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第29話 ラストバトル③

「……な、なんだ?」


 爆音が連鎖し、地面からいくつもの火柱が噴き上がる。

 光線に撫でられた地面が、その圧倒的な熱量に堪えきれずに爆発しているのだ。

 と、妙に冴えた頭で理解。


 ぼくらは……そうか、あれに巻き込まれて……凄い衝撃だった。

 高熱を帯びたハンマーでぶっ叩かれたかのような衝撃だった。


「雷光よ、疾く弾け、疾く癒やせっ、――《スパーク・ヒール》」


「……シルキー?」


 横たわるぼくの横でシルキーが回復魔法をかけているんだけど、……何事?

 でも、シルキーが無事でよ……くない! シルキーの額から血が出てるじゃないか!


「シルキー、血が……ごめん……怪我させた」


「大丈夫。それよりフィルの方が重傷」


「重傷?」


 実感はない。だってどこも痛くないもの。手や足だって、ほら……あれ? 感覚が。


「シルキー、なんか……感覚がないみたいなんだけど?」


「爆発の衝撃で体は中までぼろぼろ。五体が残っているのは奇跡」


「うわっ、そんななんだ。……治る?」


「治す」


「んじゃ、ぼくも。雷光よ、疾く弾け、疾く癒やせっ、――《スパーク・ヒール》!」


 とりあえず自分に回復魔法をかける。あ~、癒やされる~……って、


「ジェネラルは?」


 そのとき、どぉん! どぉん! どぉん! とけたたましい音が鳴り響いた。

 寝起きにはきつい騒音だ。

 何だよ? と音の方に顔を向けると、


「こっちだ! こっちだ! ぎょろ目野郎!」


 さび丸とざおーがぼくを守るように立ち塞がり、その目の前では……。

 ニッケルトンさんだ――ニッケルトンさんがボコボコになった自前の盾を、半分に折れた自前の長剣で叩き付け、方々に逃げ回りながら何やら大声で騒いでいる。


 ……何をしているのだろう? ちょっと理解できない。


 あんなことをしたらジェネラルの気を引くことになるのに。

 案の定、ジェネラルはニッケルトンさんを追って右往左往している。


 そ、そうか! ぼくのために囮となって注意を引いてくれているのだ!


「にっ、ニッケルトンさんを助けないと……」


 ……くっ、起き上がろうとするが体に力は入らない。クラゲになったみたいだ。


「ざ、ざおー!」


「うほ?!」


 ざおーが振り返る。

 ぼくの無事が嬉しいのか「うほほん♪」と小躍り。愛い奴め♪ ……じゃない!


「ニッケルトンさんを助けろ! ――《真価を示せ!》」


「うおおおおおおおおお!」


 本来の姿を取り戻したざおーがジェネラルに躍りかかる。


 流石のジェネラルもアンゴルモアトロールの乱入は捨て置けないのか、ニッケルトンさんを追うのを止めて、油断なく構えた。


 これでニッケルトンさんに集中していた注意がふたつに分かれた。あとは……。


「フィル君!」


 テトラお姉さんの手を引き、テトルお姉さんが駆け寄ってきた。


「酷い怪我っ! 光よ、天地創造に倣い、今一度奇跡を示せ――《ハイ・ヒール》!


「お、お姉さん、隠れてないと……」


「いいえ、今のうちに逃げましょう」


「でも、ニッケルトンさんが……」


「彼の作戦よ」


「ニッケルトンさんが?」


「『俺が引きつけておくからフィルを連れて逃げろ』って」


「そんな――」


 ……あっ、なんか感覚が戻って、


「いだだだだだっ!」


 感覚は感覚だけど、これ激痛だ。や、やばいっ……これだけで死に、


「あっ――」


 ぼくが大声を出したせいか、ジェネラルが振り返る。……目が合った。


「い、いゃばい!」


 ジェネラルの単眼が金色に輝く。十中八九、件の魔法を吐き出す気だ。


「どこ見てやがる!」


 ニッケルトンさんの怒声が響き、直後に何かがジェネラルの単眼に飛び込む。

 何かが、……いや、ニッケルトンさんのボコボコの盾だ。

 次の瞬間、ジェネラルの絶叫が木霊した。両手で顔を押さえ、激しく悶える。


「お? お? やったか?」


 ……ニッケルトンさん、それフラグです。 


 いや、冷静にツッコミを入れている場合じゃない!


「い、今のうちに――」


 シルキーに肩を借り、立ち上がろうとした、そのとき。


『いいか、フィル――』


 大兄ちゃんの声が脳裏に蘇った。


『巨人族の急所を狙うときはそいつの息の根を止めるときだ。さもなければ――」


 ……さもなければ?

 轟音が大兄ちゃんの声をかき消し、巨大な影がぼくらに舞い降りる。


 わざわざ顔を上げる必要さえない。ジェネラルが滅茶苦茶に暴れ回り、蹴り上げた地面が――地面だった土の塊が、視界いっぱいにぼくらに迫ってきているのだ。


「や、やばいっ!」


 ごきゅん、と唾を飲む。

 絶望が押し寄せ、恐怖に支配されるよりも先に、頭が激しく回る。


 ――《鉄槌》は……ダメだ、使い切った。


 ――なら《瞬間建築》で防波堤を……今度は強度が、それにMPもヤバい。


「ばぁう!」


 ――さび丸?!


「一か八か! ――《真価を示せ!》」


 さび丸が瞬時に元の姿を取り戻す。もはや可愛いだけの豆柴はそこにはいない。

 サムライの鎧に、刀と呼ばれる武器を腰に佩いたもののふが一匹。

 サムライと化したさび丸は刀を抜き放つことなく、ただ柄に軽く手を添えて――。


「――サミダレ・ギリ!」


 ちぃん、と鈴の音にも似た音が響いた。

 それが、刀の鍔と鞘の鯉口がぶつかった音だと理解するのに数秒。

 直後、斬撃の軌跡が光を帯び、無数に土砂を切り刻む。

 時間にして1秒、……いや2秒。

 大波のようであった土塊が無量の粒となってかき消えた。


「すっ、すげ……」


 ぼくが呆ける間に、さび丸が追撃を駆ける。

 ざおーもそれに加わるのに、ジェネラルは大きく後ろに飛び去った。


「まずいな……」


 流石のジェネラルも上位種&高レベルの二匹に脅威を感じたのだろう。

 けど、距離を取ったのは決して逃げるためではない。その方が有利だからだ。

 案の定、ジェネラルはかがみ込むと、両腕で地面を掴み取み、ごごごごごっ、と地鳴りを上げて、地面を――もはや岩盤と呼んでも遜色ない大岩を持ち上げた。


「や、やばい……シルキー、MP貸して!」


 ざおーとさび丸がジェネラルの攻撃を阻止しようとなおも駆ける。

 けど、遅い!

 ジェネラルは全身をバネのようにして大岩を放り投げようとした。


 ――ぱちぃん!


 その瞬間、ジェネラルの足下に大穴が開いた。

 アイギス様の《瞬間建築》でジェネラルの足下に特大の落とし穴をこさえてやったのだ。

 ジェネラルは穴に吸い込まれるように落ちた。

 遅れて大岩が後を追い、ずぅん、と足下の奥深くで激震が響く。


「あ、危なかった……」


 我ながら咄嗟によく思いついたものだ。

 これでジェネラルを倒せたとは思えないけど、時間くらいは――


 ずぅん! ――ずぅん! ずぅん! ずぅん!


「な、何の音?」


 足下から響いてくることの音は……段々に大きく、段々に近くなってくる。


「まっ、まさかっ!! もう登ってきている?!」


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