第五十五話 エルフの騎士リノア戦②
防壁ごしにエルフの騎士リノアと向かい合う。
私の防壁がリノアの剣を防御している。
リノアが防壁を壊そうと剣に力を込める。
ギリッギリッと剣がきしむ音がする。
だが、その程度では私の防壁を破壊することはできない。
魔力が切れないかぎり、どんな攻撃も防ぐことができる自信がある。
今はった防壁はそれほど大きくはない。しかし大きさなど強度には関係ない。
「なぜ防壁が壊れない!? たかが防壁スキルなのに!」
リノアが動揺する。
ああ、たかが誰でも使える防壁作成すきるだ。
だがそこには私の全てが込められている。
私はリノアに言ってやる。
「先ほどのスキルはエルフ特有のものだろう? それでは私たちには届かないぞ」
スキルの技術は人種ごとに異なる。
エルフにはエルフの。人間には人間の。ドワーフにはドワーフのスキルがある。
それぞれがはるか昔からスキルの技術を守っている。
しかしこの100年、人間側のスキルの技術は驚異的に発展した。
それこそが人間が力を増した理由。
今ではエルフの国を圧倒するほどに国力が増している。
「黙れ!!」
リノアが大声で否定する。
怒りに燃えた目で私をみる。エルフの誇りを傷つけられると過剰反応せざるを得ない。
それは間違いなくリノアの精神的な弱点だ。
戦いにおいて、弱点をつくのは当たり前のこと。
私に注目させれば、他のところはおろそかになる。
「わたしを忘れてもらっては困りますね」
今度はムラサキが突進する。
私の防壁のわきを抜け、カタナに手をかける。
すでに万全の態勢。
ムラサキがカタナを抜く。
「…っ!?」
再び高い金属音が響く。
かろうじてリノアの剣が間に合った。
しかし不意を突かれた分、態勢が不十分であった。
カタナの力を完全に受けきれず、後退する。
リノアはその勢いを殺さず、そのまま後方へ飛ぶ。
距離を取って仕切り直すつもりだ。
ようやく私たちが簡単な敵ではないと認識したのかもしれない。
「逃がしません。加速スキル発動」
ムラサキが追撃する。
一歩ごとにムラサキが加速していく。
わずか数歩で人間の限界を超える。
その速度にリノアは付いていけない。
意表をつかれたように目を開く。
やはり、リノアは甘い。
こうして戦ってみるとわかる。実践経験が不足している。
この国は平和だ。モンスターと戦う以外に戦いが少ない。
この街のエルフを守るのが騎士の仕事らしい。
しかしエルフが差別されているといっても、殺し合いまでは存在しない。
あるのは小競り合い程度であろう。それでは実践の力は磨かれない。
「抜刀スキル発動」
リノアに十分接近したところで、ムラサキが次のスキルを発動する。
ムラサキの持つ最も攻撃力の高いスキル。
一閃。
リノアの胸が一文字に切り裂かれ、血が飛び散る。
立ってられず、地面に膝をつく。
やはりどこまでも二対一の差は大きい。
一人が守り、一人が攻める。数が多い方はそれができるのだ。
圧倒的な実力差があれば、問題ない。
しかし私たちとリノアの間にそれほどに差はない。
「おっと、あやうく殺してしまうところでした。やはり手加減というものは難しい」
ムラサキがカタナをしまいながら言う。
「しかし、あるじ様のいいつけは守れましたかね」
「まだ…だ! 負けるわけにはいかない。エルフの誇りにかけて」
リノアが立ち上がろうとする。
身にまとっている鎧はすでに赤く染まっている。
「ふむ。頑丈ですね。エルフというのは耐久力が高いモンスターなのでしょうか?」
いや、エルフの体はほとんど人間と同じだ。耐久力に違いはない。
よほど着ている鎧の性能が良いのか。
それともムラサキが手加減しすぎたのか。
いずれしろ、なおも立ち上がる執念だけは認めなければならない。
私はムラサキの方へ走り出す。
「ムラサキ! 油断するな!!」
戦いとは最後まで何があるのかわからない。
油断して格下のモンスターに殺される冒険者を何度もみてきた。
「わかっています。サムライは油断などしませんよ」
ムラサキが薄く笑う。美しく恐ろしい。
こういう時のムラサキは戦いの化身ようにさえ感じる。
「スキル発動! 俊足草花!!」
リノアが叫ぶ。
そして剣を構えたままムラサキに突進する。
一歩ごとにリノアが加速していく。
人間の加速スキルと同じようなスキル。
身体能力を強化するスキルはどの亜人も持っている。
それだけ便利で、習得するだけの価値があるスキルなのだ。
ムラサキは楽しそうに笑う。
その笑みが本物であることを私だけは知っている。
「おもしろい。受けて立ちましょう。加速スキル発動」
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