている)のアバターが、ぱちぱちっと瞬きをして、両手を振っている。彼女(と、便宜上させてもらう。俺は女の子だと信じている)は大きなお団子ヘアがトレードマークで、イメージカラーは黄色。


『あっ、スパチャ・・・・・・その、僕なんかにありがとうございます』


 三人以上の戦うヒロインが出てくる女児向けアニメだったら、明らかに元気枠のカラーリングと造形。なのになんたる卑屈。 


 少なくはない視聴者からも、「僕なんかって言わないで!」「てでちゃんはカワイイヨ!」「もっとスパチャするから自信もって!」と励まされている。


『そう・・・・・・ですか? 僕、普段からあんまり褒められることないんで、嬉しいです』


 新人Vtuber・夢雲テディ。


 俺はこいつのことが、嫌いだ。


 配信を見るようになって、爆速で打てるようになったタイピングで、コメントを送る。


【その顔でカラーリングで僕っこで、「なんか」とか言うなすっとこどっこい】


 俺のコメントの後、草をはやす連中ばかりで、くそっと思う。


【笑うな】

【いやだって、Uじろさん相変わらずツンデレwwww】

【罵倒の語彙がゼロwwww】


 と、馬鹿にしてくるのは古参のオタクたちだろう。初見です~、と入ってきた視聴者は、和やかだったコメント欄が草で埋まって驚いている。


【俺はツンデレなオタクじゃない。こいつのアンチだ!】

【はいはい乙】

【アンチは生配信を毎回リアタイしてコメントしないんだよなあ】

【リアタイまでは百歩譲っても、コメントはオタだよ】


 夢雲テディなんて嫌いなのだ。敵対するにはまず相手を知らなければならないから、生配信を見ているだけなのに、顔も知らないこいつらは俺の話を聞かない。


『あの、あのう、コメント欄でケンカはしないでくださいっ』


 困り顔になった中性的美少女アバターに、訓練されたオタクたちは【はーい】とよい子のお返事をする。俺は沈黙。だって俺、オタクじゃないし。


『うん。ありがとうございます。それじゃあ、何か質問があれば・・・・・・』


 大手事務所に所属せず、個人勢のVtuberとしてひっそりとデビューした夢雲テディ。最初の頃の配信は、それはそれはひどかった。視聴者が少ないのも原因のひとつだろうが、そもそも彼女は、おしゃべりが得意ではない。


 ラジオだったら放送事故レベルの沈黙が下りることも多々あったあの頃の配信は、アーカイブからも消されている。


 そう考えると、視聴者と交流ができるようになった現状、かなり成長したようにも思える。


 ま、まだまだだけどな。


『最近嬉しかったことですか? うーん・・・・・・あっ、そうそう、ベンチプレス100kg余裕で上げられるようになりました。最高はもうちょっとあるんですけどね』

「は?」


 自然と声に出していた。俺だけじゃない、コメント欄も【は????】が流れていく。みんな他の言葉を忘れたらしい。


 立ち上がり、洗面所の鏡を見に行く。ひとり暮らしの男子大学生の部屋に、全身が映る姿見なんぞない。


 部屋着のTシャツから生えた腕はひょろひょろで、捲ってみても腹筋はぺらぺら。100kgどころか、自分の体重と同じ重さも上げられそうにない、貧相な身体。


「・・・・・・」


 こいつにできて、俺にできないなんてわけ。







「ということで、一緒にジムに行こう」

「待て待て待て。ということで、じゃなくてもっとちゃんと説明しろ」


 高校からの悪友・火野(ひの)を引きずって、やってきたのはトレーニング専門ジムの無料体験。


「今日びやっぱり筋肉でしょう」

「高校のとき、長距離走でごまかしてたの誰だよ」

「お前もだろ」


 てへぺろ、じゃねぇんだわ。古いんだわ。


 とにかく都会のもやしっ子を地で行く俺と火野だったが、負けられない戦いがここにはあるんだ、と説得をすれば、名探偵気取りの悪友は、「ははぁん」と、わざとらしい声を上げ、目を細める。嫌な笑い方だ。


「お前、そういや昨日の夢雲テディの配信、見てたよな」

「・・・・・・勘のいい奴は嫌いだよ」


 運動が好きではない俺がジムに通おうと一念発起したのは、夢雲テディへの対抗心である。


 あの華奢な美少女たぶん(俺の希望)がベンチプレス100kg上げていて、俺が全然持ち上げられないなんて、気に入らないだけなのだ。


 にゃははと笑う火野は、俺の背中をバシバシ叩いた。


「まあまあ、付き合ってあげましょう。あの子を紹介した責任もあるし」


 多少その気はあるが、俺は火野ほどオープンなオタクではない。話題になっている漫画を読んだり、たまたま入っていた配信サイトでやっていたアニメを、なんとはなしに見てみたり、アプリゲームをぽちぽちやったり。


 最低限の金は使うが、グッズを買ったりコンサートに行ったり、特典目当てに映画館に何度も通い詰めたりという行動はしない、極めて一般人なのである。


 だから、Vtuberという界隈についても、「そんなのがあるんだなあ」程度の感想しかなかった。


 火野はフットワークの軽いオタクで、自分の吟味したモノを俺に布教するのが好きな男である。俺の好みも考慮に入れてくれるので、こいつのオススメは大抵、ハマることが多い。


 一年前、夢雲テディが活動スタートしたのとほぼ同時に、彼は俺に言ってきた。


『オススメってわけじゃないんだけど、このVtuberを見てくれ』


 と。


 オススメしないならなんで・・・・・・と、見せられたアバターに、目が点になった。


 そんな俺の顔を見て、ぎゃははと笑う火野。


『な! 金本(かなもと)に似てるよな、この新人Vの子!』


 金本勇次郎(ゆうじろう)、大学三年生。


 先日も女子学生と間違われ、ミスコンに推薦したいと言われた。一年目も二年目も、同様に言ってくる人間がいた。


 特別フェミニンな格好をしているわけじゃない。サバ読んで165センチの小柄で細身な身体に合う服が、レディースの方が多いってだけで、デザインはユニセックスなものを選んでいる。


 キャンパス内は無理して大股で歩いているし、行儀が悪いと思いながら、足を大きく開いて座っている。


 それでも見てくれだけでボーイッシュな美少女だと思い込んで声をかけてくる連中には、「ああ?」と、地声で不機嫌にすごんでみせれば、「なんだよ、男じゃねぇか!」と、舌打ちしながら退散する。そっちが勝手に女だと思い込んだんじゃないか、とケンカを売ることもしばしばである。


 そう、顔と身体に似合わぬ声と中身。それがこの俺の生まれ持った個性だった。


 話を戻して、Vtuber・夢雲テディは、俺のこの顔をアニメや漫画に落とし込んだらこうなるかもしれない、という顔をしていた。ぱっちりした目。ふっくらした輪郭。小さめの口。強いて違う特徴を上げれば、俺は釣り眉で夢雲テディは垂れ眉ってところくらいか。


 俺に似たアバターが、「僕なんか」「僕なんて」「底辺なので僕」と、自分を否定することばかり言うものだから、イライラした。


 初めての動画を見たその瞬間から、俺はアンチになった。コメントでは必ず苦言を呈するようにしている。


 あいつに出来て、俺に出来ないことなんてない。だから俺も、ベンチプレスを100kg上げられるようになるのだ!


 並々ならぬ気合いに満ちた俺を見て、火野は「やれやれ」と肩をすくめていた。






 ジムではひとりひとり、専属のトレーナーをつけてもらえる。二人三脚で目標に向け、トレーニングだけじゃなく生活改善も含めて努力するのが魅力的だ。


「初めましてぇ。無料体験の金本様と火野様ですねぇ」


 やってきたのは、ユニフォームがぴっちぴちな二人組。甲高い声で挨拶をしたのはどこがとは言わないが豊満で妖艶な年上女性で、火野はわかりやすくテンションを上げた。こいつはオタクだが、三次元の色っぽいお姉さんも大好物の陽キャオタクだ。


 卯崎(うざき)と名乗った女は、一緒にいた男を「熊井(くまい)です」と紹介した。熊井は男ならば誰もが憧れる、立派な骨格に鋼のような筋肉、精悍な顔立ち。


 俺もこうだったらいいのになあ、と歯ぎしりしそうになった。


 熊井は見た目通りに無口な性質らしく、ぺこりと頭を下げた。その様子が、初めてのピアノの発表会に出た子どものお辞儀みたいだった。もっと武道家っぽい一礼を想像していたんだが。


 卯崎が俺の担当で、熊井が火野の担当。火野はあからさまに俺を羨んだ。


「だってどう見てもゴリラだし」

「そこはクマって言ってやれよ。熊井さんなんだから」


 見た目から火野はおっかなびっくりだが、俺に言わせれば、卯崎の方がよっぽど怖い。


「はぁい、それじゃあフォーム直していきますねぇ」


 負荷がかかった状態で、彼女は俺の身体をフォーム矯正という名目でベタベタと触る。俺が「熊井さんみたいな身体になりたいんですよね」と言うと、真っ向から否定する。


「熊井みたいに脳みそまで筋肉になったら困りますよぉ。それに金本さんのお顔にあの身体は、もったいないです」


 どうやら彼女は俺の顔が大層お気に入りのようだ。


 一方で、熊井のような男らしい顔の男は嫌いらしく、彼女は後輩である彼を、はっきりと見下していた。客である俺たちの前で、ああしろこうしろと一方的に命令をされ、彼が控えめに俺へのセクハラ行為を阻止しようとしてくれているのを無視したりした。


「うへぇ」


 うらやましがっていた火野も、これには幻滅だ。


 一通りのトレーニングが終わると、火野はへばっていたが、俺は全然平気だった。卯崎は俺が筋肉をつけたいと言っているのに聞き入れず、筋トレはおざなりにして柔軟やウォーキングマシンでのトレーニングばかり指導してきたせいだ。


 熊井は火野のことをしっかりと観察して、ギリギリの負荷をかけたのだろう。へぇへぇと苦しそうな息の火野は、しかしながら達成感を得たという気持ちいい顔でもあった。


 火野は入会しなかったけれど、俺はその場で入会手続きを取った。


「俺、熊井さんに見てもらいたいんすけど」

「・・・・・・熊井はまだ新人なもので、ひとりでは担当させられないんですよぉ。私がつきますから、一緒に頑張っていきましょうねぇ」


 ほんとかよ。


 俺の手続きを横で見ていた火野は、ぽんと肩を叩いて「まぁ頑張れ」とおざなりに励ましてくれた。






 あれからジムに通うようになったけれど、卯崎は相変わらず。


 最初は話し合いが足りないんだろうと我慢していたけれど、あちらは「私はプロよ」という態度で、自分ルールに従うことを強制してくる。


 何よりも耐えられなかったのは、熊井への態度だった。ろくに反論しないのをいいことに、パシリにしたり見下したり、やりたい放題の卯崎にはうんざりしていた。


「本当に、熊井ってば図体ばかりがでかくてとろくて申し訳ありませんね」


 と、熊井が担当している人にまで突っかかっていく始末。


 彼女は熊井のことを、「大きな身体に小さな脳みそ、馬鹿にされてもなんとも感じていない鈍い男」と評しているようだが、実際は違う。


 俺が見ている限り、彼は卯崎に頭を下げながら、拳を握りしめている。怒りとか悲しみとか、でも、それを表に出すことを恐れている。


 当然だ。彼は男で、卯崎は女。軽くでも手を出せば、悪者は熊井になる。


 どうにかしたい。でもどうすればいいかわからなくて、悶々としていた。トレーニングは全然やらせてくれない。卯崎は年下趣味らしく、外で会おうデートしようと、こそこそ誘ってくる。


 そんなある日のことだった。


 いつもならジムに来た途端、しなをつくって寄ってくる卯崎が、普通に挨拶をしてきた。天変地異でも起きるか? と思ってよく観察していると、スーツ姿の中年男性が施設内をあちこち見て回っている。


 おそらくこのジムのえらい人なんだと予想がついた。


 いつも通りの態度がよくないことはわかってはいるんだな。


 じっとえらそうな男を観察していると、向こうも俺の視線に気づいたらしい。近づいてくる。


「お客様。こちらのジムはいかがですか?」


 男はこのジムのオーナーだそうだ。


 定期的な巡回を欠かさず、そこで出会った会員の感想を直接尋ねるなんて、熱心な経営者である。


 さて、俺は幸か不幸か、中高と通った男子校で「姫」扱いをされていた。可愛い可愛いと撫でくりまわされる代償に、あれこれと便宜を図ってもらえる。


 だから、男を手玉に取るのは慣れていた。あの頃と背格好も顔も、ほとんど変わっていない。悲しいことに。


 きゅるん、と潤ませた瞳を上目遣いに。唇はちょっと小生意気に尖らせる。庇護欲と嗜虐欲、どちらもほどよく刺激する表情に、オーナーは「うっ」と息を飲んだ。


「あの、聞きたいことがあるんです」

「な、なんでしょう!?」


 君のほしいもの、なーんでも買ってあげる! だからねっ、ちょっとだけこの服着てほしいなあ・・・・・・。


 などと、セクハラ発言をしてきた大学講師のことを思い出した。もちろん断った上で大学に報告し、今や彼のその後を知る者はいない。


 オーナーはちゃんと紳士なので、表面上は取り繕っている。


「このジムは、筋肉をつけた男の人を馬鹿にしてもいいっていう決まりがあるんですか?」

「・・・・・・は?」


 俺は遠慮なく、卯崎の横暴さを暴露してやった。俺の希望を一切考慮しないトレーニングメニューや、必要以上に身体に触れてくること、それから熊井に対するひどい態度も。


 熊井が担当しているお客さんも、俺が話しているのを聞きつけて、何度も見聞きしたことを伝える。さらに、熊井がどれだけ熱心で丁寧な素晴らしいトレーナーであるかを語り、援護してくれた。


「僕は熊井さんがいいって言ったのに、卯崎さんが、こんな筋肉ダルマに教わったって楽しくないですよ、とか言って受けてくれなかったんです」


 卯崎はずっと、オーナーと俺とのやりとりに「えっ」「いやその」「そんなことはッ」と言い訳をしたそうに口を突っ込んできたが、俺たちのスルースキルを突破することはできない。


 オーナーは口元に手をやった。ダンディである。


「ふむ。これは調査をしなければならないな・・・・・・ねぇ、卯崎さん?」


 はいいいい、と青ざめる卯崎を見て、内心「ざまぁ」と舌を出す。


 すぐに調査に移るため、結果が出るまで自宅謹慎を命じられた卯崎に、今日はトレーニングできそうにないなぁ、と思う。そもそも、自分のやりたことは一度たりともやらせてもらえなかったんだけどさ。


「あ、ねぇ、君」


 熊井の件で援護射撃をしてくれた男の人が、声をかけてくれる。


「せっかくだから今日、僕と一緒に熊井くんとやってみない?」

「え、いいんですか?」


 もちろん、と爽やかに笑う男は、熊井ほどではないけれど、筋肉がついていて格好良い。


 熊井に師事すれば、俺もこんな風になれたりするんだろうか。


「ねえ、熊井くん。この子もいいよね?」


 呼びかけにハッとする。そうか。熊井もこの場にいたのか。俺のこと、見てたのか。


 バチッと熊井と目が合うと、彼はほんのりと赤い顔をして、うつむき気味だが、確かに頷いた。


「照れ屋なんだよ、彼」


 と、耳打ちされた俺は、熊井のその顔や仕草から、目が離せなかった。







『みんなもう気づいてると思うけど、僕、あんまり人に好かれるタイプじゃないんだよね』


【そんなことないぞー】【大好きだよっ】と否定コメントが飛び交う中、【確かにアンタ、うじうじしてるもんな。リアル知り合いだったら切れてるわ】とコメントした。


【はぁぁ? Uじろさすがにないわぁ】

【正論は時として人を傷つけるッ】

【知人じゃなくてもいつも切れてんじゃん】


 夢雲テディへの擁護コメントと俺へのツッコミコメントが乱立する中で、彼女は「まぁまぁ」と場を治めにかかる。


『Uじろさんみたいに、サバサバしてる人から見たらイライラさせちゃうんだよ。わかってる。でもね、そんな僕のことをちゃんと見てくれて、助けてくれる人だっているんだって、この間気づかされたんだ』


『だから僕、そうやって助けてくれる人の力になりたいし、みんなに慰めて励まされてばかりじゃなくて、僕がみんなのことを応援するのが役目なんだよなって、改めて思ったんだ』


 まずは配信を見てくれるみんなが、元気になってくれますようにっ! と、照れつつも手でハートマークを作った彼女は、大層可愛らしく、けなげであった。


 その日、夢雲テディはこれまでの最高額のスパチャをもらった。


『僕が応援するって言ってるのに、みんながスパチャくれたら逆じゃないですかぁ』


 と嘆く様に、「ふははは。最初からわかりきったことだろうが!」と、画面のこちら側で呟きながら、俺は赤スパを飛ばすのであった。


【やっぱUじろガチオタだろ】

【ちがう】





 ジムの方も、熊井に替わってから順調だった。


 彼は無口で無愛想だが、俺の言うことをちゃんと聞いて、希望に沿うようにトレーニングメニューを組んでくれる。


 最初、「もっと激しくてもいいんですけど」と知った口をきいた俺に、ふるふると彼は首を横に振り、とにかくやれ、とは言った・・・・・・いや、言ってはいないな。


 無言の圧力をかけてきたから、「とりあえずやればわかる」という風に俺は受け取った。


 このくらい楽勝なのになぁ、と思ったメニューは、実際にはギリギリ達成できるくらいのレベルだった。ひとつのトレーニングが終わると、ぺしゃんこになってしまいそうになる。さすがプロ。俺の見た目だけで、見極めることができるのだ。


 LINEも交換して、毎回の食事の報告もする。


 熊井の送ってくる文章は、彼の姿かたちとは似つかわしくないほど、なんというかこう、可愛らしかった。


【もう少し野菜がほしいですね。生野菜よりも温野菜、スープを足すだけでもOKですっ】

【今日のトレーニング、先週よりも姿勢がよくなってましたね。花丸です】


 ・・・・・・うーん。どっかで見たことあるような感じ・・・・・・。


「こんにちは~」


 既視感に頭をぐるぐるさせながら、今日もまた予約時間にジムへ。


 熊井がたくさんのファイルを抱えて歩いているのを見つけるも、彼はこちらに気づいていない。


 いたずら心が芽生え、俺はこっそり足音を立てずに接近する。


「こんにちはっ」

「!?」


 背後から声をかけると、意外とビビりな彼は、「きゃっ」と悲鳴を上げてファイルを落っことした。ファイルが可愛いくまちゃんのキャラクターものなのも驚いたけれど、それよりも。


 いやいやいや、なんだ今の可愛い声!?


 ファイルを拾いながら、恨みがましい上目遣いで熊井はこちらを見てくる。


 謝るのも忘れて、俺はじいっと彼の顔を見ることしか、できなかった。


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