第30話 ラストバトル④
「まっ、まさかっ!! もう登ってきている?!」
信じられない!
な、なら! 穴を塞ぐだけだ!
「シルキー――」
またMPを借りようと思って振り返ると、シルキーは無表情のまま首を横に振った。
「MPからっぽ」
「……ぁぅ……」
誰のせい、ってぼくのせいだ。なら回復を……ああ、ダメだ! MP回復ポーションはお姉さんたちに使ってなくなってしまったんだった! かくなる上は!!
「ざおー!」
早足で大穴に近づき、駆け寄ってきたざおーからガンバルムンクを受け取る。
「お前たちはお姉さんたちをつれて脱出しろ」
「主、は?」
「あいつにとどめを刺す!!」
「無謀、は、良く、ない」
「勝算はある」
キョトンとして首を傾げるさび丸。
豆柴なら可愛い仕草だったけど、今の姿ではただオラついているみたいだ。
……ちょっと怖い。
「急げ! 豆柴に戻ったら事だぞ!」
「わか、った」
四歩足で走り去るさび丸。
ふとざおーがぼくを振り返って、
「主、健闘、祈、る」
どこで覚えたのか騎士のような敬礼をしてから走り去っていった。
『よかったのかい? 彼らの効果時間はまだ残っていたはずだろ?』
ソフィ様が顕現して呆れたように言った。
「従魔が倒してしまったらぼくの『実績』にならないですからね」
『強がりを言うね、この後に及んで君は。従魔の1匹や2匹、平気で使い潰せるくらいの非情さが持つべきだよ? 大事を成そうとするならなおさらだ』
「そういうのは嫌です。誰かの屍を超えなければ栄達できないというのなら、ぼくは村に帰って畑仕事に汗を流していた方がいい。その方が、よっぽど夢見がいいですからね」
『好きにしたまえ』
やれやれ、と肩を竦めてソフィ様はかき消えた。
――さて、と。
「どするの?」
「ここであいつを迎え撃つ。シルキーは――」
「逃げない。ここでフィルを回復させる」
「ありがとう。正直、ありがたいよ。立っているのもやっとだからさ」
強がりです。本当は、ガンバルムンクを持っているのも辛い。まるで、岩に突き刺さって勇者しか抜けない伝説の剣みたいに、重くて重くてしょうがないのだ。
「右手から治す」
「助かる」
『情けない姿ぢゃの』
今度は……ギガマラテス様だ。
ギガマラテス様が腕を組み、難しい顔をして現れた。
『泥のまみれ、血と汗を流し、全身に傷を負い、今にもぶっ倒れそうなていたらく』
「あぅ……」
ギガマラテス様を見るシルキーの目差しはぎろりと鋭さを増すけど、当のぼくは何も言い返せない。泥まみれに、血と汗だらけで、全身ぼろぼろ。まさに、その通りだ。
『だが、我が輩はそれこそが真に英雄にあるべき姿だと思うのだ!』
「……え?」
『泥にまみれぬ者が何をなせるものか! 血と汗を流さぬ者が人の苦労を、苦しみを本当に理解できるものか! 強がりで大いに結構っ! 仲間のため、激痛に堪え、強敵に臨むその姿のなんと雄々しきことよ! おおっ! まさに益荒男のあるべき姿よ!』
「は、はぁ……」
なんか、ひとり大盛り上がりしてるんですけど……。
『故に、我が奥義の一片を授けよう! その名も《リビドラオン》! 逆境にあればあるほど力を増し、やがては悪魔を千切り、神をも堕とす、滅脚の槍よ!』
「パンパカパ~♪ フィルは《リビドラオン》を獲得しました~、おめでと~♪」
と、シルキーのいつものあれ。
『励めよ、フィルよ!』
ギガマラテス様を象った碧い炎は最後にサムズアップをしてかき消えた。
「……」
「……」
「……はっ!」
うっかり息をするのを忘れていた!
短い時間なのに、まるで嵐のような一時だった。
相変わらず凄い人だ。まさに英雄、英傑とはあのような人のことを言うのだろう。
……って、いまさらギガマラテス様に感心している場合じゃなかった!
そうこうしている間にも、穴の奥の激震は着実に確実に近づいてきているのだ。
「どうやって使うの? その……《リビドラオン》?」
「手の平に全身の痛いを集める感じ」
いまいちよくわからなかったけど、とりあえずやってみた。
イメージとしては、全身の激痛をかき集めて、右手の手の平に持っていく感じで。
バチッ、バチバチッ、と手の平にいくつもの赤い稲妻が弾けて、
「……できた」
見る間に、直径がぼくの身長と同じくらいの黒い球が出来上がる。
なるほど、納得だ。
ギガラマテス様が言った『悪魔を千切り、神をも堕とす』とは伊達ではない。
深淵を覗くかのような黒い球体は、赤く――禍々しく輝き、その周囲を龍が舞うかのように稲妻が駆け抜け、内から外に、呼吸するように鳴動しているのである。予備知識がなければ、呪法によって生み出された邪悪極まりない何かと勘違いしていたことだろう。
「猛獣王との激戦によって左手と両足、あばら骨を八本も折られたギガマラテス様がこの技によって逆転勝利し、捕らわれていたエルフ族を救ったのは有名な話。――くる」
「いや、知らないけど――」
何が? と問い返そうとしてやめた。これ以上、間抜けな質問もない。
ずぅん! ずぅん! ずぅん! とすぐ足下から響いてくる。
「どう使うの?」
「武器をイメージして投げる」
「……わかった!」
バチィン、と稲妻が弾け、球体だった《リビドラオン》が内部から藻掻き苦しむかのようにその形状を変え、巨大な――捕鯨用の銛と見間違えんばかりの、巨大な槍を形作った。
「くる、くる、……くる!」
ずぅん! とすぐ側で激震が響く。ごきゅん、と喉が鳴る。
激震が止み、静寂が重くのしかかる。安寧のない、敵意と殺意に満ちた静寂だ。
ごきゅん、とまた喉が鳴り――、
直後、押しのけた空気を暴風に変えながら、ジェネラルが穴から飛び出した。
「くっ……!」
天井を覆い隠す圧倒的な巨体、ぼくを押し潰するかのような圧倒的な威圧感。
怪我のせいか、今さら怖くなった。
さっきまでのぼくはまともじゃなかったのだ。
こんなのアリがドラゴンに挑むようなものじゃないか! ぼくが奥義を出すのに、あいつはただ足をぼくの上に落とすだけなんて、こんなに分の悪いことはない!
勝てっこない! 逃げよう、シルキーを連れて、すぐに――、
「――っ!?」
開いた左手が日だまりのような温もりに包まれ、思わずはっとした。
ちらりと見るとシルキーがぼくの左手を両手で包み込むように握っていた。
「……がんばれ」
魔法のようなひと言だった。ただひと言で、ぼくの中で渦巻いていたものが一瞬にして凪いだ。あれほどまでに巨大に見えたジェネラルがもう相応のものにしか見えない。
「がんばる! ――《リビドラオン》!」
ぼくの呼びかけに《リビドラオン》は、どくぅん! と脈打つ。
《リビドラオン》を思いっきり振りかぶる。
――そして、投擲っ!
解き放たれた《リビドラオン》から一斉に赤い雷がほとばしり、その形状をより禍々しいものへと変えながら、段々と、段々とジェネラル目掛けて加速していく。
ジェネラルは咄嗟に腕を十字に組んで直撃に堪えようとした。
……無駄だった。
腕ごとその頭部を食い散らされた。首なしの胴体がまた穴へと落ちていく。
「……ふぇ?」
勝った、という実感さえないまま《リビドラオン》がダンジョンの天井を貫き、赤い稲妻を走らせ、蜘蛛の巣のような亀裂を穿った。そして、天井を埋め尽くせば、次は壁、その次は床と、赤い稲妻によって亀裂はどんどんと広がっていくのである。
「まずい、かも」
シルキーの独り言に「何が?」と問おうと思った、そのとき。
――おおおおおおおおおおおおおおっ!
ダンジョンを激震が襲い、地の底から何者かの絶叫が木霊した。
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