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第五十二話 疑念

 村の生き残りエルゼの証言を聞き終わった。

 残念ながら、直接犯人につながるような情報はない。

 エルゼは犯人の顔をみていない。決定的な証拠も。


 だがそれはあらかじめ予想できたことだった。

 2か月たっても事件が解決しないのだ。決定的な証拠があるはずもない。

 

  


 それでも、エルゼの証言は無駄ではなかった。

 




 私たちはギルド長ピンスに会いにきていた。

 ピンスは依頼人なのだから、クエストの進み具合を報告する義務がある。



 ムラサキはギルドの建物の外でカタナを振っている。

 暇さえあれば抜刀の稽古をしているのだ。それこそがムラサキの強さ。


 エルザもそこにいる。

 ムラサキをまねて、剣を振っている。

 しかしエルフの子供である。その姿は遊んでいるようにしかみえない。



 私はそれを止めようとは思わない。

 ムラサキも口を出さない。

 

 なぜなら私の子供のころも同じようなことをしていたから。

 強くなりたい、という思いは誰にも非難されるようなことではない。



 

 「昨日はギルドの低ランク冒険者が失礼しました」


 会うなり、ピンスは頭を下げた。

 やせた体がさらに小さくみえる。


 「しかし彼らはこのギルドに残ってくれた最後の冒険者たち。彼らまでいなくなったら、このギルドは本当に終わりなのです。だから、どうか」


 「許す許さないもありません。冒険者同士のあいさつのようなものですから。むしろ彼らには感謝してますよ。エルザを受け入れてくれましたら」


 

 ギルド派冒険者たちはエルザに深く同情したようだった。

 あれこれと世話を焼いている。まるで家族の一員になったかのように。 

 エルザの将来にとって、それは間違いなくよいことである。


 私とムラサキに対しては、まだまだ敵対心が抜けていないようだが。

 まあそれはいい。冒険者同士がなれ合う必要もない。



 

 ピンスの隣には秘書が座っている。

 長い髪の美しい女性だ。


 「ああ、彼女にはギルドの実務を任せていましてね。だからこの会合にも出席を頼みました。力のないギルドには職員もいなくなってしまうんです。我ながら情けないことです」


 

 人は金と力があるところに集まる。逆にないところからは去っていく。

 冒険者だけでなく、どの業界でも同じことだ。


 

 秘書が私に頭を下げる。

 私も返礼する。


 名乗るつもりはないようだった。

 この会合を邪魔しないという意思の表れだろうか。にこやかに微笑んでいる。



 ピンスが身を乗り出して言う。


 「とにかくエルフの村を焼いた犯人は聖女派か、大賢者派の冒険者たちに違いないのです。ギネスさんはそれを調べていただきたい」


 「まだそう決まったわけではないですが」



 事件の調査は始めたばかり。

 これだけ大きい都市だ。あらゆる可能性がある。

 一つ一つその可能性を潰していかなければならない。


 「いいえ! 決まっています! この都市で一夜でエルフの村を滅ぼせるのは派閥の冒険者しかいません!」


 ピンスが叫ぶ。



 それには一理ある。

 エルフたちも無力ではない。それを一人も逃がさずに皆殺しにするには強い力が必要だ。


 それぞれの派閥は一人のSランク冒険者が率いているらしい。

 Sランク冒険者ならばたった一人でもエルフたちを皆殺しにできる。


 

 ピンスがため息を吐く。


 「私だって、冒険者を疑うようなまねはしたくない。しかしそれしか考えられないのです」



 ピンスはギルド長である。

 冒険者を信じぬかなければならない立場にある。

 その苦悩は計り知れない。



 「ギルドでも一応は事件について調べたのです。他のSランク冒険者や名の知れた盗賊がこの都市に入った様子はありませんでした」



 その情報については私も読ませてもらった。

 これだけの大事件である。ありとあらゆる組織が事件について調べていた。 

 それなのに決定的な証拠は未だに出ていない。


 裏で何らかの力が働いているのだろうか。

 派閥の冒険者たちが黒幕でもおかしくない。


 

 消去法でいけば、犯人は派閥の冒険者でしかあり得ない。



 だが。

 


 「派閥の冒険者たちはお互いを事件の犯人であると非難し合っています。この事件を機に対立する派閥を潰すつもりなのでしょう」


 「なるほど。では派閥のSランク冒険者にも会う必要がありますね」


 突然ピンスが立ち上がった。

 そして悲鳴を上げるように叫ぶ。


 「そんなゆっくりとした調査では間に合いません! もはやいつ派閥同士の戦争が起こっても、不思議ではない状態なのです!!」



 戦争とまで表現するか。

 ならば本当にギリギリの状況なのだろう。


 確かに対立する派閥に罪を着せれば、戦う口実にはなる。

 戦争一歩手前……か。



 どうやら、残された時間はあまりないようだった。

 

 



 ギルドの外に出ると、ムラサキに声をかけた。


 「ムラサキ。事件の調査に行くぞ」



 エルゼも駆け寄ろうとするが、手を上げて止める。


 「エルゼはここで待っていてくれ。今から行くのはエルフの村の焼け跡だ。つらい記憶がよみがえってしまうかもしれない」


 エルゼが立ち止まり、苦しそうに表情をゆがめる。

 表面上は平気そうでも、真の意味ではエルゼは立ち直ってはいない。おそらく立ち直るのは数十年もの長い時間が必要にるだろう。

 時間だけがエルゼの心を癒してくれる



 私たちには事件を解決するしかできることはない。




 隣にきたムラサキが私に聞く。


 「なぜいまさら村の焼け跡へ?」

 

 「どうしてももう一度確認したいことがある」


 ムラサキが首をかしげる。

 


 私は言う。



 「この街にいるほぼ全ての人間が派閥の冒険者が犯人であると信じている。だが、本当にそうだろうか?」

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どうかよろしくお願いします。

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