第五十六話 エルフの騎士リノア戦③
ムラサキとリノアが同時に走り出す。
それぞれのスキルによって加速していく。
すでにリノアはかなりの負傷をしているはずだ。
だが、まだ心は折れてはいない。
その顔は闘志にあふれている。エルフの騎士を名乗るだけある。この程度の負傷では戦闘不能にはなってくれない。
「エルフをなめるなぁ!!」
リノアが叫ぶ。
その姿には当初あった余裕など消えている。
私たちを強敵だと認めたのだろう。
「なめてなどいません。あなたが負けるのは、あなた自身が弱いからですよ」
ムラサキがその言葉を斬って落とす。
サムライには相手の事情など関係ない。ただ純粋に目の前の戦いに向き合っている。
直線的に加速していたリノアがななめに進路を変える。
ムラサキもそれに応じる。
二人は並走する形になる。
リノアはムラサキに抜刀スキルを打たせない気だ。
あの抜刀スキルだけはSランク冒険者にすら通用する。サムライの魂そのもの。
並走しながら、二人の間に激しい斬撃が交わされる。
目に追うのすら難しい。それほどの速さ。
一撃一撃にはそれほど力は込められていない。速さに特化された斬撃。
この高速の戦い。
私ではムラサキに加勢することはできない。
防壁作成スキルを発動するには数秒かかる。
その間に交わされる斬撃は数十回。とても状況に変化についていけない。
下手に防壁をはると、かえってムラサキを追い詰めかねない。
手が出せない。現状は純粋な一対一の勝負になっている。
それでもわかる。
この戦いはムラサキの勝ちだ。
エルフと人間。どちらも同じようなスキルを発動している。
しかし負傷に加えて、スキルの性能差がある。
身体を強化するスキルでも人間のものの方が優れているのだ。
わずかではある。わずかであるが、この高速の戦いでは致命的だ。
少しずつリノアが押されていく。
血が飛び散る。全てが軽傷であるが、積み重なれば戦闘不能になる。
容赦なくムラサキがカタナを振るい続ける。
ここで手を抜くムラサキではない。
リノアはそれを防御するのが精一杯。
押し込まれて、走りながらも後退していく。
このまま押し切ればムラサキの勝ちだ。
前衛職の接近戦ではスキルの性能差こそが勝敗を分ける。
人間同士の戦いでも変わりはしない。それは戦いの常識。
それをリノアも知っているはずだ。
人間の街で暮らしているのだから。それでもなお、エルフのスキルにこだわっている。
だからこそ、最初からこの戦いに負ける気はしなかった。
私たちは低ランク冒険者ではない。
Sランク冒険者にはおよばなくとも、それなりには強いのだ。手加減したエルフの騎士に負けるはずがない。
「がぁ!!」
リノアが力任せに剣を振った。捨て身の斬撃。
その剣を受けたムラサキと距離ができる。
「スキル発動!! 六花散華!!」
リノアの体がぶれる。
そして6体に分裂してムラサキに襲いかかる。
エルフの幻術スキル。
6体のうち5体が幻影。
「…っ!」
ムラサキの動きが止まる。
戸惑っている。幻術系スキルに慣れていないのだ。
私は叫ぶ。
「ムラサキ!! 一番右が本物だ!」
このエルフの幻影スキルには致命的な傷がある。
あくまでも幻影を出しているだけなのだ。確かに幻影はリノアそのものである。
今も傷ついたリノアを忠実に再現している。
見た目では本体と幻影を分けるのは不可能。
しかし逆にいえば、完璧なのは見た目だけ。
本体が出す音や臭い、闘志までは再現されていないのだ。
だから知識があれば見分けるのは簡単。対幻影スキルは知識量がものをいう。
そのスキルが通用するのは、知識を持たない人間だけだ。
人間の幻影スキルは高位になると、それらの要素さえ埋めようとする。
音や臭いを再現する。その分、見分けるのが難しくなる。
飽くなき戦いへの欲望。
それこそが人間のスキルを進化させたのだ。
一瞬の迷いもなかった。
ムラサキが一番右のリノアに突撃する。
もし私が間違っていたら、ムラサキは無防備で攻撃を受ける。
それでもムラサキは迷わない。どこまでも私を信じている。
リノアの顔が驚愕にゆがむ。
5体の幻影が消える。
ムラサキの動きが止まった分、スキルを宣言する時間はある。
しかしどのエルフのスキルでも対処はできる。
対処しながら削っていけば、いずれは勝てる。
リノアの体は血にまみれている。
私たちに削られ続けて大量の血を失っている。
それに比べて私たちは無傷である。
圧倒的に私たちの有利。
もはや戦いをどう終わらせるかという局面だ。
リノアの戦闘不能はもうすぐだ。そう確信する。
しかし。
追い詰められたエルフの騎士リノアは叫んだ。
「加速スキル発動!!」
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