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第六十一話 森林捜索


 「があああああ!!」


 オークの巨体が沈む。

 盛大な地響きが巻き起こり、周囲の木や草が揺れる。


 倒れたオークはピクリとも動かない。

 完全に沈黙している。


 

 「これで終わりか」


 私はメイスについた血を布でぬぐう。

 知性のないモンスターはスキルを使えない。

 モンスター相手ならば、攻撃スキルを使えない私でも戦うことができる。



 「物足りませんね。もっと強い敵でないと」


 ムラサキが不平を言う。

 サムライにとって弱い敵と戦うことは不名誉なことなのだ。

 冒険者にはわからない感覚だ。冒険者にとっては、無傷で勝つことこそ最上の結果に他ならない。



「ムラサキ。本番はこれからだ。厳しい戦いになるかもしれない。気を引き締めろ」


「ああ。そうでしたね。実に楽しみです」




 私たちはエルフの反逆者を捕まえるために街の外の森にきていた。

 だが、私とムラサキは探索のためのスキルが使えない。

 反逆者の大まかな位置はわかっている。それでもこの広大な森では、スキルなしでの捜索は不可能に近い。 

 


 10人ほどのエルフも同行している。

 もともとエルフは森の民。こういった森での行動は人間よりも優れている。


 それとギルド派冒険者も数人協力してくれている。

 もっとも彼らは私たちに協力しているのではなかった。

 生き残りの少女エルゼのため、というのが動機である。



 

 森の奥から鎧がこすれる音とともに、エルフの騎士リノアが顔を出した。

 この男がエルフ側の代表である。今日もあいかわらず完全武装をしている。

 明らかに重そうだが、この男なりの理由があるのだろう。


 一度戦った相手だ。わだかまりがないといえば嘘になってしまう。

 それでもお互いに表情に出さないだけの分別はある。



 「そちらのオークはどうだ? 無事に倒せたか?」


 一応聞いたものの、それほどには心配はしていない。

 リノアもそれなりに強い。たとえ一人でもオークに遅れを取るはずがない。

 他のエルフや冒険者たちは強くはないが、集団で戦えば問題はないはずだ。



 「あ、ああ。無傷で倒せたよ」

 

 リノアがわずかに言いよどむ。


 「どうした? 他に問題が発生したのか?」



 即席のパーティー。それも人間とエルフが混じっているのだ。

 何が起こってもおかしくはない。



 「いや、特に問題はおこっていない。傷を負ったものもいない。ただこんなに簡単にオークが倒せるとは思っていなかったのでな。オークといえば、この辺りのモンスターの中でも強い部類だ」



 森に入る前に襲ってくるだろうモンスターについて対策を話した。

 それが上手くいきすぎたことに疑問を持っているのか。



 「私はモンスターの駆除が本職だからな。いくらエルフが森の民でも負けはしないさ」



 オークは巨体で力も強いが、動きはにぶい。頭もよくない。

 そのため遭遇したら戦うよりも逃げた方がいい。逃げながら罠をはれば無傷で倒せる。

 それをエルフたちに教えたのだ。真正面から戦うなど馬鹿のすること。

 

 有効な罠はモンスターによって違う。

 私一人で考えたものではない。冒険者の先人たちが少しずつ改良した技術である。



 リノアが肩を落とす。


 

「このようなモンスター退治のやり方があったのか。エルフといえども、何世代も街での暮らしが続いている。私たちは森の中で生きる知恵を失いつつある」



 だからこそ、リノアはエルフの誇りにこだわっているのだろうか。

 いや、これ以上立ち入ることは止めよう。

 エルフの誇りそのものを馬鹿にする権利は私にはない。





 オークの退治が終わり、森の中の移動が再開された。

 エルフの反逆者がいると思われる場所はもう少し先のようだ、

 まだまだモンスターは出るだろう。気は抜けない。



「その点、クラロアはどこまでもエルフであるということ捨てなかった。私のように中途半端でいられたのなら、こんな事件を起こさなかったものを」



 先を歩くリノアがぽつりと言った。

 ほんの一瞬、周囲を歩くエルフに動揺が走る。

 


 「反逆者のリーダーだな。どのような男なのだ?」


 「今となっては残虐な殺人者でしかない。だが事件を起こす前は、エルフの騎士であった。何度も共に剣の稽古をした」


 

 となると、200人の中にはエルフの騎士も数人含まれているはずだ。

 反逆者どもと話し合いなどできない。する気もない。

 それほど彼らの犯した罪は大きい。


 

 「強いのですか?」


 ムラサキ嬉しそうに聞く。

 この場で楽しそうなのはムラサキだけだ。


 「剣の稽古ではほとんど勝ったことがない。腕は私よりも上だ」


 「なるほど。楽しめそうですね。ではクラロアとやらの相手はわたしとあるじ様にお任せください」



 勝手に私も戦うことにされている。

 戦わなければならない可能性はもちろんある。だが別の方法もあるはずだ。

 200人を相手にしたら、こちらも無傷ではすまない。



 「ムラサキ。勘違いするなよ。私たちに必要なのは反逆者たちの命ではない。焼き討ちの犯人であるという決定的な証拠だ。それさえあれば、いくらでも援軍が呼べる」


 

 ギルド長ピンスにエルフが犯人だと話したが、取り合ってもらえなかった。

 ピンスは冒険者が犯人だと固く信じている。

 それを覆すには決定的な証拠が必要だ。


 決定的な証拠があれば、派閥の冒険者たちも争いをやめざるを得まい。

 そうすれば圧倒的な戦力で犯人を討伐できる。



 「例えば、反逆者を数人だけでも捕まえればいい。街に運んで自白させれば、状況は変わるはずだ。私たちが手を下さずとも全員が死刑になる」


 

 ムラサキが何か返答する前に、急にリノアが振り返った。

 その目にはすがるような光がある。

 

「ほ、他に道はないのか!? お前は恐ろしいほどに賢い。命だけは助けられないか!? 罪を犯したとはいえ、同胞が殺されるのは耐えられない!」

 


 あまりにも今更な言葉であった。



 エルフの騎士、リノア。

 やはりこの男はどこか甘い。


ブクマ、評価をいただけると作者のモチベが上がります。

どうかよろしくお願いします。

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