第六話
スタンピードの報告を受けてから数日後、俺とリリアナ、そのほかにランクB冒険者パーティー4組と予兆があったダンジョンまで来ていた。
「入り口はまだ溢れそうな雰囲気はないね」
リリアナは悠長に答えるが、今までの経験上入り口は大丈夫でも中身はもう限界でしたってパターンを何回も経験しているため油断はできない。
「それじゃ、スカウト職の人たちは罠を解除しつつ中に入ろうか。なにランクSの私とランクAのユウがいるんだ心配ないわよ」
「で、では…」
スカウト職の数名がダンジョン内に入って罠を調べていく。
「特に罠は見当たりません、このまま安全に奥地に進めます」
「そ、ありがと」
リリアナは今回の探索のリーダーとしての職務を全うしていく。今回はかわいい孫娘の平和が脅かされているので気合が入るのもわかるような気がする。
「だんだんとモンスターが出てきましたね。俺が先陣を切りますよ」
俺は刀を抜き去りバッサバッサとモンスターを切り倒していく、その様子を見ていたランクBのメンバーたちは口々に化け物だなどと失礼なことを言うがこんなモンスター退治が俺にとっての日常だ。
問題なくまだ未踏破のダンジョンの最奥までたどり着き最奥を示す扉を開くとそこから空気が変わった。
いち早く空気が変わったことを感じ取った俺とリリアナは調査メンバーに叫ぶ
「各員、逃げろ!やばい雰囲気だ」
「みんな扉の後ろまで全力で走って!」
声を上げずともほかのランクBメンバーは扉を超えた途端扉の間から後ろに全力で逃げ出していた。
俺とリリアナも下がろうとするが運悪く俺だけが取り残されてしまい入り口は透明な壁で閉ざされ、ダンジョンのガーディアンが起動する。
ガーディアンの姿は体長は8メートルほど横は3メートルと大きなゴーレムが俺を威嚇するかのように吠える
「ゴアァァァアアアアアアアアア」
「うっへ…こんなところに単体ランクAのミスリルゴーレムかよ」
刀を取り出し自分一人では負えないと召喚を起動する。
「召喚 ワイルドタイガー!」
「ん~?なにユウ、敵?」
のんびりあくびをするワーに対して檄を飛ばす
「敵だ!敵は想定ミスリルゴーレム!おそらく奥の手を使うことになるから少し時間稼ぎを頼む!」
「了解!さぁて飛ばすかー」
機敏なフットワークを生かしてミスリルゴーレムに爪を立てるワーだが、傷一つつかない姿を見てだんだんとイライラしてきたのか直線的な動きに切り替わっていた。
「ユウ!こいつ俺の爪が効かないよ!」
「だから奥の手を使うといっただろう、動きが直線的になってるぞ、もうちょっと翻弄しろ!」
ワーに文句を言いながら奥の手の準備をやり始める。
「分かったよ!ユウも早く詠唱済ませてよね!」
「ったく…」
刀を抜き地面に突き立てると詠唱を始める。
『我は、四獣神に愛されし、召喚者なり、せん滅するは我が道を塞ぎし不遜者、我が手を逃れられるものはおらず、我が道を遮られるものはいない、真名解放、ワイルドタイガー改め、西方の守護獣、白虎!そしてわが身にその力を与えたもう!』
ワーの体がどんどんと2倍4倍に大きくなっていき愛くるしい顔は相手に恐怖を与えるような凶悪なものへと変わっていく。
そして体が薄くなって俺の体にまとわりつくとガントレットとグリーブ、胸当てだけだった装備は
白炎に包まれた虎の意匠にかたどられた立派なフルプレートの鎧に代わっており、手にはハルバードが握られていた。
「ガァァア!?」
突然の俺の変化に戸惑うミスリルゴーレムだが、一瞬の油断が命取りだ、俺がこの奥の手を使ったときの制限時間は5分。
5分以内に解除しないと体中が激痛にさいなまれる危険性を帯びている。
「一気にカタをつけるぞ!」
ハルバードを振り回し一閃ごとにミスリルゴーレムの体を切り刻んて行く。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!
なすすべもなく一撃ごとに体が小さくなっていくミスリルゴーレム、振り回して2分ぐらいだろうか体の中心に核が見えてきた。
「相変わらずゴーレムは弱点がまるわかりだな!よし、これで終わりだ、一撃必倒、ファングストライク!」
まっすぐにのばされた突きは核めがけて突き刺さり、ミスリルゴーレムの動きは止まりガラガラと音を立てて崩れていく。
「ハァハァ…奥の手…解除…今回は3分ほど使ったか…明日は筋肉痛で動けないだろうな」
倒し終わったおかげか、扉の透明な壁はなくなり、リリアナは急いで俺の安否を確認してくる。この様子だと外側から中の様子は見れなかったようだ。奥の手を見られなかった安堵と疲労から一瞬意識を手放しかけたが、何とか耐えてリリアナと会話をする。
「ユウ!なんかすごい轟音が聞こえたと思ったら、扉の壁はなくなってユウ一人だけいるし、ミスリルゴーレムは倒したのね!」
「はい、何とか倒しました。おそらく討伐ランクSに近いA近くあったでしょう。奥の手を使ったので倒せましたがスタンピードの予兆というより、ミスリルゴーレムが目覚めたせいでダンジョン内のモンスターが活発化したのでしょう。もう少しダンジョン内を探索した後戻りましょう」
ダンジョンの最奥にはいくつもの宝があったのでランクB冒険者が大量に持ってきていたマジックバックにすべて収納すると、急いでダンジョンを後にした。
こういったダンジョンは宝を回収すると自壊するようになっているのだ。
入り口までたどり着き全員の生還を喜んでいると鎧の反動が来たのか俺は意識が朦朧とし、そこから町長の家に戻った記憶はない。
「いててて…ああそうか無事にダンジョンから帰ってきたのか…」
ベッドから起き上がりつつ体の確認をすると焦った顔のエヴァと娘の顔が目に留まった。
(よかった、帰ってこれたんだ)
「ダーリン!もう大丈夫なの!?痛いところは?娘のサラも心配そうに泣いていたわよ」
体をほぐしつつ体の確認を行うと
「もう大丈夫だ、サラにも心配をかけたな」
と、生まれたばかりの娘の頭を撫でてやる。
そうするとサラは安心したかのようにだんだんと虚ろな目になっていき、いつの間にか眠っていた。
「俺は何日ぐらい眠っていた?」
エヴァに確認を取ると帰ってきた返事は
「三日、三日よ!ママも私もとっても心配したんだからね!」
プンスコという擬音が聞こえてきそうな表情で答えるエヴァは次に泣きそうな顔で俺に寄りかかってくる。
「貴方がいなくなるともうすぐ旅に出るのは知っているけど私たちは悲しむわ」
そう、スタンピードの予兆さえなければ俺はとっくの昔に出発していたのだ。子供を作るという約束はしっかりと守ったのだし、リリアナも旅に戻ることは了承していたが、エヴァは結婚してくれると思っていたのだろうか旅に出ることを告げるとワンワン泣いていた。
最終的に了承を得ると旅支度を整えていたところにスタンピートの話が舞い込んできたのであった。
数日後、ワーの背中に乗ると町長の家を後にした。見送りはリリアナとエヴァ、サラにマクシミリアンの4人だったが特に不満もない次はどんな人と出会うだろうとわくわくしながら次の町へと進むのであった。
1部完結、2部を書く気力が湧けば書きます