第五話
「じゃあ、ユウには町長から部屋を一室貸してもらって、そこで1週間エヴァと過ごしてもらうわ」
リリアナの言葉に絶句するユウ…
「はい?!一週間軟禁ですか!?俺、さっき宿を1週間とっちゃいましたよ!?」
「違うわ。1週間の間に一緒に過ごしてもらって親睦を深めてもらいます。うちの娘は粗野に見えるけど意外と家事も裁縫もできるのよ」
「えぇ…一緒に依頼受けたときは野営も怪しかったリリアナさんの娘なのにですか?」
「今の失礼な言葉は聞かなかったことにします。あと宿屋代は私が返してあげますから金銭的損失はないわよ。だから安心しなさい」
プンスコという擬音が聞こえてきそうに腰に手を当てて頬を膨らますリリアナ、これで19歳の子持ちなのかよ、と思ってしまったが、口にも態度にも出さずに何とか乗り切る。
「じゃあ楽しい種付け生活を~♪」
「分かったよママ!行こうダーリン!」
いつの間にか腕に手を回しぴっとりとくっついて豊満な胸を押し当ててくるエヴァに、誘惑している自覚があるのか疑念に思ったが、はぁというため息しか出てこなかった。
マクシミリアンがいつの間にかいなくなっていたかと思えば町長に承諾を取りに行っていたのだった。そして用意された一室というか、離れには台所、風呂場、お手洗い、寝室が完備されており。おそらく町長の家令などが住むために用意されていたのであろう。設備がしっかりと整っていた。
「ダーリン!食事は何が好み?私はシチューかな?一番好きなのはステーキだけど。あと洗濯物があったら出してね全部洗っておくから」
「なんだエヴァ、ステーキが好きなのか。ならこの肉を使うといい」
マジックバックから肉塊を取り出し台所にドンッと置く。マジックバックは性質上中の時間が止まるので生鮮食品などを入れておくのにも、もってこいなのだ。
「ちゃんと血抜き処理した牛の肉のいい部分だ。ステーキにはちょうどいいだろう」
「ありがとうダーリン!今日はステーキと肉と野菜がたくさんのシチューにするね」
何気にこの生活を受け容れている自分にびっくりするが、ある意味諦めの感情も交じっているのだろう
日も暮れ食事を終えた俺とエヴァは寝室へと向かう。
さっきまでシングルベッドが2つだったのにいつの間にかダブルベッドが用意されており、ここで一緒に寝てねと可愛らしい字でリリアナからの置き書きがあった。
腹をくくり一緒にベッドに入ると、そのままエヴァはすぐに寝息を立てて眠ってしまった。
「…なんだこれ?」
エヴァが寝てしまえばやることもできない。俺もおとなしく瞼を閉じ眠りについた。
そんな生活が1週間続くと家事、裁縫もできるエヴァに愛着というか、愛情が軽くだが芽生えてきた。
軽い軟禁生活も終わりを迎え二人はリリアナに呼び出された。
「新婚生活はどうかしら?順調に子作りしてる?」
「飯食って風呂入って一緒に寝てるだけですよ」
「…え?夜の営みは?」
「ありません」
俺はただ事実だけを述べた。嘘をついたら後から何があるかわからないからだ。
「エーヴァー…何をやっているのちゃんと夜は一緒にベッドに入ってやることやりなさいと教えたでしょ!?」
エヴァは呆けた顔で不思議そうにへっ?と言い
「だってママ!子供って一緒に夜寝れば勝手にできるんでしょ?ママだってそう教えてくれたじゃないの」
と疑念の全くない眼差しでリリアナを見つめていた。
ものすごく落胆した顔でエヴァを見つめるリリアナ。
「あのねエヴァ…それだけじゃ子供はできないわ…よくもまぁうちの娘の体に目もくれず野獣のように襲わなかったユウにも驚嘆するけど」
嘆息するリリアナを見ることができず、つい顔を反らしてしまう。
「軟禁期間を1か月延長します!ユウはそのまま離れに帰って!ちょっと娘の教育を行います」
紙を取り出してエヴァに教育を始めるリリアナの言葉に従い、部屋を後にし、エヴァからはそうだったの!?と驚愕の声が聞こえてくるが、ドアを閉めた途端独り言をつぶやく。
「何やってんだろ俺…」
教育が始まった日の夜からエヴァの必死の誘惑に耐えていたが、2週間が過ぎたころ、いつもは出ない食後のお茶を飲んでからムラムラが止まらなくなり、とうとうエヴァと一線を超えてしまい。理性がなくなるまでエヴァと愛し合った。
そんなただれた生活を残り2週間過ごしたのであった。
軟禁されること1月と1週間、本日をもって俺は解放されるらしい。
なんでも傭兵団の回復魔術師は妊娠の可否が分かる魔法を覚えているということらしく、めでたくエヴァは懐妊したらしいのだ。
「さぁユウ!これで君は自由だ!これから目的に場所に移動するもよし、観念してエヴァと結婚するもよしだ」
「流石に子ども作っといてそのまま放置は良心の呵責が耐えきれませんので生まれるまでは一緒にいますよ…」
半ばあきらめの境地に達している俺はリリアナに対してそう答える。
「そうかそうか、なら仮ということで我らが傭兵団に入らないかね?」
突拍子もない申し出だが、いまはどこかに所属する気もない
「残念ながらそっちは保留で、一回入ったらいつ抜けられるかわかりませんし…」
素直な感想を述べるとリリアナは当たり前だよなぁといった雰囲気で話を進める。
「ならば仮夫として、エヴァのサポートに回ってほしい。あの子はほおっておくと激戦地に単身で乗り込む癖があるからな!」
「つまり、夫っぽくエヴァをサポートしつつ危険地帯にはいかせないように全力で阻止すればいいんですね」
「そういうことになる」
「まぁ、無理に行こうとするなら私が全力で止めるがな、なぁに伊達にランクSじゃないさ自分の娘ぐらいは止められるさ」
いたずらっぽい笑みを浮かべ愛槍をぶんぶんと振り回しているリリアナは嬉々としてその役割を全うしそうだ。
「じゃあ俺はエヴァのところに戻ります。懐妊中の重荷だというのに鍛錬は怠れないと庭でバトルアックスを振り回してるんですよ」
「それは大変だ夫のユウが止めなくてはな!ただし安定期に入るまで子作りはやるんじゃないよ」
リリアナの忠告通りいたさないが、頭を撫でたりぐらいならいいだろうと思ってエヴァの暴れている庭へと足を運んだ。
庭にたどり着くと一心不乱にバトルアックスを振り回すエヴァに遭遇する、
「エヴァ!ダメじゃないか軽い運動ならまだしも実戦さながらの動きで木人を殴り続けるだなんて」
「あ、ダーリン!なんかね体を動かしてないと落ち着かないの」
「妊婦さんなんだからおとなしくしててくれよ。それと子供の顔もみたいし、エヴァが出産するまで俺はここに残ることにしたよ」
「ぇ?やったーこれでダーリンとは1年は一緒にいられるね♪」
嬉しそうに笑みを浮かべるエヴァだか続けての俺の言葉に悲しそうな顔をする
「無事出産を終えて安定したら俺はまた旅に出るけどな、時間があればちょくちょく顔を見せに来るよ」
「よかった!それならダーリンがお父さんだよって子供にも教えられるしね」
それから数カ月後エヴァは元気な女の子を出産したのであった。
名前は決めずに育てることに決まったのだが、生まれてから数日後、近くのダンジョンでスタンピードの予兆が見られるということでギルドは俺の派遣を要請してきた。
軽いスタンピードならランクB冒険者が10人いれば納められるのだが、今回は大規模ということもあり俺のほかにもリリアナも派遣されることになったのであった。