第五十七話 長老との対話
リノアとの戦いは決着した。
エルフの騎士は立ったまま気絶してる。着ている鎧は血に染まっている。
それでも、その姿にはエルフの意地のようなものを感じる。
おそらく致命傷はない。
だが放置すれば命にかかわる可能性もある。
「ムラサキ。とりあえずリノアを止血するぞ。それから街へ運ぶ。冒険者ギルドならば回復スキルを使える冒険者もいるだろう。話を聞くのはそれからだ。」
私たちは回復スキルが使えない。
そこがこのパーティーの重大な欠点だとわかっている。
わかってはいるが、今のところどうしようもない。
私は防壁作成スキルしか使えない。
ムラサキは使えるはずなのに、勉強しようともしない。
「めんどうですね。この男は重そうですよ」
確かにリノアは背が高く、体格も立派だ。
大量に血を失ってさえ重いに違いない。
だが、お前が回復スキルをおぼえればこんな苦労はしなくてすむのだ。
回復スキルは比較的簡単におぼえられる。一般人でも使えるスキルなのだ。
お前にだけは不満を言う権利はない
と思うのだが、口には出さない。ここでムラサキと喧嘩するのは時間の無駄だ。
「鎧を脱がせれば少しは軽くなるだろう。やっとつかんだ手がかりだ。ここで失うわけにはいかない」
「その必要はありませんよ」
いつの間にか小さなエルフの老人が立っていた。
一瞬前までは、その場所には誰もいなかったはず。
透明化スキルか。それとも私の知らないエルフのスキルか。
私とムラサキは即座に戦闘態勢を取る。
まだ敵が残っていたのか?
エルフの老人は両手を上げる。
楽しそうな表情はしている。それがかえって不気味な印象を与える。
「おっと、戦う気はありませよ。そもそも戦えません。なんたって老いぼれですからね」
エルフは人間とは年の取り方が違う。
老人ともなると、少なくとも数百年は生きているはずだ。
「一応この街のエルフの取りまとめ役をしていますが、強いわけでも賢いわけでもありません。年だけを取った愚かものですよ」
エルフの老人はリノアの方に静かに歩き出す。
私はエルフの老人にメイスを突きつける。
「お前が黒幕か」
「黒幕……ですか。騎士リノアをあなた方と戦わせた黒幕なら、確かに私です。しかしこの村を焼き討ちさせた黒幕というなら違います」
エルフの老人はリノアの前までくると、手をかざした。
そして、そっとつぶやく。
「回復スキル発動」
ためらいなく人間のスキルを使用する。
話を信じるなら、この老人はこの街のエルフでは一番の大物だ。
それがためらなく人間のスキルを使うとは。よほど人間の中で過ごした時間が長いのだろう。
老人の手が光りはじめる。
それとともにリノアの体も光に包まれる。回復スキルによってリノアの傷が治っていく。
これならばわざわざ街に運ぶ必要もない。
「リノアはこの街でのもっとも強い戦士の一人でした。それをこうもあっさりと倒すとは。あなた方は実にお強い。認めましょう、あなたがたは素晴らしい冒険者です」
「わたしたちを試した、というわけですか。冒険者たちだけでなくエルフの組織も腐ってますね」
ムラサキの言葉にも老人は笑顔を崩さない。
だが、その目に寂しさのようなものが映る。
「その通りです。私どもは腐っています。同胞がたくさん殺されても、考えるのは己の保身だけです」
私は問う。
「焼き討ちの犯人を知っているのか?」
「知っています」
エルフの老人は長い長い息を吐いた。
保身か。
確かにエルフが焼き討ちの犯人であると知られるのは良くはない。
この街ではエルフは少数派だ。焼き討ちはエルフは凶暴であるというイメージがつく。
間違いなく今よりも暮らしにくくなる。避けたい事態ではあるだろう。
私たちに声をかけた理由もわかる。
この街にはさまざまな勢力が入り組んでいる。そこに助けを求めては大きな借りができるのだ。
その点、私とムラサキは冒険者ではあるがどの勢力にも属してはいない。扱いやすい。
今のこのタイミングなのは冒険者の派閥が激突する寸前だから。
戦争が起こってしまえば、エルフにも大きな被害が出る。
だから犯人を隠したままではいられなくなった。
そんなところか。
激しい怒りが心を焼く。
なんという、身勝手さだろうか。
私たちのことはいい。
リノアが襲ってきたことも許す。
だがこの村に眠る500人はどうなる。
たった一人生き残ったエルゼはどうなる。
自己保身のためにエルゼを助けようともしなかった。
それは、もはや組織が腐っているとしかいいようがない。
「ですがこの街でエルフが暮らすということは、そういうことなのですよ。息をひそめて生きるしかないのです」
「知ったことか」
私にこの街に詳しくない。エルフの苦しみを理解するなど不可能だ。
この街の大多数が人間である。エルフは長い年月苦しみながら暮らしてきたのだろう。
ある意味、今回の行いも生きるための知恵と呼べなくもない。
それでも、エルフの保身を許すつもりはない。
許すさないだけではない。
この事件は私が必ず解決してみせる。
結果的にエルフに損害を与えることになるかもしれない。
しかしそれはしかたがないこと。
真実は真実。曲げるわけにはいかない。
なによりもエルゼを助けなければならないのだ。
エルゼにはもう誰も残ってはいないだから。
「わかっております。我々が罪深い行いをしたということは。それでもなお、あなた達にお願いしたい」
この街のエルフの代表は私たちに言う。
「私たちエルフと手を組んで…。いや、もっと正確に言いましょう。私たちを助けていただけませんか?」
頭は下げなかった。
この老人には背負っているものが多すぎるのだ。
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