番外編 エルゼの独白
わたしは思い出す。
森の木々からこぼれる日の光。朝一番の風。わたしを待つ家畜の甘えた鳴き声。
優しい両親。パンを運んでくれる隣のおばちゃん。怖い村長さん。
全てがなくなってしまった。
もう二度と、戻ってはこない。
あの夜。
わたしが知っていることなんて、ほとんどない。
ベッドで寝ていたわたしは大勢の人の声で目が覚めた。
お母さんの名前を呼ぶけど、反応はない。
それでしかたなく、窓から外をみた。
村が燃えていた。たくさんの人間の影が揺らめいている。
わたしは怖くなった。
お母さんとお父さんを家じゅう探したけれど、みつからない。
外に出るのは無理だった。子供のわたしでも理解していた。外ではなにか異常なこと起こっていると。
その時、誰かが家に入る音が聞こえた。
足音でわたしの家族じゃないことがわかる。
とっさにわたしはベッドの下に隠れた。
「魔法スキル発動。ファイヤーボール」
男の人の声がして、家全体がゆれる。
そして、男はあっさりと家から去っていった。
怖かった。怖くて怖くて。どうしようもなく怖かった。
だんだん空気が熱くなってくる。息も苦しい。せきも出てくる。
家が燃えているのはベッドの下にいてもわかった。
でも、動けなかった。
恐ろしすぎた。恐怖で体が動かない。
ますます息が苦しくなってくる。
そして意識がなくなった。
おぼえているのは、これだけ。
気がついたら、この街の病院に寝かされていた。
村で生き残っているのはわたしだけと聞かされた。
信じられなかった。いや、本当は今も信じられない。
夢の中にいるように、ふわふわしている。これは現実じゃないと。そう思いたい。
だって、お母さんにもお父さんにもう二度と会えないなんて。
いろんな人がわたしの話を聞きにきた。
でも話せることなんて、ぜんぜんなかった。
みんながっかりした顔をして帰って行く。
事件がどうなっているのか。
誰もそれを話してはくれなかった。
そのまま二か月がたった。
二人の冒険者がわたしを訪ねてきた。
事件の話を聞こうする二人をみてこう思った。
ああ、まだ事件は解決していなんだなって。
犯人はまだ捕まっていないらしい。
でも、もうどうでもよかった。
わたしはあきらめていた。何もかも。
あの村がなくなったら、わたしに生きる価値などない。
気にかけてくれる人はもう誰もいないのだから。
このまま死ねば両親の元へ行ける。
しかし、神はわたしを絶望のまま死なせてはくれなかった。
冒険者の一人がわたしに剣を突きつけたのだ。
その瞬間、わたしは思わされた。
子供だから、無力だから、村を焼かれてしまったんだって。
わたしが強ければ、村を守れた。わたしが大人だったら両親を助けられた。
それだけが、たった一つの真実。
力が欲しい。
知恵が欲しい。
もう子供ではいられない。
はじめて事件の犯人に対する怒りをおぼえた。
この胸に感情が生まれるのさえ、本当に久しぶりのことだった。
結局、わたしはその二人の冒険者についていくことにした。
これからどうなるかわからない。
後悔する日がくるかもしれない。
でも、このまま病院にいたら腐っていくだけ。
だったら前に進もう。
大人になろう。
今、私は強くなりたい。
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