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はじめまして、"奈良輪凛太郎(ならわ りんたろう)"と申します。


 これは、我々が暮らしている世界とは別の世界の物語である。


「キャー、タスケテー!!」


 この世界では悪党たちが好き勝手に暴れまわっていた。

 金を巻き上げ、女をさらい、暴力を振るう。

 まさに混沌と化していた。


 世界からは昔より緑が失われていた。

 荒廃した村や町も増え続けた。

 もはや秩序という言葉が失われつつあった。



 しかし、そんな世界にも光は存在した。

 その者はつい数日前に突然現れ、この世界に希望を見出した。




 ローブを(まと)った一人の男が、町だった場所へと現れた。

 数歩進んだところで地面に膝をつき、見下ろした。


「可哀そうに・・・。 本来なら、さぞ美しかったのでしょうね・・・。」


 彼が優しく手を伸ばしたのは、踏み荒らされたために折れ曲がってしまった「花」だった。

 指で優しく持ち上げても、離すと地面に倒れてしまう。

 花びらもボロボロであり、完全に枯れてしまっている。

 まるで、今の世界を現しているようだった。


 ローブの男は諦めて立ち上がり、町だった場所の中央を目指して歩んだ。

 当然周りにいた蛮族(ばんぞく)どもはローブの男に注目していた。

 しかしローブの男は無言でただ中央へ向かっていた。


「オイオイオイ、オマエ随分と堂々と歩くでねえか。」


 一人の野蛮人がローブの男に近付いた。

 身長に差があり、野蛮人の方が数十センチ大きかった。

 そのため、ローブの男を見下ろしていた。


 野蛮人は威圧してきたがローブの男はなにも言葉を発さず、ただ黙っていた。

 野蛮人の方を見もせずに。


「ナントカ言ったらどうだ!!」


 痺れを切らした野蛮人は持っていた棍棒を振り上げ、ローブの男に振り下ろそうとした。

 ローブの男は一切動く気配は見せず、その場に黙って立ったままだった。


 次の瞬間、鈍い音が町中に響き渡った。


 ・・・しかし、その音はローブの男が棍棒をぶつけられた音ではなかった。

 野蛮人が突如後ろから現れたもう一人のローブの男に殴られた音だった。

 男は鉄でできた義手をしており、それで頭を殴られた男は当然気を失い地面に倒れた。


「無事か、リンタロー?」

「ありがとうございます、ムサシくん。」


 二人はどうやら仲間だったようだ。

 それぞれを"リンタロー"、"ムサシ"と呼び合っていた。

 二人共、フードで顔が全然見えていなかった。


「て、テメエら・・・。 一体何者だ!!!」


 別の野蛮人が前に出てきて、二人を交互に指した。

 二人はその野蛮人の方を向いた。

 そして、リンタローと呼ばれた男が前に出てきた。

 やがて歩みを止め、胸に手を当ててお辞儀をしながら言い放った。



「はじめまして、勇者になろうとしてる者です。」



 その言葉は町中に響いた。

 耳にした野蛮人たちは一瞬キョトンとしていたが、次々に大きな笑い声をあげていた。

 ローブの二人の周囲にいる野蛮人たちは笑い続けた。

 しかし二人は一切反応はせず、ただ黙っていた。


「フン、笑わせる。 夢物語を語るのは他所(よそ)でやれ。」


 7人の野蛮人たちは笑い終えると、武器を取り出し二人を取り囲んだ。

 それぞれ棍棒や刀などを持っていた。


 二人は慌てる様子は見せず、周りの野蛮人たちを冷静に警戒していた。


「ムサシくん、そちらの3人をお任せしてよろしいですか?」

「ああ、任せろ。」


 ムサシと呼ばれた男は腕を鳴らすと、構えた。

 一方リンタローと呼ばれた男は動く気配はしなかった。



 野蛮人たちが一斉に突撃しようとした。

 その時・・・。


「待てい!」


 遠くから野太い声が聞こえた。

 その場にいた全員がそちらを向くと、2メートルくらいの大男がやってきた。

 顔は髭が濃く、体はやや肥満だった。

 クマの毛皮を羽織っており、腰には大きな剣を刺していた。


「一体何の騒ぎだ?」

㷟廻風(てえぷ)様!」


 "㷟廻風"と呼ばれたその男は、どうやら野蛮人たちのリーダー格のようだ。

 歩くたびに「ドスンッドスンッ」という音が響き、まさにボスに相応しい迫力だった。


「一体なにがあった・・・?」

「コイツらが俺たちに歯向かうんだ!」


 野蛮人の一人が二人を指し、㷟廻風は「ギロリッ」と目を向けた。

 とてつもない威圧感が二人を襲うが、二人は微動だにしない。


「・・・どうやら、死にたいようだな。」


 剣を抜き、二人の真上に振り上げる。

 だが、やはり二人は微動だにしない。


命乞(いのちご)いをしないことは評価してやろう。 だが、これで終わりだ。」


 㷟廻風の太くて(たくま)しい腕が、勢いよく振り下ろされた。

 剣が地面に衝突した際に、小さめの地割れが起こった。

 衝撃波が巻き起こり、周りにいた野蛮人も気を抜くと吹き飛ばされそうになっていた。


 しばらくして衝撃波はおさまった。


 周りを見ると、ムサシは遠くに吹き飛んでいた。

 幸い軽い怪我だけで普通に立ち上がった。


 ・・・だが、リンタローの姿はなかった。


「避けたか。 だが友達はどうやら助からなかったようだな。」


 㷟廻風は「グハハハハ!!」という笑い声をあげた。

 周りの野蛮人たちもつられてゲラゲラ笑っている。


 しかしムサシは一切動揺は見せなかった。


「あん? どうした・・・?」


 動揺をしないムサシを不審に思った㷟廻風は、ムサシを(にら)みつけていた。

 周りの野蛮人たちは笑っていたが、様子がおかしいことを察知して、中央に注目していた。

 ムサシは2、3歩前へ歩み、足を止めると㷟廻風の顔を見るために見上げた。


「本当にリンタローを殺したのか?」

「あん?」


 ムサシの言葉に㷟廻風の顔は(いぶか)しむ表情へと変わった。

 もしやと思い、振り下ろした剣を再び上へゆっくりと上げた。


 ・・・㷟廻風の予想通り、そこにはリンタローの死体はなく、血の跡もなかった。


「なんだと・・・!?」


 斬ったハズの相手の姿がなかったことに驚愕した㷟廻風は、周りを慌てて見渡した。

 それにつられるように、周りの野蛮人たちも周りを見渡した。

 しかし、周りにはリンタローの姿はなかった。


「や、奴を探せ!!」


 㷟廻風は周りの野蛮人たちにそう指示を出した。

 野蛮人たちは抱えていた女や金袋を手放し、大慌てに探し始めた。

 㷟廻風はというと、ムサシに詰め寄ろうと向かっていた。


「おい、一体奴はどこへ・・・」


 その時だった。

 次の瞬間、㷟廻風は後方に数メートル吹き飛んだ。

 2メートルもある巨体でだ。


 近くを捜索していた野蛮人たちは、その光景を目撃し、驚きの表情をしていた。

 巨体な㷟廻風が吹き飛んだのもあるが、さらに注目していたのはその㷟廻風の近くにいたモノだった。

 先程まで確かにいなかったハズであった人影があった。

 その姿は全身真っ白の人型をした魔物のようだった。

 目元が赤く光っていて、首に長くて白い布をマフラーのように巻いており風になびいている。


「な、なんだありゃ!!?」


 一人の野蛮人のその言葉を聞いて、先程まで気づいていなかった者たちも、中央の白い存在に注目した。

 白い存在は後ろを振り向いた。

 そちらにはムサシがいた。

 すると、白い存在から声が聞こえてきた。


「ムサシくん、お怪我はありませんか?」


 その声、その言葉使い。

 それは完全にリンタローであった。


「大丈夫だ。」


 ムサシが答えた。

 これによって、白い存在の正体がリンタローであることが確定した。

 周りで見ていた野蛮人たちがゆっくりと近寄ってきた。


「な、なんなんだよテメエら・・・!!」


 一人の野蛮人が喋ると、二人はそちらを向いた。

 口を開いたのはムサシの方だった。


「さっき言っただろ? 「勇者になろうとしてる者」だって。」


 やれやれと腕を上げながら、ムサシは答えた。

 しかし当然ながら、野蛮人たちは怒った。


「ちげえよ! その白い姿はなんなんだ!!」


 その言葉を聞いて、ムサシは白い存在になっているリンタローの姿を見た。

 すると、今度はリンタローが喋った。


「ご説明しますと長くなってしまいますので簡単に言いますと、ボクの「戦闘服」です。」


 リンタローは手短に説明した。

 周りの野蛮人たちはやや微妙な顔をしていたが、とりあえず納得したようだった。


 すると、今まで倒れていた㷟廻風がゆっくりと起き上がった。

 落ちた剣を拾い上げ、リンタローたちの方を向く。

 顔は怪我によって(ふく)れていた


「この野郎・・・。 勇者だか何だか知らねえが、よくも・・・!」


 再び剣を振り上げようとする㷟廻風。

 しかしリンタローが㷟廻風に近付き、見上げた。


「乱暴をしてしまい申し訳ございません。 ですが、ボクたちは貴方たちと戦うつもりはありません。」


 胸に手を当て、礼儀正しくそう発言した。


「あ?」

「ですから、悪さをすることをやめていただけないでしょうか?」


 リンタローの言葉で、しばらくの沈黙が訪れた。

 やがて、㷟廻風は高笑いをした。

 しかし今度は周りの野蛮人たちは笑っていなかった。

 㷟廻風は笑い終えると、急に静かになり、やがて言葉を発した。


「ふざけんなよ・・・。」


 低く威圧的な声でそう呟き、持っていた剣をリンタロー目掛けて突き刺した。


 ・・・だが、再びリンタローは消えた。

 その代わり、またしても㷟廻風が後方へ吹っ飛んだ。

 㷟廻風の顔面は先程よりさらに膨れ上がった。

 㷟廻風はなんとか立ち上がろうとするもダメージが大きすぎて全く動かず、そのまま失神した。


「お話だけで済ませようとしてましたのに、なぜいつもこうなってしまうのでしょうか・・・。」

「話が通じねえ相手だからさ。」


 リンタローを慰めるように、ムサシはリンタローの肩部分を「ポンッ」と叩いた。

 周りの野蛮人たちは、簡単に倒された㷟廻風の姿を見て唖然(あぜん)としていた。


「お、おい、㷟廻風様が倒されたぞ・・・。」

「㷟廻風様で敵わないんじゃ、絶対俺たちじゃ無理だぞ・・・。」


 野蛮人たちはザワザワと慌てていた。

 自分たちのリーダーを倒されたため、士気がガクッと下がったのだろう。

 完全にリンタローたちに恐怖心を抱いていた。



 一人の野蛮人が近寄ってきた。


「な、なぁ・・・、もう悪さはしねえと約束するからさ・・・。 ここは見逃してくれねえか・・・?」


 体をガクガクさせながらそう言った。

 リンタローとムサシに見られて、冷や汗をかいていた。

 しばらく二人は黙っていたが、まずムサシが喋り出した。


「この場所にいた女性たちや、金をちゃんと置いてけ。」

「あ、ああ、約束する・・・!」


 ビクビクしながら答える野蛮人。

 それを見つめながら、リンタローは近付いた。

 そして優しい声色(こわいろ)で、答えた。


「もう二度と悪さはしないでください。 ボクは本当は戦うことが大嫌いですから。」

「わ、わかった・・・。」


 野蛮人はそう答えると、一目散に町だった場所から離れていった。

 途中で(ふところ)に入れていた金袋を地面に放り投げた。


 その光景を見て、次々と野蛮人たちが町だった場所から去っていった。

 数人が失神していた㷟廻風を抱えて運んで出て行った。



 これによって、リンタローたちは蛮族を撃退することに成功した。



「いつも思うけど、本当に逃がしていいのか?」

「彼らを捕まえてくださる組織はありませんし、殺すわけにもいきませんから・・・。」

「まあ、そうだけど・・・。」


 話し終えると、リンタローは光の中へ包まれた。

 光が消えるとリンタローの姿は白い存在ではなく、元のローブ姿へと戻った。


 そして、そのまま町だった場所を出て行こうとした。


「あ、あの、待ってください!」


 声がした方を振り向くと、そこには一人の女性がいた。

 女性は二人を見つめていた。


「奴らを追い払っていただき、本当にありがとうございました。」


 女性は深くお辞儀をした。


「待ってて。 いつか世界を平和にして見せるから。」


 ムサシは女性に手を振りながら、そう言い放った。

 その言葉を聞いて、女性は顔を上げた。


「あの、お名前だけでも教えてもらえますか・・・?」


 女性の言葉に二人は互いに顔を見合わせた。

 しばらくして、ムサシの方が前に出てきた。

 すると、ムサシはフードをとって素顔を見せた。


「僕の名前は"ムサシ"だ。」


 ムサシは中性的で女性にも見える顔つきだった。

 直後に見せた笑顔が似合うくらいには。


 ムサシは名乗り終わると、上半身だけ後ろに向けてリンタローを見た。

 リンタローはなにも言われずとも、その意味を理解した。

 リンタローも前に出てフードをとった。


「はじめまして、"奈良輪(ならわ)凛太郎(りんたろう)"と申します。 リンタローとお呼びください。」


 またしても胸に手を当てながら喋った。


 しかし、女性は若干引いていた。

 なぜなら、リンタローの顔に問題があったからだ。

 リンタローの顔は、まるで「悪魔」のように不気味だったからである。

 作った笑顔が、さらに怖さを増している。


 女性はなんとか表情を戻して、彼に微笑んで見せた。

 結構な恐怖心を胸に秘めて・・・。



 リンタローとムサシは再びフードを被り、町だった場所を去って、旅の続きをし始めた。






 突如この世界に現れた青年、"奈良輪(ならわ)凛太郎(りんたろう)"。

 㷟廻風との戦いの際に見せた、強大な力。

 そして、謎の白い姿。


 彼の正体は、異世界に転生してきた青年。

 強大な力の正体も、神から授かったモノ。



 彼がどうしてこの世界へやってきたのか・・・?

 あの時に見せた強大な力の正体とはなにか・・・?

 ムサシとはどうやって出会ったのか・・・?

 そして、彼はどういう人間なのか・・・?


 その真実に関してはいずれ話そう。

 今しばらくは、彼らの旅路を見守ってほしい。






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