表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

電車と俺とOL

作者: どんC
掲載日:2020/07/16

 ガタタンガタタン……


 はっと目を覚ます。

 どうやら俺は眠っていたらしい。

 あっやべ!

 ヨダレ垂れてた。

 袖でごしごしとヨダレをふく。

 俺は電車に乗っている客を見る。

 5・6人ほど椅子に腰かけていたり、窓の所に立って外を見ている。

 誰も俺がヨダレを垂らして寝てたことに、気が付かなかったようだ。

 一安心。

 キャンパスでオサレ大学生な俺がヨダレ垂らしてたなんて。

 大勢の女の子をガッカリさせる訳にはいかない。

 はい。

 嘘です。

 オタクで童貞で暗いと言われてます。

 年齢=彼女いない歴です。


 ガタタンガタタン……


 窓の外はすっかり暗くなっている。

 見慣れぬ町の中を電車は走っていく。

 あれ?

 環状線じゃない?

 俺はいつこの電車に乗ったんだ?

 ?

 今日は教授が急用で授業が早めに終わったから、オタク仲間と秋葉に行ってブラブラして飯食って。

 それから皆と別れて電車に乗ったんだったな。

 俺は時計を見る。

 うん。

 大丈夫5分ほどうとうとしただけだ。


 ガタタンガタタン……


 バチッ‼


 隣の車両から音がした。

 思わず音のした方を見る。

 隣の車両は電気が消えて真っ暗だ。

 ざわざわと隣の車両からざわついた声がする。

 声はやがて悲鳴と怒号に変わる。

 何が起きたのかわからぬまま、俺は隣の車両の暗い窓を見る。


 びしゃり‼


 窓に大量の血が飛び散った。

 ドアが開いた。

 サラリーマン風の男が血まみれで倒れ込む。


「た……助けてく……」


 男は俺の方に手を伸ばす。

 しかし男の手は手首から先が無かった。

 ボタボタと滴る血が床を赤く染める!

 俺は金縛りにあったように動けない。

 ぱたりと男の手が床に落ち。

 その眼は絶望に染まっていて。

 男は死んだ。


 何故? 


 どうして?


 その答えを探す前に男の体は隣の車両ひ引きずりもどされ。


 ぴしゃりとドアが閉まる。


 あれは……何だ?


 サラリーマンを引きづり込んだ幾本もの白い手は女のものだったが。

 異常に長かった。

 それに爪は獣のように黒く曲がっていた。


 グッチャグッチャ……


 ドアの向こうで何者かが咀嚼する音が聞こえた。

 一つ二つじゃない‼

 十は超えている。


「きゃあああぁぁ」


 眼鏡をかけた小太りのOLが悲鳴を上げた。

 それを皮切りに皆は呪縛から解けたように悲鳴を上げ。

 反対側のドアに殺到する。


 バチッ‼


 今度は俺達がいる車両から音がして、闇が訪れる。

 闇の中から幾本もの白い手が蠢く。


「次は~◯◯駅~◯◯駅~」


 その声と共にドアが開いた。

 四角い光が皆を照らす。

 俺は転がる様にしてドアから逃げ出した。

 さっき悲鳴を上げた小太りのOLも転がり出て来る。


 ブッシュ~~


 電車のドアは俺達二人だけを吐き出すと直ぐに閉じられた。

 光を失った二つの車両と三つ目の車両に逃げ出す人達。

 そして電車は轟音をたてて俺達の前から走り去った。

 荒い息と共に俺は立ち上がった。

 よく分からんが。どうやら助かったみたいだ。


「えっと……立てますか?」


 床にへたりこんでいるOLさんに手を差し出した。


「あれは……なに?」


 震える手でずり落ちた眼鏡を元にもどすとOLさんは俺に尋ねる。

 俺は首をふる。


「分からない。ただやばいことが起こっている」


 携帯を取り出し警察に電話するが、直ぐに舌打ちをした。


「圏外になっている。位置情報も使えない。ここは何処なんだ?」


「きさらぎ駅じゃないみたいよ」


 冗談交じりに彼女は答えた。

 OLさんは駅の看板を指差す。

 ひらさかと書かれている。


「ひらさか……環状線にこんな駅在ったっけ?」


「環状線? 何を言っているの? 私が乗ったのは松山の坊ちゃん電車よ‼️」


「……俺東京の大学に通ってるんだけど……今日は友人達と秋葉で遊んで環状線の電車に乗ったんです……」


「私は松山でクラス会があってひさしぶりに坊ちゃん電車に乗ったの……ウトウトして……あら……一緒に乗ったノンちゃんとサッチーは何処に行ったの? 先の電車には居なかった」


 OLさんは黙り込んだ。


「兎に角ここを出よう。駅の中の公衆電話で警察か駅員さんに連絡しなくちゃ……」


「ええそうね……ここは……地下鉄?」


 いつの間にか俺達は地下鉄にいた。


 えっ? 


 ちょっと待ってくれ。さっき俺達は古びた駅に居なかったか?

 駅名を見る。

 よもつ駅と書かれている。


「……兎に角あの階段を上ってみよう」


「ええそうね」


 俺達は階段を登る。

 凄く長い階段だ。

 上っている間誰にも会わない。


 さっきの駅名は___ ひらさか ___


 ここの駅名は___ よもつ ___


 ひらさか ___ 平坂 ___


 ─── 平良坂 ───


 よもつ ___ 黄泉 ___


 ___ 黄泉平良坂 ___


 いやいやいやいやいや。


 偶然偶然有り得ない。


 そんな馬鹿な‼


 さっきからOLさんが黙っている。


「あ……疲れました? 少し休みますか?」


「あ……はい……ちょっと疲れた。少し休みたい」


 俺はリュックを階段に置きタオルをその上に置いてOLさんを座らせた。

 俺は直に階段に座り込む。

 俺も疲労根倍しているようだ。

 さっきから訳の分からない事ばかり起こっている。

 頭も少し痛い。


「えっと俺の名前は草薙命くさなぎみことって言うんだ。貴方は?」


「あ……私は……」


 彼女が名を継げようとした時。


 ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼


 この世のものとは思えぬ声が下からした。

 闇の中からあの白くて長い幾本もの手が這い上がってきた。

 闇の中、ギラギラした赤い幾つもの目が俺達を見ている。


「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 俺はOLの手を掴むと階段を駆け上がる。

 リュックは階段に置き去りだが仕方ない。

 階段を駆け上がるとそこは迷路の様な通路があった。

 俺達は迷路の中を無茶苦茶走り回り何とか白い手から逃れられた。


「はあはあはあはあ……」


 喉が渇く。焼け付く様だ。

 目の前に自販機があった。

 震える手で俺は財布を探す。

 リュックは置き去りにしたが。

 ズボンのポケットには小銭入をいつも入れているんだ。


 チャリンチャリン


 小銭が吸い込まれていく。


 ガッコン


 そして紅茶が出てくる。

 俺は紅茶をOLに渡す。

 自分用にお茶を買う。


「ありがとう……ナミよ……」


「えっ?」


「私の名前は伊澤奈美いざわなみって言うの。さっき名前を言いそびれたでしょう」


「あ─そう言えばあの化け物が来たから聞きそびれたんだった」


 俺は苦笑する。


「本当になんなんだろう?」


 自分の声が震えているのが分かる。


「【きさらぎ駅】でも【お猿の電車】でもないみたいね」


「都市伝説に詳しいんですか?」


「さっきクラス会でホラー好きの子達が盛り上がってたの」


「あの……松山にいたって……」


「貴方は東京にいたんでしょう?」


「悪夢の共有なのか?」


「【エルム街の悪夢】のような? 夢で死ぬと現実に死ぬ?」


「ここは夢の世界?」


「さっきの駅の看板見ました?」


「ひらさか駅だったわね」


 俺は頷き。


「もうひとつの駅の看板を見ましたか?」


「あ……ごめんなさい。見てないわ」


「よもつ駅って書いてありました」


「まさか‼️ 黄泉平良坂」


「もし俺の推測が当たっているなら……ここがあの世とこの世の境なら」


「この世とあの世を塞ぐ大きな岩があるの?」


 俺はゴクゴクとお茶を飲んだ。

 喉がカラカラでお茶は美味しかった。

 OLさんも紅茶を美味しそうに飲んでいる。


「大岩を見つけられたら帰れる?」


「多分」


「なら大岩を見つけなくっちゃ」


 俺達は立ち上がった。

 東京駅の地下街の様な場所をどんどん歩いて行く。

 幸いあの化け物は襲ってこない。


 あれ?

 何か忘れていないか?

 何だっけ?


「あの白い手は鬼女?」


 奈美さんが俺に尋ねる。


「あ~神話にあったな~~何だっけ? 地獄の鬼女が連れ戻そうとするんだっけ? よく思い出せないや」


「日本神話ね。ギリシャ神話にもよく似た話があったわね。妻を取りもどそうとあの世に行くけど、結局二人共失敗するんだったわね」


 暫く奈美さんは考えて答える。


「日本神話では物を投げて助かるんだったわね。【三枚のお札】みたいに投げたものが色々川になったり、山になったりして追手の邪魔をするんだったわ」


 いきなり広い空間に出た。

 よく東京の人間は東京ドーム何個分って言い方するが、優に東京ドーム三個分の広さだ。

 壁に取り付けられた松明が赤々と大岩を照らしている。


「どうやらここみたいだな」


 俺は大岩の側によるとペタペタと岩に触る。

 大岩にはしめ縄がしてあり、ひんやりと冷たく。

 俺はゾッとした。

 何故だかこの岩を触ると嫌な気持ちになる。

 よく見るとあちらこちらに血が付いている。

 あの鬼女達はここまで来たのか?

 この血は哀れな犠牲者のものか?

 急がねばならない。

 大岩の隅の方に人一人入れる亀裂を見つけた。

 俺は奈美を先に滑り込ませる。

 奈美は小太りなので途中で引っかからないか心配だ。

 彼女はよく見るとバックを持っている。

 それがつかえて上手く進めないみたいだ。

 俺は彼女からバックを取り上げる。


「ち……ちょっとそのバック高かったのよ」


「俺が持っているから先に進んでください」


 グイグイと奈美を押す。


「失くしたら弁償してもらうからね‼」


「ハイハイ」


 俺は頭にバックを乗せて奈美を押す。


 ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼


 またあの地を這うような怨嗟の声がする。

 全てを憎み呪い絶望したような声。

 俺は振り返りあれと目が合った。

 振り乱した白い髪の下赤々と燃えるような瞳。

 白い腕が蜘蛛の様な体から10本生えている。

 足はない。

 女と分かるのは老婆の様な垂れた胸が見えたからだ。

 正直見たくなかった。

 そんな鬼女が100体(匹)? はいる。

 図体がデカくて割れ目には入れないようだ。

 鬼女の群れは腕を伸ばす。

 腕はするすると伸びて俺の足を掴もうとする。

 俺はそれに奈美のバックを投げつけた。

 バックはパカリと開いて中身をそこら中にばらまいた。

 白い腕は俺を追わず、ぶちまけられた化粧品を拾う。

 悲しい女の性を見たような気がした。


 俺達は走る走る走る。

 やがて眩しい光があふれ出て。










「ここは?」


 白い天井を見つめた。

 知らない天井だ。

 天丼ではない。

 カーテンを開けた看護師と目が合う。


「先生、患者さんが気が付いたみたいです」


 バタバタと足音がして医者が病室に入ってきた。


「気が付いたんだね」


 医者はホッとした表情を見せた。

 医者がライトを俺の目に向けて反応を見る。


「ここは?」


「ここは中央病院で、君は駅の階段から転がり落ちて、この病院に運び込まれたんだよ。一週間ほど意識不明だったんだ」


「一週間も‼」


 医者は笑うと両親に連絡すると出ていった。

 俺はぱたりとベッドに倒れ込む。


「夢……だったのか?」


 連絡を受けた両親に俺は滅茶苦茶怒られた。

 一週間して退院した俺は大学に戻り。

 オタク仲間と馬鹿やっている。

 半年たったある日のこと。


「あれ? 誰かいる?」


 アパートの前に誰かいた。

 あのOLさんだ。

 奈美はにっこり笑うと。

 手を差し出した。


「弁償して」


「はっ? えっと……何を……」


「あのバックと化粧品よ‼ 高かったのよ‼」


「あ……松山から取り立てに来たのか?」


「弁償するって言ったでしょう‼ 別にあんたの事心配して来た訳じゃないわよ」


 どうやら奈美は心配して探してくれたようだ。

 俺はクスリと笑い。


「今日バイトの金が入ったんだ。驕るよ」


「ご……誤魔化されないんだからね‼」


「何喰う? 近所に旨い店があるんだ」


 プリプリ怒る奈美を引っ張って店に入る。


「おや命くん彼女かい?」


 女将さんが笑って俺を迎えいるてくれた。


「彼女じゃ無いです」


 奈美は顔を真っ赤にして否定する。


「女将さん。何時もの2人前で」


「あいよ」


 女将さんはカウンターの向こうで元気に返事をしてくれた。


「ここのサイコロステーキ美味いんだよ」


 俺は奈美に笑顔を向けるとおしぼりで手を拭いた。


「誤魔化されないんだからね」


 奈美は女将さんが出したサイコロステーキと野菜スープとポテトサラダを完食する。


「良い食いっぷり」


 奈美は零れる笑顔を俺に向ける。


「バックと化粧品、弁償してね❤」


 うん。誤魔化せなかった。







「ただいま~~~腹減った~~~」


 今日の晩飯はサンマと大根サラダとわかめの味噌汁だ。

 腹が鳴る。

 俺は奈美と結婚した。

 年上かと思った奈美は同い年で、奈美は高校を卒業すると直ぐに働きに出たそうだ。

 奈美は孤児で施設で育ったそうで、高校の時に簿記の資格を取得したんだとか。

 俺はサラリーマンになって、朝晩チャリをこいで会社と家を往復している。

 あれ以来電車に乗っていない。


「美咲ちゃ~~~ん。パパでちゅよ~~~」


 ベビーベッドの中に天使がいて。

 俺と奈美と美咲は幸せに暮らしている。


 ピンポ~ン♪


「あっ……俺が出るよ」


 ドアベルが鳴って大家さんがやって来た。


「これヨーロッパに行ったお土産❤」


 大家さんがベルギーのチョコを渡してくれる。


「大家さんそのバック凄く高そうですね」


 何気なく俺は大家さんのバックを見る。

 奈美が無くしたバックに似ている。


「んふふ。いいでしょう~~~。貰ったの~~~」


 大家さんはキャッキャッとバックを見せびらかす。

 いくつになっても女は女だと思う。


「奈美、大家さんにお土産貰ったよ~~」


「大家さんありがとうございます」


 俺は奈美にチョコレートを渡す。


「大家さん。お返しに糠漬けきゅうりをどうぞ」


 急いで奈美は冷蔵庫から糠漬けの入ったパックを渡す。

 その時美咲が泣き出した。


「あらあらおしめが濡れたのね。貴方おしめを変えてあげて」


 俺は慌てて美咲を抱いて奥に引っ込む。

 その時奈美は大家の耳元でぼそりと呟く。


「あんたそれあたしのバックじゃない」


「えへへ。伊邪那美様~~もう私のもんだもん。みんなも拾った化粧品返さないって~~」


 大家はニマニマと笑い。


「お邪魔様~~~❤」


 と出ていった。

 ぶう~~と奈美は頬を膨らます。

 でも……

 と奈美は考え直す。

 愛しい人を取り戻せたのだ。

 ならば、バックと化粧品は安い物だろう。


「奈美~~~飯にしようぜ~~」


 オムツを変えた愛しい男がやって来る。

 伊邪那美は伊邪那岐に輝くような笑みを返した。






 ~ 完 ~



 ***************************

 2020/7/26 『小説家になろう』 どんC

 ***************************

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 駅名で「ほぉ~」となり、主人公の名前で「お?」となり、OLの名前で「!」となり、ラストで「おぉ~!」となりました。(表現力がなくて申し訳ない。) 素晴らしいホラー!!
[一言] 心構えなくよんだのでホラー展開のところにびくっとしました笑 イザナギさんと、イザナミさんだったんですね笑全く気づかなくて、最後にびっくりしてしまいました(*´꒳`*)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ