第五十九話 夕食会
エルフの長老による夕食会が始まっていた。
テーブルには豪華な食事が並べられている。
私とエルゼは手を付けないが、ムラサキだけは平気な顔で食べている。
「この街ではエルフは少数派なのじゃ。決して目立ってはいけない。この場にいるものたちは、それをよく知っておる」
エルフの長老が口を開く。
周囲のエルフたちがうなずく。いずれも老人だ。
エルフの騎士リノアの姿はみえない。
外で建物を守っているか、魔力を使いすぎて動けないのだろう。
その代わりにエルフの若者が数人壁際に立っている。
長老たちの警護のつもりか、それとも私たちへの牽制か。
「しかし、それが我慢できないエルフもいた」
「この事件の犯人か」
隣でエルゼが身を固くする。
両親を殺した犯人が明らかになるのだ。苦しいだろう。
それでも両親の仇を取るためには避けては通れない。
エルフの長老がため息を吐く。
その表情は苦渋に満ちている。
「連中はこの街でのエルフの立場を変えようとしていた。そのためなら暴力を使うことさえ辞さない。革命だなんだといっていたが、なんとも粗暴な奴らだった」
この街のエルフの立場を考えれば、反発するものも当然出てくる。
今回の事件はその連中の暴発だったのか?
「だがエルフの立場を変えたいのなら、狙うべきは力を持った人間だろう。なぜエルフの村を焼く必要がある?」
しばしの間、エルフの長老は沈黙した。
長老はこの街のエルフの取りまとめ役である。反逆者のことを話すのは、自らの無能をさらすことに他ならない。
周囲のエルフも黙ったままだ。まるで葬式のような雰囲気が漂う。
「……誰かに……そそのかされたようだ。エルフの村を焼けば莫大な報酬が払われると」
結局は、金か。
金のために同胞を殺したのか。
「あの連中は人間を憎むと同じように、儂らも憎んでいた。革命に参加しない臆病者だとな」
エルフのさらにその少数では、この街のバランスは変えることなどできない。あらゆる力が足りない。
金さえあれば仲間のエルフが増える。傭兵も雇えるかもしれない。
革命は成功する。たった村1つの犠牲だけで。
そう、そそのかされたに違いない。
どうしようもない奴らだ。
「まさか連中がそこまでやるとは、誰も思わなんだ。金のために同胞まで手にかけるとは……」
「連中は何人いる?」
そいつらを捕まればこの事件はほぼ解決する。
そそのかした黒幕ごと報いを受けさせてやる。
「200人ほどだ」
深夜に200人の同胞が完全武装で奇襲してくる。
村の住人は完全に油断している。まさか同胞が殺しにくるとは思わない。
村は焼かれ、エルゼを除いた村人は皆殺しにされる。
全ての理屈が合う。
犯人はこの反逆者どもだ。
黒幕も気にはなるが、まずはこの反逆者たちを捕まえることだ。
捕まえれば黒幕につながる情報も集まってくる。
たとえ敵が200人でも、Sランク冒険者のような強すぎるものはいない。
ギルドの低ランク冒険者も協力してくれる。200人だろうが戦い方はある。
「連中はどこにいる? 200人となると、この街では2か月も隠れ切るのは不可能だ」
それを聞いたエルフの長老は頭を抱える。
どうやら本当の問題はここからのようだ。
人間である私たちに助けを求めるほどに、困難な問題が待ち受けている。
「わからない。行方不明となっている」
街の周囲には広大な森が広がっている。身を隠す場所はいくらでもある。
しかしそれでも200人である。200人が森で生活したら、誰かにみつからないはずがない。
「エルフの国に逃げ込んだのでは?」
「それはない! 向こうにも確認したが、そんな連中の入国はなかったとの返答がきた。国が連中をかばうことなどあり得ない」
ならば黒幕がかくまっているのか。
あるいは。
「連中と付き合いのあったエルフもいる。それらの情報をまとめると、反逆者たちの逃げて行った方向はだいたいわかっている。しかし…」
「怖いのか?」
エルフの長老がはっとしたように顔を上げる。
先ほどよりも老け込でしまったようにみえる。
この街にいるエルフでは、たった200人を制圧することさえできないのだ。
あるいはそのための犠牲が大きすぎて二の足を踏んでいる。
かといって放置したままでは、冒険者同士の戦争がおきてしまう。
その後で反逆者たちが街に戻ってくるかもしれない。
自ら犯人を捕まえるならば、まだ傷は少ない。
だが戦争が起こった後で犯人がエルフと知られてしまったら。
自らをおそろしく困難な立場に追い込んでしまっている。
「怖くはない。いや、正直に言おう、やはり恐ろしい。儂らは多少差別されてもいい、たた平穏に暮らしたいだけなのだ」
「事情はわかった。私たちが協力するには条件がある」
村を焼いた反逆者たちを捕まえる。
黒幕を暴き出す。エルゼの家族の仇を取る。
その方針はもう決まっている。
もう一つ。
この場で絶対に解決しなければいけないことがある。
「なんだ? わたしたちではできることに限りはあるが」
長老の隣に座っているエルフがおそるおそるといった調子で聞いた。
「あなたたちは、エルゼのことをどう思っているのだ? それをお聞きしたい」
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