第五十六話 エルフの騎士リノア戦④
リノアはエルフの騎士と名乗っているが、人間の街で暮らしている。
だから人間のスキルを使えて当然といえば当然といえる。
あくまでスキル自体は技術体系でしかない。使うことそのものはどの種族でもできる。
だがこれまでの戦いでエルフのスキルしか使おうとしなかった。
エルフの誇りを何よりも大切してきたはずだ。下手をすれば戦いの勝敗よりも。
それが今、人間のスキルを使っている。
私たちに追い詰められて、エルフの誇りを捨てたのか。
「加速スキル発動!!」
リノアは人間のスキルを発動する。
そして全力でムラサキから距離を離そうとする。
リノアはこれまでの戦いで相当な傷をおっているはずだ。だがまだ戦いを諦めてはいない。
スキルの性能は互角。
だが負傷している分、わずかにムラサキの方が早い。
リノアが持っている剣を投げつける。
ムラサキの心臓を正確に狙っている。
ムラサキがそれを弾く。弾かざるを得ない。
弾いた分だけ距離が開く。
リノアが叫ぶ。
「魔法スキル発動! サンダーストーム!!」
それもまた人間のスキル。
大多数のエルフは魔法スキルの方が得意だ。接近戦で戦うエルフは少ない。
リノアはこれまで剣を中心に戦ってきた。騎士ならば剣で接近戦をするのが当たり前。
それなのに、ここにきて戦い方自体を変えてきた。
なりふり構わずこの戦いに勝つ気だ。
リノアを中心に風が巻き起こる。円形に激しく流れ、リノアを守る。
風は雨を呼び、雷がまとわりつく。
リノアの姿がみえなくなる。それほどに激しい嵐。
本来嵐はスキルを使ったものの周りにしか起きない。
自分の身を守るための防御スキルだからだ。
しかし、リノアの周りの嵐はさらに拡大していく。
焼けた建物ごと周囲を飲み込みそうな勢いだ。
リノアは前衛職としてはそれなりに強い。だがあくまでもそれなりだ。
明らかに魔法スキルの方に才能がある。
この規模のサンダーストームは誰にでもできることではない。
嵐をみたムラサキは止まろうとする。
しかし急には止まれない。勢いがつきすぎている。
「防壁作成スキル発動!」
私はムラサキの前に防壁をはる。
雷の嵐を完全に防御できるような巨大な防壁だ。
私の防壁は嵐程度では破壊されるはずもない。
ムラサキは私の防壁に手をつき、強引に止まる。
バリバリと雷が鳴っている。それでもドンッという低い衝突音が響く。
私はそこへ走りこむ。
遠距離でのスキル戦ならば、私でも戦力になることができる。
ムラサキが黒い目を向ける。
「あと一押しというところだったのですが…。面倒ですね。これでは近づけません。あるじ様、何か策はありますか?」
「ある。持久戦だ」
この状態ならば攻撃できない代わりに、こちらも攻撃されない。
私の魔力量は膨大。リノアとの魔力の消耗戦ならば勝機はある。これだけの嵐を維持するには多くの魔力が必要だ。
「また持久戦ですか。待っているわたしは退屈でたまりません。別の手はありませんか?」
「戦いに退屈とか持ち込むな。もっとも勝つ確率が高い戦術を取るだけだ。それとも他にもっと有効な手はあるか?」
「わたしは考えるのは苦手なのです。考えるのはあるじ様のお役目です」
しれっと言いやがって。この野郎。
やっぱりムラサキに戦い以外のことを期待してはいけない。
その時、リノアの嵐が弱まりだした。
嵐の規模が少しずつ小さくなっていく。
姿はみえないが負傷が限界にきたのか?
スキルに魔力を使いすぎたのか?
それとも私たちを誘っているのか?
わからない。手持ちの情報では限界がある。
事実を知ることはできないが、間違いなく好機ではある。
こちらは無傷だ。多少は強引な手が使える。
あと一押し。
この部分だけはムラサキのいう通りだ。
「よし、ムラサキ。この嵐がおさまったら、突撃しろ。それで決着をつける」
「おまかせください。必ずやあるじ様のご期待に応えてみせます」
ムラサキが嬉しそうに笑う。
待たなくてよくなったのが、よほど嬉しいらしい。
まったくサムライというものは。
どんどん嵐が小さくなっていく。
リノアの姿がうっすらとみえるようになる。
立ってはいる。しかし動かない。
絶好の好機。
「今だ! 行け!!」
私はムラサキに向かって叫ぶ。
「加速スキル発動」
ムラサキが突撃する。
この戦いでムラサキもかなりの量のスキルを使った。魔力量も減っているはずだ。
それでも加速速度は衰えない。恐ろしい速度でリノアに突撃していく。
リノアは反応しない。
立ったまま動かない。
ムラサキはカタナを抜刀する。
すでにカタナの射程圏内。
しかし、カタナは首の皮一枚のところで停止した。
ムラサキがカタナを鞘に戻す。
つまらなそうに息を吐く。
「どうした!? なぜ攻撃を止める?」
ここからでは何が起きているのかよくみえない。
わかるのは、リノアが動かないということだけだ。
ムラサキが視線をリノアから外す。
私の方へ歩き出す。
「この男はすでに意識を失っています。負傷が限界を超えていたのでしょう」
そうか。立ったまま気絶しているのか。
すでに勝負がついていた。
あるいは負傷が限界を超えていたからこそ、人間のスキルを使ったのかもしれない。
ムラサキが言う。
「初めから人間のスキルを使っていたら、もっと際どい戦いだったのかもしれませんね」
そうかもしれない。
と、私も思う。
戦いにもしもは存在しないとしても。
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