表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/80

心のありかを 3

 

「父上、なぜ、あの男を始末なさらないのですか」

「こいつのことは気に入らねーが、その意見には同感だぜ」

 

 アリスは、ローエルハイドの屋敷にいる。

 誰に呼ばれたのでもない。

 状況を整理しておきたくて、キサティーロと話をしに来たのだ。

 が、偶然だが、そこにセオドロスがいた。

 

 ヴィクトロスは、謹慎中のリンクスとナルの子守りをしている。

 キサティーロに「今度こそ目を離すな」と言われているため、片時も(そば)を離れはしないだろう。

 

 3人は、小ホールにいた。

 アリスは、長ソファに1人で座っている。

 キサティーロは、1人掛けソファに腰かけていた。

 アリスから見ると、はす向かいになる位置だ。

 セオドロスは座らず、2人を左右に見る形で立っている。

 

 キサティーロは、ここに塞間(そくま)をかけているに違いない。

 屋敷の勤め人を信頼していたとしても、聞かせるべきでない話だからだ。

 セオドロスが不機嫌なのは、アリスが同席していることだけが原因ではない。

 アリスには、わかっている。

 

(ったく、面倒なことになっちまったな)

 

 セオドロスは、アーヴィングとカイルに「張りついて」いた。

 アリスもアリスで、彼とシェルニティに「張りついて」いた。

 

 つまり、2人とも、街で起きたことを知っている。

 

 そして、セオドロスは理解したのだ。

 現国王フィランディ・ガルベリーは「与える者」ではない、と。

 

(いくらアーヴィのためっつっても、あんなに派手に魔術を使うかね)

 

 フィランディは滅茶苦茶だ、と思う。

 国王自ら、彼とやりあうなんて、どうかしている。

 しかも、表面上「国王は使えない」とされている魔術まで使って。

 

「カイルの目的なんざ、どうでもいいじゃねーか。消せばすむ話だろ」

 

 彼やキサティーロが、カイルを「生かして」いるのは、目的が不明瞭だからだ。

 なにがしたくて、厄介事を引き起こしているのか。

 それを知るため、ある意味では、泳がせている。

 とはいえ、アリスには、それが無駄に思えた。

 キサティーロらしくもない。

 

「見極めてる間に、シェリーになんかあったら、どうすんだよ」

 

 カイルは、すでにアーヴィングを利用している。

 リンクスから話を訊いていた。

 カイルは、しきりに「公爵では彼女を幸せにできない」と説いていたらしい。

 

 それを、シェルニティは気づいていないだけだとか。

 最初に手を差し伸べた者に対し、愛だと勘違いしているのだとか。

 のちのち不幸になるのは目に見えているだとか。

 

(のせられちまう、アーヴィもアーヴィだけどな)

 

 アーヴィングは、もっと聡明だと思っていた。

 だが「恋」が理性を失わせるものだとも、アリスは、嫌というほど知っている。

 弟のリカが、まさに「それ」だったからだ。

 アリスの言うことさえ聞き入れず、手に負えない状態になった。

 とはいえ、当時のリカは14歳、アーヴィングは現在20歳なのだけれども。

 

「我が君の望んでおられないことを、私はいたしません」

「シェリーがヤバくてもかよ?」

「我が君も、それはわかっておられるでしょう」

 

 ちっと、小さく舌打ちをする。

 彼とシェルニティは、森の家に帰っていた。

 森にいれば、一定の安全は確保できる。

 だとしても、なにかしらの穴はあるだろうし、不十分に感じられた。

 

 だいたい、それでは森から出られないではないか。

 アリスは、街でもどこでも、シェルニティには自由でいてほしい。

 彼女に窮屈な思いをさせるくらいなら「害」を取り除けばいい、と思う。

 

「あの男は、王太子に半端者(はんぱもの)を救ってほしいと頼んでもおります」

 

 そちらの話に、アリスは、ほとんど興味がなかった。

 アーヴィングを煽り、シェルニティにぶつけたのと関連はあるのかもしれない。

 さりとて、アリスにとっては、同じ結論にしかならないのだ。

 

「消しちまえば、どっちも解決するんじゃねーの?」

「アリスと意見を同じくするのは不本意ですが、私も、そのように思います」

 

 セオドロスは、いちいち癪に障る。

 とはいえ、向こうも自分に「ムカついて」いるのだから、お互い様だ。

 意見は同じでも、険悪な関係は変わらない。

 

「それに、消す理由もあるだろ?」

「アリス。それは、私どもの“消す”理由にはなりません」

 

 キサティーロに、ぴしゃりと釘を刺された。

 どれほど懇意であっても、ローエルハイドとウィリュアートンは歩む道が違う。

 ウィリュアートンには国を支える義務があった。

 ガルベリーの血を受け継ぐ「与える者」の継承者として。

 

(カイルにも、わかっちまったはずだ。ランディが与える者じゃねえってことが)

 

 その情報を、カイルが、どう使うか。

 場合によっては、真剣に「暗殺」を考える必要がある。

 アリスは、王宮には関わらない。

 が、アリスのみが動かせる特別な機関を持っていた。

 

 防衛の要として魔術師を使っているにもかかわらず、魔術師に依存しない機関。

 

 ウィリュアートンに養子に入ったユージーン・ガルベリーが、魔術師に頼らずに国を守れるよう創設したのだ。

 アリスは、その機関を仕切っている。

 必要があれば、いつでも動かすつもりでいた。

 

「アリス。ローエルハイドと事を構える気があると?」

「そーだよ」

 

 アリスは、シェルニティを守りたい。

 同時に、リンクスを守る「義務」がある。

 1度に片をつけられるのなら、すべきことをするまでだ。

 

 それが、ローエルハイドと敵対する行動であっても。

 

 キサティーロは表情を変えず、わずかにうなずいた。

 アリスの「決意表明」を受け止めたということだろう。

 

「ひとつ、訊きてえんだけどな、キット」

「ええ。私が指示をいたしましたが?」

「なんでだ?」

「私の解が必要だと?」

「いいや……ただ、ちょっと……訊きたかっただけサ」

 

 アリスは、言いたかった言葉を飲み込む。

 キサティーロの無表情な顔を、じっと見つめた。

 キサティーロは、なんだって完璧なのだ。

 わかっている。

 

「キットに免じて、カイルのことは、当面、放っとく」

 

 街で、彼とフィランディがやりあっている時、近くにセオドロスもいた。

 が、手を出そうとはしていない。

 キサティーロが、そのように命じたからだ。

 そして、王宮に戻ったカイルの「始末」もさせなかった。

 

 セオドロスが、キサティーロに「なぜ、あの男を始末しないのか」と問うたのが、その証拠だ。

 止められていなければ、セオドロスは、確実にカイルを殺していた。

 コルデア家の3人は、彼に仕えているのであり、王宮に仕えてはいない。

 国王や王太子が、どう感じるのかなど、気にしないはずだ。

 

 アリスは、すくっと立ち上がる。

 それから、セオドロスを冷たく睨みつけた。

 

「オレは、お前が気に食わねえ。ガキ1人守れねえ奴が、ローエルハイドでなんの役に立つってんだ? キットの袖の下に、いつまでもいられると思ってんなよ」

 

 キサティーロは、セオドロスを庇わない。

 そんなことは、わかっている。

 セオドロスに睨み返されても、アリスは平気だった。

 

「その子供1人、まともに育てていない者に言われる筋合いはない」

「そーかい。てめえの選択を、あとで後悔すんじゃねーぞ、テディ」

 

 言い捨てて、アリスは烏姿に変わる。

 そして、羽音も立てず、屋敷から飛び去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ