最強の魔物スライム襲来
===== ソフィア視点 =====
「ソフィア、ソフィア、起きて!何だか町が騒がしいのよ。一体どうしたのかしら。」
「えぇっ?」
超お得なタイムセールが始まる?それとも、大規模なお祭りが始まる? … いや、それだけじゃこんなに騒がないはずだよね…。何があったんでしょ?
「早く着替えて、様子を見に行きましょ。」
いつもはおっとりしているお母さんは、いつもより慌てた声を出した。
「おい、この町にスライムが近づいて来たんだってよ!」
「わぁ、それは大変。町に来ないように祈りましょう。」
町の人々のざわめきが絶えない。まあそりゃそうか。スライムが来たらとんでもない事になるからね…
スライムはメチャクチャ危険な魔物であり、ゲームの世界でいう、ラスボスのようなものだ。まだ誰も倒したことがないらしい… そう、だって、スライムのステータスは、[ ランク:危険レベルSSSランクオーバー 称号:伝説級のツワモノ ] だよ?プルプル、トロトロ~☆ な、見た目からは考えもつかないような強さを備えもつスライムがこの町に来たら、どうなることやら。考えたくもない。
「あ、あぁ… スライムが来たぞ!」
そうだよね~、やっぱり来るよね~!って、ええええっ!?噓!?やばい。死ぬぅぅぅぅーっ!
「あれは炎強化魔法陣…この町を焼き尽くす気か…!」
いや、いやぁっっ!ヤバいっつーの!完全に、この町…焼け野原になるよ?
「もうこうなっちまったら、戦うぞ!」
『おう!!』
この場合は逃げたほうが良さそうだけど、自分たちの町を守りたいので、町の人達は次々と戦闘態勢に移ってゆく。
「ねぇ、お母さん、お父さん。あたしも戦いに行くよ。」
「いや、大丈夫だ。お前は来るな。」
「なんで!?お父さんは強いけど、あたしのレベルが低いから?それとも…」
「もうよせ」
どうして… あたしだって戦えるのに… 心配なのに…。 不安を抱えながら、何時間か経過し、かなり心配になったので、様子を見に行ってみた。でも、そこにはもう、スライムはいない。そして、お母さんとお父さんの姿は無惨そのものになっていた。服には大量の血がにじんでいるし、呼吸の気配も無い。
「お母さん、お父さん!!返事くらいしてよ!」
さっきまで、私に話しかけてくれていたのに。今はもう何にも言ってくれない。
「もしかして…ねぇ、うそでしょ?ねぇ、やめてよっ!」
必死に呼びかけたけど、それでも返事がないまま。―おまけに、辺りを見渡すと、他の皆まで倒れている。
「…あれ?ちょっと待って。…あたし、独りぼっち?」
そっか。私以外、皆死んでしまったんだ。皆…いってしまったんだ。遥か遠い、空の彼方へ。
「どうして?どうしてなの?いかないでよ――」
これからどうすれば良いんだろう。分からない。どうしよう。
幸せに満ちた人生の何かが消えた感触と、お母さん、お父さんの反対を押し切って戦いに行かなかった後悔が、心の奥底から込み上げてくる。
「あたし…が、弱いから…」
さっきの時点であたしが強ければ、何も失わずに済んだ。なのに、あたしは弱い。人生の幸せを満たすための ”強さ” が、圧倒的に足りない。強く… もっと強くなりたい、強くなって、必ずスライムを倒してみせる。
―スライム、それはあたしの人生の幸せを壊した強力な魔物だ。壊れたものは、もう二度とは戻らない…あの時には、もう戻れない… 分かっている、そんな事はとっくに分かっている。だから、だから、仇を討つんだ。ありったけの悔しさを込めて、
「お母さん、お父さん、あたし強くなるからね!決めたから。そしてスライムだって倒すからっ!あたしが天国に行くときは、立派になって会いに行くからね…!」
何の変哲のない空に向かって、一生懸命語りかけた。
「ねえ、何か返事してよっ――」
暁の空に流れた飛行機雲。青い瞳からジワーっと一筋の涙が頬を伝う。
落ちていたお父さんの剣を拾って、持ち手の熱を確かめる。その剣をぎゅっと握りながら、溢れてくる涙をぬぐった。
===== 因果応報 (レティシア視点) =====
「ちょっとお母さん、まってよ!」
私はひたすら母の姿を探す。いた、私の大事な、大事な… 思わず抱き着いてしまう。
「もうっ、レティシアったら!」
お母さんはそう言いながら、私の頭を撫でてくれる。あぁ、温かい。
「大変です!スライムが… スライムがこの町を!この館に向かって襲撃してきています!お逃げくださいませ!」
召使いが真っ青な顔でそう言ってきた直後、スライムが姿を現した。
「レティシア、逃げなさい!」
「…は、はい…」
ついつい返事をしてしまった。お父さんも現れて、お母さんと戦っている。とっさに、私は物陰に走って隠れた。しばらくして顔を出したら、二人ともいなくなっていた。跡形もなく、血の跡も残さずに。いやっ… どうして、どうして私を置いてゆくの… 私… 私もう逃げないよ、私も戦うね。だから、帰ってきてよぉっ――!
「お嬢さま、お嬢さま!」
ボクは起こされて瞬きをした。ああ、なんだ、夢か。因果応報、その言葉の通り、ボクの容姿は呪われた。そう…血のような紅い瞳になっていたのだ。ボクの瞳は「悪魔の子」「呪われた子」とささやかれるようになった。あの十年前、ボクは呪われたんだ。
どうしようもないボクは、とにかく必死になって魔法を覚えた。そうして何とか "賢者" になったのだ。でも良い事ばかりじゃない。ボクはあの後、突然表情が消えた。「怖い」「悲しい」「嬉しい」「楽しい」「いらつく」全ての感情が薄くなった。きっとこれは、「恐怖」という名のトラウマだ。でも、スライムの場所だって特定できていない。
「探さなきゃ」
ボクはそう思った。まぁ誰でも思いつくだろう。けど、あの時が怖くて… 怖くて、何もできなかった。お父さんも、お母さんも、ボクのことを恨んでいるんだろうな。それなのに、涙一つも出ない自分が嫌になる。
だから、スライムを探し出す旅に出ることにした。ボクはレティシア・ランドール。母には「レティ」と呼ばれていた。レベルが低い賢者だ。
ボクは荷物をメイドから受け取った。そしてマントを羽織り、フードを深くかぶる。ボクはそうして紅い瞳を隠しているのだ。メイドは言った。
「いってらっしゃいませ」
この館はすでに他の使用人に頼んでいる。
「行ってきます。必ずお父様とお母様を探してきますから。」
ボクは一歩踏み出した。久しぶりの太陽はギラギラと熱い。ボクはそのまま次の町に歩いて行った。さあ、踏み出そう、新たなる世界へと。そうして、良い事をすればきっと良い事になって返ってくるから、「因果応報」、ボクはその言葉をそっとつぶやいたのだった。その後ろに何かがいることにボクはまだ気が付かなかった。
< あとがき >
●この世界の最強について
最強はスライム。見た目がかわいい程強い。見た目が強そうな程弱い。
人間の冒険者レベルの最高は 99。最低は1で、99などめったにいない。
●因果応報とは
自身の行いが、自身に返ってくること。それ相応の報いを受けること。
●レティシア・ランドール
【主なスキル】
ファイアー・フレイム
ダーク・ヒール
ブリザード
巨大剣
【職業】
賢者・xx Lv17
【装備】
武器:宝剣アレクサンドライト
魔法の笛
これが初投稿作品になります。同じ学校に通う仲良し二人作者が、二人のメインキャラクタ視点で物語を綴る、共著作品です。
毎週一回以上の更新を目指して、頑張りますので、みなさん応援よろしくお願いします。