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第五十三話 エルフの騎士

 私とムラサキは歩く。焼き尽くされたエルフの村を。

 死に絶えた村は変わりようがない。

 最初に訪れた時と同じ姿を私たちの前にさらしている。



 「以前は私も冒険者がこの村を焼いたのだと考えていた。カーライルのような狂ってしまったSランク冒険者がこの街にもいたのではないかと」



 カーライルは辺境の街で虐殺を行った。この村を焼くだけの能力も十分にあっただろう。

 この街にいるという二人のSランク冒険者もおそらく同様。

 

 だからこそ、ギルド長ピンスは派閥の冒険者を疑っている。



 「だが、エルゼは証言した。多くの人数が焼き討ちに関わっていると。少なくとも100人程度が村を襲っている」


 「よくわかりませんね。それがどうしたのです? 冒険者が100人村を襲った、それだけでは?」


 ムラサキが疑問を口に出す。

 


 確かに各派閥の冒険者は100人以上いるはずだ。

 だから人数は問題ない。その他のところに違和感があるのだ。

 冒険者ではないムラサキに理解できないのも無理はないが。

  


 「冒険者とはモンスターを狩るのが仕事。人殺しは専門ではない。エルフを500人以上殺したら、精神が持たない人間が出てくる」



 冒険者は兵士ではない。

 人殺しをする力はある。しかしそれに慣れてはいないのだ。


 

 「100人以上の冒険者が関わって、今でも秘密が保たれているなどということはあり得ない。100人以上の冒険者全てが、良心を持たない怪物のはずがないのだから」


 

 ただ500人を殺しただけではない。

 子供から老人まで皆殺しである。


  

 1人ならわかる。この世界に怪物は確かに存在する。

 だがこの街に100人が集まるはずがない。

 大多数の冒険者は普通の人間だ。大量の殺人には耐えられない。



 どんなにSランク冒険者が締め付けようと無駄。

 絶対にどこからか漏れ出してしまうに決まっている。

 人間とはそれほど精神的に強いものではないのだ。


 

 ちゃんと調べればすぐにわかるはずのことだ。

 この街の人間は事件から己の利益を引き出すことしか考えていない。



 「ムラサキ。この辺りの焼けた建物をみてみろ。焼けてはいるが大きく破壊されたものはない。これはSランク冒険者の強大なスキルによって破壊されたものではない」



 焼けた建物からは2か月たっても焦げた臭いがしている。

 それでも建物の原型は残っている。Sランク冒険者のスキルなら跡形もなく破壊されていただろう。



 ムラサキが足を止める。

 考え込むような表情になる。



 「なるほど。一理はあります。しかし、まだまだ根拠のない予想にすぎません。あえてSランク冒険者がスキルを使わなかった可能性だってありますから」


 ムラサキが指をさす。

 そこには焼けた塔のようなものが立っている。


 「みてください。あれは見張り用の塔でしょう。それに加えてこの村はぐるりと壁で囲まれています」



 エルフはこの国では差別されている。

 馬鹿にされるだけならばまだいい方だ。危害を加える人間さえいる。

 エルゼの村はそういった人間を避けるために建てられたらしい。


 ゆえに人間の村よりもはるかに防御力を高く設計されている。


 

 「エルゼさんの話では村人たちはかなり強かったらしいですね。それを一夜にして全員殺すのはかなりの力が必要です。それを考えると、はやり犯人は派閥の冒険者しかいないのでは?」


 

 そうだ。それが問題なのだ。

 唯一にして絶対の派閥の冒険者たちが犯人であるという根拠。



 それを崩さずして先に進むことはできない。

 証拠はまだない。しかし予想はある。



 「それは正面から戦った場合だろう。不意打ちすればそのハードルは下がる。そうだな。例えば夜中にあらかじめ村の中に入れていた相手が襲ってくるとか」

 

 「それこそあり得ませんね。エルフは人間を警戒していました。夜中に人間を村に入れるなど…」



 ムラサキの黒い目が私をみる。

 目が合う。ムラサキの瞳がわずかにゆれる。


 

 「まさか」



 「そうだ。少なくとも実行犯は人間ではなかったのかもしれない。もし犯人がエルフだったのなら、全ての理屈は合う」



 エルフは人間に対しては警戒するが、その分同族には甘くなる。味方は同族しかしないからだ。

 そして同族に裏切られたのなら、いかに村の防御を固めようとも意味をなさない。

 


 そもそもはじめから疑問だったのだ。

 なぜ、冒険者はエルフの村を焼いたのか。

 そこにどんな利益があったのか。


 冒険者は損得にこだわる人種だ。

 これほどの大事件である。捕まったら死刑はまぬがれない。

 それでもなお実行するなら、そこには莫大な利益がなければならない。



 それが、どうしてもみつからなかったのだ。

 たかが派閥争いでこれほどの危険を犯せるはずがない。 

 冒険者の派閥が損得を考えないほど狂ってしまったとも思えない。



 「面白いですね。一応理屈は通っています。証拠はあるのですか?」


 「今のところはない。だが、これから調べる価値はあるだろう」


 

 エルフが犯人だと仮定する。

 この街のエルフの数は少ない。証拠はすぐに出てくるだろう。

 100人以上のエルフが、焼きうちに関わっていることになるのだから。




 

 「それは困るな」



 

 男の低い声が響いた。

 

 即座にムラサキが戦闘態勢に入る。

 私もメイスを取り出す。



 ムラサキが気配に気づかないとは。

 あの男はなかなかの強さを持っている。



 

 男が一人。

 焼けた建物の陰から出てきた。


 一目でエルフとわかる。

 鎧を着て、剣を腰に差している。完全武装。


 

 「エルフを調べられるのは困る。止めてももらおうか」



 エルフの男は私たちに近づいてくる。

 隙はない。和やかに会話できる雰囲気でもない。



 私はメイスを突きつける。


 「お前、ここで襲ってくるとは。この事件の犯人を知っているな?」



 エルフの男は無言のまま、剣を抜いた。


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どうかよろしくお願いします。

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