第六十二話 エルフの反逆者 クラロア戦①
私はリノアに告げる。
冷たいようだが、これが最善の手である。
「不可能だ。反逆者たちの命を助けることはできないし、助けるつもりもない」
一時的に反逆者を捕えることがあっても、最後には死刑となる。
それだけの犯罪を彼らは行った。当然の報いだ。
それに加え、この街のエルフにとってもその選択肢はありえない。
ここで犯人の首を差し出さないと、エルフ全員が共犯だと疑われかねない。
ただでさえ差別されているのである。下手をするとこの街から追放される。
リノアが唇を噛みしめる。
この男も馬鹿ではない。それを理解はしている。それでも言わずにはいられなかった。
甘く、あるいは優しい男である。
周囲のエルフたちも同情を込めた目線を送る。
まともな精神を持っているなら、犯罪者だろうと同胞を殺すのはためらわれる。
「お前が無理だというのなら、私とムラサキが始末をつける。エルフたちは後ろで支援を頼む」
クラロアはリノアにとって、敵であると同時に同胞かもしれない。
だが私にとっては憎むべき敵そのものだ。
元から命を助ける理由など存在しない。
反逆者全員が強いはずがない。
数人無力化するだけならば、私たち二人だけでも可能だ。
「いいですね。足手まといになるくらいなら、いない方がましです」
珍しくムラサキが正論を言った。
戦いにおいてためらいは死に直結する。
ためらいながら戦っては、実力の半分も発揮できない。
短い付き合いだが、リノアは優しい男ということがわかった。
できれば死んで欲しくはない。
「気遣いは無用。クラロアは元同僚だ。エルフの罪はエルフがけりをつける」
迷いを吹っ切るようにリノアは前を向いた。
エルフたちがその後に付き従う。
意地か。
なるほど、それも悪くないな。
「反逆者たちが潜んでいるのはこの辺りのはずだ。皆気を引き締めてくれ」
リノアが緊張した声を上げる。
私たちは森の深部にまで立ち入っていた。
木々は見上げるほどに高い。緑の枝に遮られて、日光が差し込まない。
真昼にもかかわらず薄暗くなっている。
普通の冒険者はここまで森の深部に入り込むことはない。あくまでもモンスターから人間を守るのが冒険者の仕事だからだ。
モンスターを退治するだけでは金にならない。依頼する人間がいてこそ金になる。
森の深部に立ち入るような人間自体がめったにいないのだ。
「探索スキルを頼む」
エルフとギルド派冒険者たちに指示を出す。
標的に近づくほどにこちらも発見される危険が増える。
できるならば先にこちらが敵を発見したい。
奇襲が行えるならば、任務の難易度は劇的に低下する。
だが敵も隠れ潜む身。最大限の警戒をしているに違いない。
もし先に発見されたら200人を相手にすることになる。
その場合は森の中を退却しながら戦うしかない。
「嗅覚強化スキル発動」
「視覚強化スキル発動」
それぞれのスキルが発動される。
私たちも戦闘態勢を取る。
もし逆に奇襲されたら自ら盾となって彼らを逃がさなければならない。
その責任が私たちにはある。
「うぐっ!?」
嗅覚強化スキルを発動してしたエルフが苦痛のうめきを漏らす。
「どうした! 敵がすぐそばにいるのか!?」
急いで周囲を観察する。
だが敵の影はみえない。
エルフは震える手で森の奥を指さした。
「こ、この奥に大量の死体のにおいする」
そう言った途端、エルフは尻もちをついた。
このおびえ方、尋常ではない。
死体のにおいをかぐのは、はじめてではないだろうに。
そのおびえが他の人々にも伝わる。
戦闘経験の浅いものほど腰が引けている。中にすでに逃げようとしているものさえいる。
これでは満足に戦うことはできないだろう。
元々彼らは戦力に入ってはいない。反逆者の捜索までが役目。
これからは私たちの出番だ。
「よし。私たちが様子をみてくる。君たちはここで待っていてくれ」
私はメイスを片手に歩き出す。
迷うそぶりもなく、ムラサキも続く。
「リノア。お前もくるか?」
「ああ、当然だ」
少し歩いたところに開けた場所があった。
大きなテントがある。たき火の跡が点々とみえる。
大勢の人が生活していた痕跡が残っている。
これまでの情報から、間違いなくこの場所で反逆者たちが暮らしていた。
問題は。
テントやたき火のすきまに、大量の白骨が転がっていることだった。
遠くからみると、まるで雪が降り積もったような光景にみえる。
「どういうことだ……」
リノアがぼうぜんとつぶやく。
白骨化していることから、死んだのはだいぶ前。
おそらく事件が起きた直後ぐらいだ。
この状況から考えられることは1つしかない。
「口を封じられた」
ここに来るのが遅すぎたのだ。
「真相を闇に消すために事件の黒幕に殺されてしまった。反逆者たちが全員死ねば事件の証拠も消える」
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