運命の出会い 4
=====レティシア視点=====
「―ふわぁ、あ…。少し疲れましたね。」
ようやく部屋に戻ってこれた。嗚呼、それにしても、あの受付の人…すっごく気になるのだが、もしかしてボクのこの赤い目のせいなのだろうか…
―そんなことを考えながら、ボクはナイフを丁寧にふいた。このナイフは母の形見であり、家宝のナイフである。
「それ、なあに?」
ソフィア様は、目をキラキラさせながらナイフに顔を近づけてきた。
「母の形見です。…まあ、母はもう…いませんけどね。」
すると、ソフィア様は、『えっ⁉』と言わんばかりに、大きく目を見開いた。
「いないって?どういうこと?」
「実は、父も母もスライムに襲われて、行方不明になってしまったのです。」
そう。―だから、強くなるために一人旅を始めたのだ。
「ちなみに、ソフィア様は?」
「さ…様⁉…あ、えーっと…。」
さすがに、『ソフィア様』と呼ばれるのは気まずかったかもしれない。だが、会ったばかりの人を呼び捨てするのは良くないと思う。
「べ、別に様を付けなくてもいいよ!…んで、あ、あたしは、スライムに村を襲われて、家族がいなくなっちゃったんだ…。だから、スライムに仇を討つべく、一人旅をしてるんだ!」
なるほど。スライムって随分酷いんだな…。後で絶対、やっつけてやります!
あと…今度からは、”ソフィア様”じゃなくて、”ソフィアさん”って呼ぼう。
「ちなみに、レティちゃんは何の職業?」
「職業?職業は賢者です。(といっても、全然魔法が使えないんですけどね…はは、は。)」
「レティちゃんは賢者か!めっちゃかっこいいね!あ、ちなみにあたしは戦士だよ。」
えっ。せ、戦士…?ううん、どう見ても戦士っぽくないけどなぁ…。
戦士といえば、鎧を身に着けてるっていうイメージがあるけど、ソフィアさんは普通の制服(?)らしきものを着ているし…、
しかもソフィアさんのやや小柄な体で、大きな剣を振り下ろすことなんてできるのだろうか?ぬぅー…謎だ。
まあ、本人が戦士って言ってるんだから、戦士なのだろう。
「ねぇ、じゃあ、改めてよろしく、レティちゃん!」
ソフィアさんはとびっきり明るい笑顔でそう言った。…笑顔を久しぶりに見た。
「こちらこそよろしくお願いします、ソフィアさん。」
ボクは、さっきふと感じた”運命“って、ソフィアさんのことなのかな、と思ってしまった。まあ、一晩だけだけど。
こうやってちゃんと人と話したのは久しぶりだ。
そう、それから…
「ボクに”ちゃん付け”は不要です。呼び捨てで構いません。」
ボクは今、平民の”レティ”。訳あって平民のふりをしている。だから、貴族の世界だけじゃなく、平民の世界も知りたい。
あれ?ボクはもう大切な人は…作りたくないのに。関わりたくないのに、どうしてこんな事言ったんだろう。
いや、自分でも分かってる。本当は、表情も、感情も、全部取り戻したいんだ―
=====ソフィア視点=====
よ、呼び捨てでいい…って。そんなの、生まれて初めて言われたぞ…。
―うーん。でも、どうしても呼び捨てなんて出来ない。このまま”ちゃん付け”で呼ぶことにしよう。(まだそこまで親しくないし、呼び捨てするのは気まずいからね…。)
「あ、そういえば、レティちゃんって、一人旅してるんだよね?」
「えぇ、まあ…そうですけど。」
レティちゃんは何も動揺せず、クールな表情のまま、ゆっくりとうなずいた。
「ね、ねえ!レティちゃん、もし良かったら、あたしと一緒に冒険しない?」
「………ぇ……?」
戸惑っているのだろうか。さっきまでクールだったレティちゃんは、きょとんとして固まっている。
「もし嫌だったら、はっきり言ってね!」
「い、いえ!…一緒に冒険したいです!」
え?行きたい…?―やったぁ、嬉しい、とっても嬉しいよっ!!
「ってことで、これからも更によろしく!」
そして、あたしは、レティちゃんと握手をしようとした…その時だった。
”ぐぅ~~~~…”
なんでこんな時にお腹がなるんだ…腹の虫め…
「そういえば、まだ夜ご飯を食べてなかったですね。」
確かに…
「夜ご飯、食べに行きますか?」
「う、うん。そうする。」
「では、地下1階に食堂があるようなので、そちらに向かいましょうか。」
「そっか!じゃあ、行こう!」
お腹が空いたあたしとレティちゃんは、いそいそと階段を駆け下りてった。