初試合
=====レティシア視点=====
ソフィアさんは寝たようだ。…というか、ベットについてから寝るスピードが信じられないほど早い。
ボクはナイフを取り出し、軽く素振りをした。短剣の腕をなまらせないよう、毎晩練習をしているのだ。
…けれど、貴族で短剣を使う人は、悪いイメージを持たれる。
その理由は、「短剣」という言葉の第一印象として、”盗賊”や”海賊”などが挙げられるからだ。
ボクの魔法の腕は最悪だから、無理に短剣を使っているだけ。
―そうして練習していると、あっという間に時刻は0時を超えた。
「あーあ、少しも眠くないや。」
…いつも寝ていないせいか。というか、本当はボク、寝なくてもいいんだけどね。だって…
=====ソフィア視点=====
ふぁー…ちょっと早く起きちゃったな。えっと、今は何時だろう?
まだ朝の4時30分か。いつも6時に起きてるから、あともう少し二度寝できそうだ、…な?
って、
「レッ、レティちゃん!?」
目の前には、ナイフを構えているレティちゃんがいた。
しかも、冗談だとはとても思えない、真剣な顔だった。
「え!?えっと、どっ、どういうこと?」
「ナイフの素振りをしているんです。」
あ、嗚呼、なんだ!びっくりした。殺されるのかと思ったよ…
でも、なんで賢者なのにナイフを持っているんだろう?ナイフは、賢者というより、盗賊とかが使っているイメージがあるけど。
「―いや、それにしても、何でこんなに早く起きてるの?」
「うーん、早く起きたというより、徹夜した、という方が正しいですね…」
て、徹夜?そんなに寝なくて平気なの!?
「少し、疲れましたけどね。」
そう言って、長い黒髪をかきあげる仕草さえも、優美さに満ちている。やっぱり、レティちゃんはかっこいい。
あんな風になれたら、お母さんもお父さんも、『成長したね』って言ってくれたのかな?
「はっ!ほっ!」
そして、疲れている筈なのに顔色一つ変えず、レティちゃんはまた素振りをし始めた。
=====レティシア視点=====
「ふふ、せっかくなので、一試合かましませんか?」
「へ?」
ボクはニヤッと笑って木のナイフに持ち替えた。
実のところ、こうして笑えるのは、ナイフの練習をする時だけである。…多分、母の影響だろうな。
「どうします?試合、しますか?」
「する、やりたい!」
ソフィアさんは勢いよく答えた。断られるかと思ったが、案外すんなり納得してくれて、ほっと胸をなでおろす。
「はい、木刀です。」
そっと木刀を手渡す。
「外でやりましょう。では、ボクは先に行ってますね。」
ボクは窓から外に出た。壁を蹴って、宙で一回転し、ストッと草原に着地する。
階段を使うより、こっちの方が早い。…そうして、少し待つと、ソフィアさんがやってきた。
「さあ、始めましょうか。」
両者とも、それぞれの武器を構えた。
「試合、始め!!」
始めの合図と共に、間合いを詰めて攻撃にかかった。
木の剣同士が跳ね返し、跳ね返され、コンっと決まりの悪い音を立てる。
その隙に、すっと高くジャンプして、
「巨大剣、夢想、アレクサンドライトッ!」
巨大化させた剣で上から斬りつける。
「えっ!?何それ!」
…避けられたか。やはり、ソフィアさんは上手いな。
「えいっ!」
ソフィアさんは、『今だ』と言わんばかりに、全力で斬りかかってきた。
手に、鋭い衝撃が走る。通常の攻撃でこんなにもやられるとは、不覚。
「ブリーズ・プリューム!」
技名…?しまった、油断していた。
「くっ!」
何とかわしてはみせたが、少し木刀がかすってしまったようだ。
「くらえ。」
我武者羅にナイフを振りまわす。命中するかは分からないが、とにかく今は手が痛い。これ以上技を繰り出せるような状況ではないのだ。
「痛っ。」
この反応…どこかにナイフがかすったのか。
「同点、ですかね。」
「そうだね。」
そうして、ボクたちの試合は、決着がつくことなく終わった。
気が付くと、朝日が昇って、辺りがすっかり明るくなっていた。
「今度戦うときは、決着がつけられるといいですね。」
ボクは、心からそう思った。