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第1話 新しい冒険

 ダンジョンから最寄りの町『フレイル』に帰還したぼくらは町の入り口で分かれた。


 双子の魔法使いのお姉さんは療養のため、しばらく宿屋に逗留するらしい。

 ニッケルトンさんは冒険者を引退して、『フレイル』にある実家の鍛冶屋に帰るのだとか。


 そのとき、ぼくはニッケルトンさんから、彼が使っていた武具や冒険道具を譲り受けた。

 ボコボコのボロボロで、武具としては役に立たないが、良い素材を使っているので、それなりの値段で売れから路銀の足しにでもしてくれ、とのこと。

 銅貨一枚でも欲しいぼくに断る理由はない。


 みんなと分かれ、ぼくも懇意にしている宿屋に戻った。

 お姉さんたちが泊まっている宿屋に比べれば、相当にグレードは落ちるけど、貧乏暮らしに慣れ親しんだせいか、多少粗末な方がぼくは落ち着けるので、これといった不満はない。


 目が覚めたら冒険者ギルドに足を運ぼう、と決め、丸一日ほど惰眠を貪る。

 目が覚めたのは翌々日の朝。


 体の節々はまだ痛むけど、活動に支障はなさそうなので、そろそろ起きようと思った、そのときだ。……ぐぇ、とぼくを鳴らして、シルキーが腹の上に乗ってきた。


「フィル~」


 珍しい。というか、初めてではなかろうか? シルキーが泣きそうな顔をしている。


「どうしたの?」


「英雄辞典が、英雄辞典が……」


 シルキーはうわごとのように呟きながら、英雄辞典をペラペラとめくり、


「壊れた~」


 観音開きにして見せつけてきたページは、……なるほど、破かれてあった。


「どうしたの、これ?」


「逃げているとき、たぶん、……破けた? ……破かれた?」


「破れるとなにかまずいの?」


「エセ英霊が逃げ出す」


「それって、……まずいの?」


「まずいかも、でもまずくないかも」


「わからない、ってこと?」


「そ」


「そうか~」


 壁時計を見ると、朝の9時を大きく越えている。もうちょっとで10時。


「大兄ちゃんが言っていた」


「なん?」


「『わからないことは考えるな! わかることだけ考えろ!』」


「……」


 シルキーの何か言いたそうな顔。……ちょっと呆れてる?


「もう外に出られる?」


「うぃ、どこ行く?」


「朝ご飯ついでに冒険者ギルドに行こうか?」



 安宿『カモネギ亭』から、歩いて10分。

 町の通用門から領主の館を一本で結ぶ大通りの中程にそれはある。


 大通りからうかがう店構えは大衆食堂のそれ。

 看板には、乱暴に書かれた『金獅子亭』の四文字。

 門扉はなく、両開きのスイングドアが申し分程度に外界を隔ている。


 スイングドアを押し開けて中に入れば、出迎えるのは怒号と罵声の大合唱。

 濃厚なお酒の匂いにそれだけで、くらりと意識がかすむ。

 奥のカウンターに行くまでに、丸テーブルがいくつか。椅子が数脚。

 そのほとんどに強面のお兄さんお姉さんが腰掛け、ぼくらに剣呑な目差しを向けてくる。


 一様、同業者なのだが、ぼくらを見る彼らの目差しは、狼の群の中に迷い込んだ、哀れな子羊を見るようで、ちょっかいを出してこないのは、彼らがそれなりに大人だから。いつものようにシルキーをマントのようになびかせたぼくは、さぞ奇異に映ったことだろう。

 全力で無視してカウンターに足早に向かう。


 ……おや?


 いつもならカウンターには栗毛のお下げの女の子がいるはずなだけれど……、


「――なにか?」


 今日は知らない人だ。

 受付嬢の制服姿は同じだけど、栗毛でも、お下げでもない。


 彼女の胸元のネームプレートには「リリンカ」と書かれている。

 年頃は、ぼくよりもちょっと上くらい。

 黒髪のおかっぱ頭で、美人か、可愛いか、と問われれば、間違いなく美人の部類。

 でも、猫目、っていうの? 

 目尻なんて、つんっと尖って、とても気が強そうな女の子だ。


「新しい人?」


「申し訳ありませんが、13才以下の入店はお断りさせていただいております」


「ぼく、14才なんですけど……」


「ご用件は何でしょうか?」


「……」


 慇懃無礼っていうんだろうか……ちょっとイラッとした。


「功績の換金をお願いしたいのですが」


 肩掛け鞄から冒険者カードを取り出し、女の子に手渡す。


「拝見します」


 カードを受け取った女の子は、何度かカードの顔写真と、ぼくの顔を見比べて、注意しな

 ければ気づかないくらい、ほんのちょっと、ほんのちょっとだけ笑った。


 ……嫌な感じ。笑われるようなことは何一つないはずなのに。


「少々お待ちください」


 女の子はぼくのカードを持ってカウンターの奥に消えた。


「功績の換金?」


 シルキーが聞いてくる。


「仕組みはよくわからないんだけど、魔物を倒すと、倒した魔物が冒険者カードに『功績』として記録されるんだ。で、仕組みはよくわからなんだけど、冒険者ギルドはカードからその『功績』を知ることができるらしくて、『功績』に応じて報奨金を払ってくれるんだ」


「謎、技術」


「ね~」


 シルキーと仲良くしていると、件の女の子が戻ってくるのが見えた。

 けど、……なんか変だ。

 肩で風を切り、大股でやってきて、ぼくと目が合うと、ギロッと睨み付けた。


「な、なに?」


「このカードはどこで?」


「どこって……ぼくのだけど?」


「嘘ですね」


 ばしぃん、とぼくのカードがカウンターに勢いよく叩き付けられた。

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