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アナザーサイド~ガリウス~

 俺様は『王様』となる男だ。

 俺様の人生はそのためにあるはずだ。

 当然『王様』となる俺様の判断に間違いなどあろうはずがない。


 ……あろうはずがない、のに。


 どうしてこうなった?

 フィルを囮にして桟橋を落としたのは英断だったはずだ。


 それを理解せずにニッケルトンの脳筋がパーティを抜けたのは,……はっ、大したことじゃねぇ。あんな馬鹿がいなくなって何一つ困ることはなかったしな!


 女好きのゴブリン共に、テトルをくれてやったのも悪くない判断だ。


 おかげでゴブリン共を巻くことができた。しばらくはゴブリンに襲われる心配はしなくていいはずだ。ゴブリン共は今頃、へへへっ、お楽しみだろうからな!


 テトルが小煩かったから好きにさせたが、思えばこれも判断としては悪くない。


 道すがら多くの魔物をぶっ殺してくれるだろうし、敵わなければその体で魔物共の足を止めてくれるだろう。まさに俺様のために生まれたかのような女どもだ!


 それに比べて、グルワーズのぼんくらは……はっ、胴体を真っ二つにされて死んだ。

 俺様に先走って宝箱を独り占めにしようとしてミミックに食い殺されたのだ。


 そのミミックも宝箱の残骸を散らして死んだ。

 俺様が殺した。

 ……ははっ、笑うしかない。

 苦労して倒してミミックの宝箱から出てきたのが薬草一束とは。


 俺様は『王様』となるはずの男なのに……。


 ――くそっ!


 こんなはずはない。俺様は『王様』になるはずの男なのに……、こんなことがあって良いはずがない。俺様は『王様』になるはずの男なのに、これでは、まるで、ただの――。


 ――はっ、そうか! 


 そういうことか……くくくっ、流石俺様、気がついたぞ。

 これはきっと『試練』という奴だな。『王様』なるはずの男に試練などと片腹痛い!


 だが、すべては終わったことだ。

 俺様の英断によってすべての『試練』を乗り越えた!


 あとはこのダンジョンを脱出すれば、俺様には栄光が、栄光が待ち受けているはず。

 二つになる前のグルワーズが言っていたな。


 ――風が変わった。出口は近い。


 ダンジョンは普通、下層に行けば行くほど敵が強くなっていくものだ。

 だから、出口付近の魔物など、雑魚ばかり……の、はず? 


「嘘、だろ……?」


 開けた場所に一歩踏み込み、外と変わりない清涼な空気が俺を出迎える。

 俺様でも出口はすぐ側だとわかる。

 だが、俺様の足は動かなかった。動いてはならん、と俺様の本能が警告を発していた。


 空けた空間の中心にそいつはいた。

 出口と思しき金色を背に負い、分厚いまぶたに隠された隻眼がゆっくりと開かれる。


 身の丈は、小山ほど。目測だが、20メートルは優に超えているだろうか。

 サイクロプスとか呼ばれるひとつ目の巨人族のようだが……、


 何かが違った。


 図鑑で見たサイクロプスは腰布に棍棒という蛮族のような格好で、幼子程度の知能しか持たないと記載されていたのに、目の前にいるそいつはどうだ?


 全身に漆黒の鎧を着て、片手には鋭利で分厚い段平を携えているではないか。

 俺なんかよりも遙かに立派な装備だ。まるで一軍を率いる将軍様のようだ。


 その上、隻眼に宿る鋭い光は、阿呆のそれではない。

 数多くの阿呆を見てきたから俺様にはわかる。少なくともこいつは阿呆ではない。


「――クソがっ!」


 俺様は『王様』になる男だ。

 いつかは英雄となって、どこぞの姫にでも見初められ、一国の主となる男だ。

 こんな鎧を着ただけのぎょろ目野郎に負けるはずがない!

 村でも、町でも、腕っ節で俺に適う奴はいなかった。……そうさ! 今だって!


 長剣を抜き、ぎょろ目野郎の足を切りつける。


 ――パキィン!


 甲高い音が響き、長剣を持った手にしびれが走る。


「――あっ」


 折れた。俺様の長剣が、半分に。

 ぎょろ目野郎が長大な段平をゆっくりと振り上げる。


 一も二もなくは転がって逃れた。

 直後、砂利と暴風が俺様を強かに打ちのめす。

 宙に浮き、そして落ちる感触。


「――ぐぅ!」


 受け身を取り損ね、背中に床に叩き付けられる。

 呼吸が、できない。死ぬ! ……かと思った。ふぱっ!

 俺様は『王様』になる男なのに、木っ葉のように、――いかんっ!


 巨影がまるまると俺様を呑み込む。ぎょろ目野郎の影だ。

 咄嗟に起き上がり――

 その直後、背後で爆音が轟き、俺様の視界はぐるぐると転がる。

 なんたる屈辱っ! 今度は路傍の石ころのように転がされて、――あっ!

 ぎょろ目野郎の巨大な腕が、腕が! 俺様をむんずと掴んで!


「や、やめろ! 何しやがる!」


 ぎょろ目野郎の隻眼に、涙と鼻水と涎で顔面をドロドロにした、小汚い男が映る。

 路地裏で会おうものならストレス発散のために訳もなく暴力を奮っていたであろう、生きる意味も、その価値も見いだせないような乞食のような男だ。


 そいつが、俺様を見て、笑った。


「――なっ!」


 今度は、俺様を見て、怒った。


 ……唖然とした。

 そいつは、俺様だった。


「これが、俺……?」


 俺様は『王様』になる男だ。こんな、こんなはずはない……。これではただの――。


「――ひぃ!」


 ぎょろ目野郎の口が開かれ、俺様の視界が尖った岩のような牙に埋め尽くされる。

 ぎょろ目野郎が次に何をしようとしているのか、他人事のようにわかった。


 だが、認められるはずがない。

 俺様は人生は『王様』になるためにあったはずなのに……これは何だ? なぜ、ぎょろ目野郎は俺を捕まえて、ソーゼージを喰うみたいに頭から齧りつこうとしてやがる? おい、やめろ! 俺様はお前ごときが腹におさめて良い相手じゃないぞ! 俺様は『王様』になる男なんだ。こんなところで終わるはずがない! 終わるはずがないんだ! これじゃまるで俺様は、俺様の人生はお前に喰われるためにあったみたいじゃないか!


「や、やめっ――」


 こんな、こんな馬鹿な……これじゃ俺様は、ただの――。

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