第14話 ジルタスの街へ
新スキル《蛮勇王の真髄》によって《蛮勇王の鉄槌》の使い心地は劇的に変わった。
なんとなんと! 武器に《鉄槌》を込めることが出来るようになったのだ!
――え? なにそれ?
具体的に聞かれると説明に困るけど、
「ちょっとフィル!! サボんな、ばかっ!」
あっ、リリンカピンチっぽい。
ゾンビに押し倒されて、そのうえに次々とゾンビが積み上がっていく。
いい気……いや、揶揄している場合じゃないな。本気でまずそう。
「今行く!」
リリンカに群がるゾンビを《鉄槌》を込めたショートソードでなぎ払う。
刹那。
山盛りのゾンビが木っ端のように吹っ飛んだ。
中のリリンカは……無事だ。
「遅い!」
「悪かったって」
赤い光を帯び、バチバチッと火花を散らすショートソードから、いくらかバチバチが収まる。今ので《鉄槌》の三分の一ほどのエネルギーを使ってしまったからだ。
新スキル《真髄》の主な機能はふたつ――《鉄槌》の「充填」と「節約」だ。
一つ目の「充填」は武器に《鉄槌》を込めることが出来るようになる効果。
二つ目の「節約」は、武器に「充填」した《鉄槌》を威力控えめにして、1回分を何分割かにして使えるようになる、文字通りの「節約」効果がある。
ちなみに「充填」はゆっくりとスタミナを消費するため、《鉄槌》をそのまま使ったときのように一回使うと数秒意識が飛ぶということがない。これ大事! 大群を相手に使っても「気がついたらいきなり目の前に迫っていた」ということがなくなるのだ!
……あれは、本当に心臓に悪かった。
も一つちなみに言うと《破城槌》も「充填」と同じ理屈でゆっくりとスタミナを消費するため、気を失うことはない。反面、どうしても数秒ほどの「タメ」は必要になるが。
「とるるるる~!」
……っと、いかんいかん戦闘中だ。
東から数百規模のゾンビが接近中だそうだ。
「いい加減、うんざり! 相手にしてられないわ!」
倒れたゾンビの頭を何度も何度もクナイで突き刺しながらリリンカが発狂したみたいに叫ぶ。
「同感だよ」
はぁ~、先に言われてしまったけど、ぼくもいい加減、うんざり。
テュッテイ様と別れてから三時間。
なんとか森を抜けたけど、街道もゾンビだらけだった。
森ほどではないけど、斬っても斬っても、絶えるということがない。一匹倒すとその音を聞きつけて二匹が森の中から湧いてくる。移動しながらだから囲まれることはないけど、
「ずらかるわよ!」
「ちょっと待って!」
この団体さんをつれてジルタスの街に行くわけにはいかない。
ざっと見ただけで百匹は下らないのだ。
「置いてくわよ!」
ショートソードを逆手に持ち《鉄槌》を込める。
すると、剣身が赤熱を帯びたように輝き、バチバチと小さな稲妻が瞬いた。
「今行く!」
ショートソードを逆手に持ち直し。リリンカに答えて、――投擲!
ざしゅっ、と一匹のゾンビの胸板を貫く。
ショートソードを受けてもそのゾンビは平然としていたけど……。
次の瞬間、
全身から赤い閃光を放ち、周囲にいた数十匹ものゾンビを巻き込んで吹っ飛んだ!
「これでよし……」
運良く巻き込まれなかったゾンビは《鉄槌》の破壊音を聞きつけて右往左往している。
これでしばらくは時間を稼げるだろう。
しかし。
遠距離の相手に《鉄槌》をぶちかませるのは大きな利点だけど、そのたびに武器を失うのはいかがなものか。おかげで《鉄槌》二発で、ショートソードを二本とも失った。
今度から安い短剣でも用意しておけばいいかも……。
「まさかジルタスの街までついてこないわよね?」
追いつくと、リリンカは開口一番でうんざりしたようにそう言った。
「一応、置き土産はしてきたけど……」
不安になって後ろを振り返る。
ぼくの足音を追って何匹かは追いかけてきていたと思うけど……。
「あれ?」
「どうしたの?」
「ゾンビ達が――」
足を止め、180度振り返る。
「帰って行く」
我ながらおかしな表現と思ったけど、しょうがない。だってその通りだもの。
追いかけてきていたゾンビは1匹、また1匹と足と止めると森に引き返していくのだ。
「どういうこと?」
額の汗を拭い、最後の1匹が森を目指して帰っていくのを見送る。
東の地平線がうっすらと赤らんでいた。
「知らないわよ」
ぜぇぜぇ、と荒く息をつくリリンカ。
「実は、朝に弱いとか?」
「吸血鬼じゃあるまいし! ぜぇぜぇ……んぐっ、24時間、フルで動けるはずよ!」
「ふ~ん……」
ジルタスの街に近づきたくない訳でもあるのだろうか?
それとも、森を出たくないわけがあるとか?
「……まあいいや」
腐ったゾンビの思考なんて考えてもしょうがない。
予定通りジルタスの街に向かった。




