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千年妖姫の杯  作者: エコエコ河江(かわえ)
幕間 1章 - 2章
18/89

A18RU2:幕間『月光の観測手』

 本編R10と同日、キメラとエンが出会う日の夕刻、ユノアはキヨリヨ区を訪ねた。


 カラスノ合衆国の北西部にある歓楽街は夜にこそ賑わう。赤い夕陽と共に準備が始まる側で、昼の衆とすれ違いながら様子の違いを探していく。今日も前回までと同じ、なんら問題がない日だ。


 ユノアはそのままの足で騎士団の宿舎へ向かった。受付に名前と用件を伝えたら、程なくして目当ての人物が現れた。彼の名はケイグラ、騎士団の補佐としてペンと書類を扱う若手だ。


「ユノアさんか。今日は何事で?」

「お久しぶり『お兄ちゃん』。じつは『寂しく』なっちゃって」

「わかったよ。準備する」


 ユノアとケイグラの間にだけ通じる合言葉で、協力のための内緒話を要請している。ユノアへの恩義から、人使いへの文句は短いため息だけにして、ケイグラは同僚たちに挨拶する。可愛い妹のためと言ったら笑顔で送り出される。奥からでも少しだけ顔が見えた所で、ユノアが笑顔で手を振ると、露骨に機嫌をよくしている。


 二人は手を繋ぎ、歓楽街の近くをぐるりと回り込む道を選んだ。外れにあるホテルへ向かいつつ、そんな雰囲気を隠したいときにお決まりのコースだ。すでに誰もが知っていながら、野暮な追求はされない。


 順番にシャワーを浴びて、歯を磨いて、ガウンを羽織ってベッドへ向かう。ユノアが髪を整え終える頃にケイグラが体を拭き終えて、避妊具をつけて、ユノアの隣に座った。秘密の話をするときの定番だ。外向きにはセックスをしたように見せる。


「話はなんだ」

「ふたつ。まずはルーキエの話。誰が誰に売った?」

「誰も誰にも売るもんかよ。あいつは悲惨な最期だった。本人についても、資産家たちの大混乱についても、こっちじゃあ未だに繰り返さないよう話題が出るんだ。全国紙の切り抜きだって保存されてる。覆しようがない。そうだろ」


 話の合間に手を動かして皮膚や衣類が擦れる音を出しておく。細かな繊維クズを落とす。尾行の気配は探っているし、このホテルにはアナグマの息がかかっているが、万が一の可能性は残る。誰が盗み聞きをしても、ここで情報交換をしている情報は決して与えない。明らかに二人はセックスをしただけの仲だ。


「そうだけどね。リデルが嗅ぎつけてきたから」

「手足を壊したままで? よくやるぜ、あいつ」


 ケイグラの男性器は決してやる気を見せない。ユノアとは似たもの同士で都合が良かった。互いを求める相性の裏返しで、互いを求めない相性もある。


「もう片方でいいか」

「そうね。アシバ区の代議士について」

「例の『そっくりさん』か」

「彼女の動きに変化があったら、具体的にどんな変化か教えて」

「ざっくりだな。監視対象か?」

「一応。私が目を離した間に面白い出来事があったみたいだから」


 必要な話を済ませた後は、服を着直しながら、もう少しだけ他愛のない話を続けておく。ケイグラに本物の想い人ができたと聞き、相手のセクシャリティをユノアが調べておく。元より噛み合わないほうがずっと多い。期待は薄く、信用は厚い。


 揃って出る頃、外はすっかり暗くなった。反比例するように人の声は賑わう。夜の衆が溢れている。


 月光と街灯の頼りない光で夜道を進む。手を繋ぐだけで会話を続けずに、途中で別れた。ケイグラは宿舎へ、ユノアはアシバ区へ。

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